「聞いてもらえてよかった」学校や家庭で聞きづらい性の悩みに寄り添う相談室 自分の体と向き合い、人間関係を豊かに

過去にLINEに寄せられた相談の再現イメージ(プライバシーを守るため、実際のものではありません)

 大阪の繁華街ミナミのカフェや婦人科クリニックが入る雑居ビルの一角に、生理や避妊など性にまつわる悩み事を聞く「相談室」がある。「生理痛がつらい」といった身近な困り事から「妊娠したかも」「避妊に失敗した」という深刻な告白まで、助産師が耳を傾ける。
 性の悩みは幼少期から晩年まで絶え間なく訪れ、学校や仕事、趣味、家庭など人生のあらゆる場面の不幸や不調をもたらす。「恥ずかしい」「我慢するべき」といった偏見から、悩みを抱え込む人も多い。そんな現状を変えようと、広がり始めた活動をリポートする。(共同通信=中田祐恵)

大阪市中央区にある「スマルナステーション」で、LINEで送られてきた性にまつわる相談に答える、助産師の神保ゆうこさん=2月14日、大阪市中央区

 ▽あなたは悪くない
 相談室の名前は「スマルナステーション」。オンライン診療で低用量ピルの処方などを手がける医療ベンチャー「ネクイノ」が2021年から無料で相談を受け付けている。
 大阪市の神保ゆうこさん(46)は助産師として、学校などでの性教育に携わる中で、学校や家庭以外の場所での継続したサポートが必要だと考え、ネクイノで働き始めた。
 ステーションの相談であらためて感じたのは、性にまつわる知識や適切な対処方法を知らない若者が多いということだ。生理や月経前症候群(PMS)の不調を「がまんしなくてはいけない」と抱え込んだり、トラブルの原因は自分にあると思い込み「ごめんなさい」「怒られると思った」と繰り返したりする姿が印象的だった。
 「性は本来、人間関係を豊かにするものです」と神保さん。正しい知識や方法を教えられないまま「性の悩みは人に話してはいけない」「性行為は悪いこと、妊娠もダメ」と決めつけられているのではないかと心配する。
 神保さんが最初にかける言葉は「あなたは悪くない」。相談者が感じたことを否定せず、その人の体を一番大事にするアドバイスを心がけている。

スマルナステーションのLINE相談やSNSにアクセスできる相談カード(上が表)。配布や設置を希望する学校などを募集している。

 ▽最年少の相談は11歳、妊娠不安の13歳も
 2020年11月~今年2月(前身の施設分も含む)に、スマルナステーションで応じた相談件数は50件を超え、半数以上は同じビルに入る婦人科クリニックと連携して対応した。
 無料通信アプリLINE(ライン)での対応もしている。約900件の相談のうち、高校生などの16~18歳が200件超を占め、中学生からの相談も50件近くに上った。妊娠したかもしれないとの不安から相談してきた13歳もいた。最年少の相談者は生理の悩みを持つ11歳だった。

 ▽避妊相談や妊娠検査も
  神保さんにこれまでに対応したケースについて聞いた。
 「避妊に失敗したかもしれない」。コンドームが破れてしまったという高校生のカップルはインターネットで調べて、スマルナステーションを通すと緊急避妊薬(アフターピル)の学割が受けられると知った。彼女らは用具を使ったコンドームの装着練習も体験して、帰っていった。
 そもそも、どうしたら妊娠をするのか、正確な知識が足りない若者も多い。「性器が触れたので妊娠したのではないか」というような話を聞くことも珍しくない。
 切迫した状況への対応もある。「望まない性行為があり、1人で妊娠検査するのが怖い」とラインでSOSを送ってきた10代の女性のケースでは、婦人科クリニックに来てもらった。学生を対象とした500円の妊娠検査を神保さんと一緒に受け、陰性反応にほっとしたのか泣き崩れていたという。
 「PMSによる気分の落ち込みやいらいらを整えるため、低用量ピルについて知りたい」。大阪府以外から訪れた高校生はアドバイスを受けて納得した後、母親を伴って再訪問。説明を受けた母親は、当初抱いていた「(低用量ピルを使うと)妊娠しにくくなるのではないか」との誤解を解消できたようだった。

過去にLINEに寄せられた相談の再現イメージ(プライバシーを守るため、実際のものではありません)

 ▽もっと早く知っていたら
 昨年10月にスマルナステーションを訪問した京都府の大学生(22)にも話を聞いた。
 相談の内容はだんだんひどくなる生理痛についてだったという。高校生の時には激しい痛みで学校を早退したこともあったが「小さな悩み」だとうやむやにしてきた。ステーションでは、子宮がん検診について相談したり、低用量ピルの服用のアドバイスを受けたりして、安心できたと話す。
 「自分の体のことをもっと分かろうという気持ちが芽生えました」と喜ぶ一方「もっと早くに相談できていたら、幼い頃から抱いてきた不安はなかったのに…」とも振り返る。学校の保健室では、先生が家族と知り合いだったこともあり、恥ずかしくて相談できなかったという。

大阪市立新豊崎中学校で、避妊や性的同意について3年の生徒に授業をする助産師の神保ゆうこさん。避妊に失敗した時などに使う緊急避妊薬(アフターピル)についても触れた

 ▽学校で教えてもらえてよかった
 性教育をめぐっては、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、人間関係や性の多様性、性暴力の防止など幅広く教える「包括的性教育」を提唱した。
 日本の文部科学省も性犯罪・性暴力対策を強化する一環として、「生命(いのち)の安全教育」を導入し、23年度からは全国の小中高校で授業を始めるように促している。最近では、幼い頃から家庭でも性に関する知識を伝える「おうち性教育」を始めようという動きも出てきた。
 ネクイノでは昨年、大阪市立新豊崎中と、性にまつわる健康相談を支援する協定を締結。神保さんが3年生約90人に、スマルナステーションでの取り組みを始め、10代の妊娠と中絶や避妊の方法、性感染症の症状や検査について講演し、キスやセックスといった性的な行為を互いが積極的に望むかどうか確認し合う「性的同意」やSOSの出し方にも触れた。
 講演後、生徒らは「家族や先生にも相談しにくいことを話してくれて、とてもためになった」「恥ずかしいと思っていたけど大切なこととわかった」「みんなが経験する性について学校で教えてもらってよかった」「まだまだ先の未来の話と思っていたが身近なことなのかもしれないと思った」と感想を寄せた。
 ステーション利用についてのアンケートでも、7割の生徒が「行ってみたい」「ライン相談を使いたい」と回答した。「家や学校以外で性に関して相談できる場所が必要」と回答した生徒も9割に達した。
 新豊崎中の担当者は「思春期の生徒がどれくらい信頼できる大人を持っているか、とても気がかりだ。トラブルが起きた時に身近な大人に相談できず、ネットでつながった人を頼ってしまうことがないように、スマルナステーションのような場所を知っておいてほしい」と話す。

スマルナステーションで助産師に無料で相談し、連携する婦人科クリニックで妊娠検査を受けることもできる。25歳以下の学生はワンコイン(500円)。若者の悩みや不安を少しでも和らげたいと、検査のアフターフォローもする。

 ▽つなぐサポートを
 スマルナステーションのモデルとなったのは、若者が無料で医師や助産師、臨床心理士など性にまつわる相談をできるスウェーデン発祥の「ユースクリニック」だ。スマルナステーション以外でも、同様の取り組みが広がり始めている。
 助産師や看護師が無料で30分間の相談に乗るユースクリニックを開いている東京都台東区の「上野皮フ科・婦人科クリニック」など、婦人科クリニックが併設する形に加え、群馬県高崎市の「ラサーナ」や東京都の「ピルコン」など、メールやラインで相談対応を行っているNPO法人もある。
 静岡県の「思春期健康相談室ピアーズ・ポケット」は県が委託しNPO法人が運営する。専門職のほか、研修を受けた大学生らが電話や対面、メールで相談を受けている。東京都も昨年、思春期の健康の悩みの相談に答える「とうきょう若者ヘルスサポート」を始めた。
 では、どうしたらこういった場所につながることができるのか。スウェーデンのユースクリニックは各地方自治体が運営する公的施設だが、日本ではこうした相談スペースはまだ認知度が低く、数が少ない上に活動形態もさまざまだ。
 多くの情報が氾濫する中で、子どもたちや若者がそれぞれにとって一番相談しやすい安全な場所をつながっていけるようなサポートのあり方が課題となっている。

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