児玉駿斗、松尾佑介、三笘薫で変わった「大学サッカーとJリーグの在り方」とは

近年、特別指定選手指定選手の活躍や大学2、3年でのJリーグクラブ早期加入内定が増加傾向にある。

これまで出版社、新聞社、テレビ局でサッカーを取材してきた高橋アオ氏が、Jリーグと大学サッカーの在り方に迫る連載企画を執筆。

全3回のうち、初回は徳島ヴォルティスMF児玉駿斗が巻き起こした革命的な出来事に迫る。

関係者を驚かせた前代未聞の事態

Jリーグが始まって30周年—。Jリーグの発展が進むと同時に大学サッカーの在り方も変わっていった。その変遷は緩やかなものだったが、近年目まぐるしい激しさを見せている。

今回大学サッカーとJリーグの在り方が具体的にどう変化してきているのかを考察する。

各関係者から聞いた話では、児玉駿斗の存在が大きかったという。2018年3月29日に名古屋グランパスから当時東海学園大(東海1部)MF児玉の2021年シーズン加入内定が発表された。

前代未聞の大学1年での加入内定発表は、多くの関係者を驚かせたという。なぜこの出来事は関係者を驚かせたのか。それはこれまでの大学サッカーの慣例になかった事例だったからだ。

これまで大学卒業前にJリーグクラブでプレーした選手たちは、岡野雅行や那須大亮のように大学を中退してクラブに入団するケースや、長友佑都や室屋成のようにサッカー部を退部するケースが主流だった。

近年では筑波大に所属していたDF角田涼太朗(横浜FM)、FW森海渡(徳島)がサッカー部を退部し、プロとして戦った。

だが名古屋に早期内定を受けた児玉は大学サッカーをメインにプレーしながら、2018、19年は特別指定でプロの舞台で戦う二足の草鞋を履いてプレーした。

2018年シーズンの名古屋は複数の特別指定選手が在籍していた。

児玉が所属する東海学園大では、2017年12月に渡邉柊斗(JFLマルヤス岡崎)、2018年3月に榎本大輝(JFLレイラック滋賀FC)が2019年シーズンからの加入内定と2018年シーズンの特別指定選手登録を受けていた。

さらに児玉の内定から約2カ月後に早稲田大の相馬勇紀(ポルトガル1部カーザ・ピア)の加入内定が発表され、特別指定選手として名古屋に加わった。

特別指定選手の積極的採用は指揮官によるところが大きかった。

大学が安心して送り出せる制度に

児玉の加入当時の名古屋グランパスは風間八宏監督が率いていた。

風間監督は1997~2004年に桐蔭横浜大、2008~2012年に筑波大で学生選手を指導。大学生のポテンシャルや大学サッカー界の状況を理解し、コネクションもあった。

そのため同制度を難なく使いこなせたと見られている。このとき突出した戦術理解能力、ボールコントロール技術、パスセンスが光る児玉の他クラブ流出を避けるため、名古屋は早期内定に踏み切ったという。

一見リスクがある早期内定と言われるが、学生選手の本籍が大学サッカー部にある点は、選手にとって大きなメリットとなる。

川崎で指揮を執る風間監督

特別指定選手制度を活用すれば退学や退部のリスクを避けることができる。

そして同制度は2018年に指定選手の受入先クラブに、プロ選手として加入が内定している選手(契約内定選手)でなければ同制度を適用することができなくなった。

そのため、お試し的な強化指定や、クラブにとって都合のいいその場しのぎの強化指定(けが人の穴埋めなど)はできなくなった。

同制度の改定前は強化指定を受けても、クラブは選手の獲得を避けるといったケースが多発。そのため決して評判のいい制度ではなかったため、制度改定により大学側も安心してクラブへ選手を送り出せる環境となった。

早期内定がもたらした恩恵とリスク

児玉は大学でも目覚ましい活躍を見せた。2019年開催のユニバーシアードに臨む全日本大学選抜に選出され、世界一に大きく貢献した。

だがクラブでは風間監督退任より状況が一転した。守備的サッカーを好むフィッカデンティ監督の就任により児玉は冷遇された。

2018年までにプロで9試合1得点成績を残した児玉だが、新監督が就任した2019年は特別指定選手に選ばれるも公式戦出場はゼロ。そして2020年は特別指定選手に選ばれなかった。

卒業後も名古屋で出場機会を得られず、プロ2年目の2022年に徳島へ移籍した。

監督交代により戦術の変化や求められる能力も変わるため、早期加入内定選手は新体制の構想外になる恐れがある。この児玉の事例は早期内定の危うさを示してくれた。

それでも児玉のケースは不幸中の幸いと、あるJリーグ関係者が吐露した。

「もし大学を中退していれば学歴は高卒になるから引退後のキャリア形成で苦労する。

彼は(名古屋から期限付き移籍した)相模原で印象的な活躍をしていたけど、大学でも結果を残していたこともあったから徳島へ移籍できたと思うよ。

もし退部して早期内定先に駆け込んでいたら、大変なことになっていたかもしれない」

特別指定選手として大学とプロでプレーする二足の草鞋を履くスタイルは、学生選手のリスクを低減できる可能性を秘めている。

そしてこの特別指定制度の利点にいち早く気付いたクラブは、この制度の恩恵を受けることになる。

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次回は松尾佑介がJリーグに与えた衝撃と地方大学サッカーが見せた可能性を紹介する。

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