熊野古道に資材運搬でわだち 世界遺産「新田平見道」

世界遺産に登録されている熊野古道大辺路「新田平見道」についた運搬車のわだち(29日、和歌山県串本町和深で)

 和歌山県の串本町教育委員会は29日、世界遺産に登録されている熊野古道大辺路「新田平見道」(串本町和深)について町が発注した木橋架け替え工事で、車両による不適切な資材運搬により、わだちが土道についたと発表した。本来は人力で資材を運搬しなければならないことを、委託した業者に伝えていなかったという。

 新田平見道は2016年、和深の漁港から東に登り詰めた所から左立谷に降り、旧県道に交わるまでの227メートルの区間が世界遺産に追加登録。総延長70メートルの石畳が残されている。

 町教委によると、古道にある木橋が腐食して危険な状態だったことから、架け替え工事を町内の業者に発注したが、20日、県観光振興課の職員がこの道を歩いた際にキャタピラのような跡があることを確認。その後、県教委文化遺産課から町へ連絡があり、業者に確認したところ「小型クローラ運搬車」を使っていたことが発覚。運搬車が通行したことにより、土道に100メートルほどの薄いわだちが残されたという。

 工事には、文化財保護法に基づく「現状変更許可申請」が必要で、町は資材の運搬を人力で行うという内容で許可を受けていた。しかし、この業者が過去にも古道の工事を請け負い、資材についても人力で運搬するなど問題がなかったことから、発注者として工事方法の確認や文化財としての指導を怠ったという。

 町教育委員会の濵地弘貴教育次長は「申請では人力としていたのに、それをきちんと伝えられていなかったのは落ち度で、こういう事案を発生させてしまったのは非常に申し訳ない。再発することがないよう文化財の適切な管理、指導に努めたい」と話した。県教委文化遺産課などに相談し、手続きを取った上で復旧させる予定という。

 世界遺産登録に尽力した「熊野古道大辺路刈り開き隊」の隊長で、町文化財保護審議会の委員長も務める上野一夫さん(74)=串本町中湊=は「このような事態になったのは残念。役場と業者との間にはっきりした意思疎通があればこういうことにはならなかったと思うので、世界遺産に対する厳しい受け止め方をこれからもっとしなければ」と話していた。

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