社説:予備費の乱用 財政と民主主義損なう

 何のための国会なのか。

 政府はきのう、物価高対策などに2022年度予算の予備費から総額2兆2千億円余りを支出することを決めた。

 低所得世帯向けの現金給付や、輸入小麦の価格抑制策などだ。食料品やエネルギーの値上がりが続き、苦境にある家庭や事業者への支援は確かに重要である。

 昨年来の国政の焦点であり、2カ月を超える国会審議を経て、きのう参院で可決、成立した過去最大の23年度予算の柱の一つだ。

 同じ日、内閣の決定だけで使える予備費から物価高対策を講じるのは国会軽視も甚だしい。目前の統一地方選や衆参5補欠選への政府・与党のアピールに他ならず、予算の私物化が目に余る。

 現金給付は、国が約1500億円を投じて子ども1人当たり5万円を住民税非課税世帯のほか、低所得のひとり親世帯に支給する。

 加えて地方創生臨時交付金を約1兆2千億円増やし、自治体が低所得世帯に3万円を配る事業や、地方に多いLPガスの料金低減策などに充てるとしている。

 同様の給付は、昨年の参院選前後、4月の緊急対策と9月の追加対策でも予備費を用いて行った。今回も、統一地方選に向けて手厚い支援姿勢を示すべきとの与党側の要望を取り入れた形だ。

 岸田文雄首相は「国民生活や事業活動を守り抜くため、早急に実行に移す」と述べ、22年度予備費を使っての対策を説明した。

 だが、執行は実質23年度であり、自治体ごとに使い方を決める交付金は急を要しない。年度末に多額の予備費の残りを批判されないよう、駆け込みでばらまいたと見られても仕方あるまい。

 予備費は憲法87条で、予見し難い予算の不足に充てるため規定され、従来、災害復旧を想定して毎年5千億円を計上してきた。それが新型コロナウイルス対策用として20年度から膨張した。22年度は物価高対策にも広げ、補正予算で計11兆円超まで積み増しされた。異常な状態だ。

 「アベノマスク」など予備費を使ったコロナ対策のずさんさは枚挙にいとまがない。国会のチェックを受けない巨額予備費の常態化が、財政の民主主義と規律をなし崩しにしているのは明らかだ。

 「国権の最高機関」である国会は自らの存在否定を甘受し、その責務を放棄しているに等しい。これまでの予備費支出や物価高対策の効果、先行きを検証し、精査する徹底した議論が求められる。

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