病理診断をデジタル化 N Lab(エヌラボ) 現場目線で専門医の負担軽減 〈長崎の新興企業③〉

「病理AI分野で存在感を高めたい」と語る北村さん=長崎市出島町、N Lab

 病理医は、病変の組織や細胞を顕微鏡などで観察し診断する。がん患者などの治療方針を決めるのに欠かせない専門医だが、国内の医師全体に占める割合は0.76%と少ない。しかも病理医を置く病院の半数は1人しかおらず、臓器などの幅広い知識や日進月歩で更新される治療法を単独でカバーする負担は大きい。
 「N Lab」(エヌラボ、長崎市)は、こうした病理医を取り巻く課題に、デジタル化や人工知能(AI)を通じて挑んでいる。2019年に新規性や成長性を評価する「九州アントレプレナー大賞」(九州ニュービジネス協議会主催)に輝くなど、医療分野の新鋭企業として頭角を現している。
 代表の北村由香さん(44)は、長崎大学病院などで呼吸器外科医として勤務した後、15年から同病院の病理部へ転向した。起業のきっかけは新型の肺がん治療薬オプジーボ。保険適用となり、値下げによる利用促進が期待されていたが、投与を判断するために必要な「免疫染色」ができる施設は県内に少なかった。起業経験があった病理部教授の勧めもあり、免疫染色に特化した検査会社を立ち上げた。
 免疫染色事業と並行し、病理医の負担軽減につながる病理診断のデジタル化に取り組んだ。「バーチャルスライド」は、病理診断に用いるスライドガラス検体をデータ化し、長期保存や共有を容易にした。蓄積したデータをAIに学習させることで、病理診断の補助にも用いることができる。
 現在力を入れるのが、長崎大と産業技術総合研究所(茨城県)のAI「MIXTURE」を使った病理診断モデルの開発だ。MIXTUREは、病理医が診断について説明できるように、判断に至る過程や根拠を示すように設計されている。
 第1弾として、致死率が高く、診断が難しいとされる間質性肺炎の病理診断モデルを世界で初めて構築。診断の精度を90%以上にまで高めた。今後も病理医のニーズが高い疾患の診断モデルを提供していく方針。将来的には、バーチャルスライドなどのツールとも組み合わせ、病理医がクラウド上で診断できる技術の確立を目指す。
 「病理AIと言えばエヌラボとなるくらい存在感を高めたい」と語る北村さん。現在も社長業の傍ら、週一度は診療業務に携わる。現場の当事者であることが、最大の強みと自負している。

【企業プロフィル】N Lab 2017年2月、長崎大発スタートアップ企業として設立。社名には「長崎から世界へ発信する」との思いを込めた。拠点は長崎市出島町。従業員はパート含め10人。

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