【日本三大急流】静岡「富士川」・山形「最上川」・熊本「球磨川」の特徴と共通点

日本には3万以上の河川があります。上流部から小さな河川が合流を繰り返しながら徐々に海へ向かっていき、やがて大きな河川になります。そんな河川の中でも、日本三大急流に数えられるのが、静岡県の「富士川」・山形県の「最上川」・熊本県の「球磨川」です。これらの河川はなぜ流れが速いのでしょうか? その理由に迫ります。

流域がフォッサマグナの中にあり、日本一の河口幅を誇る「富士川」(静岡県)

長野県と山梨県の境に位置する南アルプス「鋸岳(鋸山)」から流れ出て、山梨県の西部を流下し、静岡県の東部を流れ、駿河湾に注いでいる富士川。流域面積3,990平方キロメートル、幹川流路延長128kmの一級河川です。また、富士川の河口幅は1,950mで、日本一の河口幅となっています。

この川の流域は、日本列島を東西に二分する「フォッサマグナ(本州の中央部を南北に貫く大断層帯)」の中にあり、周囲は南アルプスや八ヶ岳連峰、関東山地といった2,000〜3,000m級の山々に囲まれています。このような急峻な地形と脆弱な地質構造帯を流域とするため、河床勾配は大変急。それが理由で急な流れとなっているのです。

富士川の水利用の歴史は古く、江戸時代から各所で「取水堰(しゅすいせき)」が建設され、田畑を潤すのに必要な水「かんがい用水」の確保が行われるとともに、米・塩・海産物などが舟運によって運ばれていました。さらに、急峻な地形を利用して、明治後期からは水力発電も行われていました。

現在、 富士川の利水は、農業用水と発電用水がメインになっていて、水道用水と工業用水のほとんどは地下水に依存しています。発電用水は69カ所の水力発電所で使用。総最大出力約43万kWの電力供給を行っています。

富士川は新幹線の車窓からも眺めることが可能。全長552.6kmの鉄道橋「富士川橋梁」は、東海道新幹線のなかでも最長の橋になっています。ぜひ次回、東海道新幹線に乗る際は、チェックしてみてくださいね。天候がよければ、雄大な富士山と富士川の美しいコラボレーションを楽しめます。

富士川

文人に詠われるほど風光明媚な光景が広がる「最上川」(山形県)

最上川本川は、山形・福島県境の西吾妻山(標高2,035m)から流れ出し、米沢・山形の両盆地を北流しつつ、置賜白川、須川、寒河江川などの大小支川を合流し、新庄盆地に至ると流れを西に変え、鮭川などの支川を合流しながら最上峡を抜け、庄内平野を貫流して、日本海に注ぐ、流域面積7,040平方キロメートル、流路延長229kmの一級河川です。

最上川は狭さく部(川幅が急に狭くなる場所)と盆地を交互に繰り返す地形が特徴。狭さく部の流路は、川幅の狭さや、川底の岩盤露出が見られる複雑な地形になっています。そのため、川の流れが速いのです。

盆地と狭さく部の繰り返しは、四季折々の変化に富んだ美しい景色をつくり出し、松尾芭蕉、正岡子規、斎藤茂吉などに詠われています。

また、最上川は古くから、舟運が行われ重要な交通路でした。現在、最上川水系は、その流域に山形県の約8割の人口のほか、置賜地方や村山地方といった工業集積地を有しています。河口付近は、日本有数の穀倉地帯「庄内平野」が広がり、中流部となる内陸部には、サクランボや紅花などの一大産地を形成しています。

さらに、河口部に隣接する酒田港では、中国黒竜江省間の「東方水上シルクロード」のほか、韓国などとの外貿コンテナ航路を開設。国際化に向けた取り組みも実施しています。

最上川流域の中でも随一の景観を誇るのが「最上峡(もがみきょう)」です。最上川舟下りをすれば、両岸に山が迫る四季折々のダイナミックな光景を眺めることができますよ。

最上川

48瀬の急流を下る、舟下りが地域観光のシンボル「球磨川」(熊本県)

球磨川は、熊本県球磨郡水上村の銚子笠(標高1,489m)から流れ、川辺川など多くの支川を合わせながら人吉・球磨盆地をほぼ西に向かって貫流します。盆地を抜けると、流向を北に転じながら山間の狭さく部を縫うように流れ、八代平野に出て、前川、南川を分派して不知火海(八代海)に注ぐ、流域面積1,880km2、流路延長115kmの熊本県で1番、九州で3番目に長い河川です。

険しい山々の間を流れることから日本三急流のひとつとして知られていて、「舟下り」が地域観光のシンボルになっています。「球磨川くだり」の歴史は100余年といわれ、西郷隆盛も西南の役で秘かに熊本に入るために球磨川を下ったとか。1932年には与謝野鉄幹・晶子夫妻も球磨川くだりを楽しんだとされています。

また、古くから河川水を利用して肥沃な穀倉地帯が形成されたり、発電用水に利用されたり、流域の社会経済活動を支えてきました。沿岸は球磨炭や球磨焼酎の産地でもあります。

しかし、ひとたび洪水を起こすと流域の被害は甚大です。幾度となく流域の町をおし流してきました。先人たちは球磨川に何度も治水利水事業を行いました。その伝説的な工法・構造物は現在も残っています。

球磨川の急流を体感したいのなら、やはり「球磨川くだり」がおすすめ。奇岩・怪岩が点在し、48瀬の急流を下るため迫力満点! さらにカヌーやラフティングボートでの川下りも盛んです。球磨川での川下りを体験すれば、忘れられない思い出を作ることができそうですね。

球磨川

日本三大急流の共通点とは?

いずれの川も洪水を起こす「暴れ川」として人の命を奪う危険なものでした。その反面、その流域で暮らす人々の生活を支える重要な存在でもあったのです。

この三川の共通点は、舟を航行させるうえで、取り立てて恵まれた条件はないものの、舟運の盛んだった川として知られていること。かつては年貢米や塩が中心でしたが、富士川では身延山(日蓮宗総本山)詣での人々が利用するようになり、最上川では特産の「紅花」、球磨川では「人吉の焼酎」といったさまざまな物資が運ばれるようになりました。

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