過酷な「付き添い入院」は、こども家庭庁の誕生で改善されますか? 「世の中は確実に変わる」小児科専門医の自見英子参院議員

「世の中は確実に変わる」と答える自見英子参院議員=3月13日、東京都千代田区

 幼い子どもが入院した際、保護者が病室に泊まり込んで24時間つきっきりで世話をする「付き添い入院」は、保護者の過度な負担が指摘されている。食事の提供はなく、毎食コンビニ弁当も当たり前。寝返りも打てない簡易ベッドで細切れの睡眠が続く。入院が長期に及べば、家に残した家族にも深刻な影響を及ぼす。退職せざるを得なくなるケースもあり、経済的リスクも大きい。経験した保護者からは、制度の見直しや環境改善を求める声が相次ぐが、国による対応策の検討は停滞している。
 4月に「こども家庭庁」が発足し、入院した子どもとその家族を取り巻く環境は変わるのか。小児科専門医で、子ども政策に取り組んできた自民党の自見英子参院議員に話を聞いた。(共同通信=禹誠美)

 

子どもが入院する病室=2021年8月、大阪市内の病院

▽長期入院の親のストレスは計り知れない

 ―自見さんは子ども政策を担当する内閣府政務官ですが、今回は小児医療を経験した参院議員の立場として率直な意見をお聞かせください。制度上、付き添いは原則不要にもかかわらず、子どもの精神的安定や看護師不足などを理由に、保護者に付き添いを求める病院は少なくありません。自見議員がこれまで働いてきた病院ではどうでしたか。
 「私は国会議員になる前の約10年間、小児医療の現場で働いていました。小児科病棟は大きく二つに分かれ、保護者の付き添いが基本的には不要ないわゆる『完全看護』の病院と、保護者の付き添いが必要な病院があります。私が今まで働いていたのは、いずれも完全看護の病院で、日中は保育士の方が保育を行ってくださるところもありました。保護者が付き添いを希望すれば許可していましたし、逆に、共働きで付き添いができないご家庭からこちらに転院希望があり、受け入れたパターンもありました。付き添い入院を求めるかどうかは、小児患者の状態や医療安全などの観点から、それぞれの病院が総合的に判断していると思います」
 ―小児科専門医の立場から、保護者の様子をどのようにご覧になっていましたか。
 「小児医療と一言で言っても病状はさまざまです。感染症であれば、入院期間は1週間から10日ほどですが、中には2週間から1カ月、血液疾患などは年単位の長期に及びます。重い病気のお子さんを持つ親御さんは、とにかく子どもの命を助けてほしいという一心で、自身の体調にまで気が回らないように見えました。子どもの命がどうなるか、日々極限状態にあり、そのストレスは計り知れないです。もちろん全ての保護者の負担を軽減するべきだとは思いますが、限られた予算の中で実現するとなると、長期入院の保護者に個室を提供するなど、優先的に対応する必要があると思います」

 

インタビューに応じる自見英子参院議員=3月13日、東京都千代田区

▽小児科病棟の診療報酬引き上げの議論を

 ―付き添い入院を廃止してほしいのではなく、子どものそばにいてあげたいという保護者は多いです。ただ、現状では子どもから目が離せないために、食事を買いにいくことやトイレ、シャワーすらままならない。相部屋でプライバシーがなく、極度のストレスにさらされるなど過酷です。最低限のまともな生活を送れるようにするには、どのような解決策があるでしょうか。
 「病院全体の中で小児科の診療報酬(医療サービスを受けた際に医療機関に対して支払われる公定価格)が極めて低いことがこの問題の根底にあると思います。多くの人手と時間が必要な一方で、(収入源の一つとなる)投薬量も大人に比べて少ないなど、経営上は不採算部門であるがゆえ、病床数を減らされている状況も散見されます。基本的には全ての小児科病棟で、保護者の付き添いがなくても、子どもが療養生活を送れる状況を目指すべきだとは思いますが、それにしては診療報酬が少なすぎます。小児科医長は毎月の経営会議で売り上げが低く、どの病院でも肩身が狭い思いをしています。看護師の人手も足りず、子どもがベッドから転倒しないかなど、十分な医療安全を確保できないと考える病院も多い。現場の努力だけではどうにもならないこともあります。とにかく診療報酬の単価を上げ、長期入院の家庭にはきちんと個室を確保し、保育士を雇うこと。加えて、保護者が仕事を休んでも所得が確保されることも重要です」
 ―厚生労働省は「診療報酬はあくまでも患者が受けた診療や治療などの対価として発生するものであるため、患者ではない付き添いの保護者の負担軽減を目的とした診療報酬の引き上げは難しいのではないか」との立場です。
 「厚生労働省の中の論理ではそうかもしれません。しかし、4月に『こども家庭庁』が発足し『こどもまんなか』という観点で子どもの人権を考えた時に、厚生労働省に対してはいつまで既存の論理だけを振りかざすつもりなのでしょうか、と問いたいです。子どもは保護者によるケアが必要で、切り離せない存在ということも含めた上での議論の積み重ねにしなければならないでしょう。不妊治療も病気ではないという理由でこれまで保険適用外でした。これまでやらないと言っていたことが、政治から覆されています。保護者の負担軽減のために、小児科病棟の診療報酬についても増やしていくべきという議論があっても良いと思います。今年は診療報酬改定の議論をする年なので、ぜひ議論するべきです」

「こども家庭庁」のロゴを発表する小倉将信こども政策相=1月、東京都千代田区

 ▽子どもの声が政策に反映されるように

 ―インターネット上では付き添い入院を経験した保護者の悲痛な声が相次ぎ、メディアでも報じられるようになってきましたが、国の動きは鈍いままです。 
「子育て世代のお母さん、お父さんたちの声はこれまで政治に届けられず、予算要望にも反映されませんでした。目の前の生活に忙しく、例えば自民党本部に団体で要望活動するなどできなかったからです。けれども今回のこども家庭庁の動きもネットの後押しがあったように、最近はツイッターなどSNS(交流サイト)の投稿を通じた子育て世代の声を政治は無視できなくなっています」
 ―こども家庭庁が発足し、付き添い入院の問題をはじめ、病気の子どもとその家族を巡る環境は変わるでしょうか。
 「確実に世の中は変わります。こども家庭庁の発足と同時に、子どもの権利保障を掲げる『こども基本法』が施行されたからです。国や地方自治体は、子どもの意見を政策に反映する仕組みを作るよう義務づけられました。これまで無視できた声が無視できなくなります。付き添い入院に関して言えば、例えば『パパとママにそばにいてほしかった。でも大変そうだった、かわいそうだった』というような子どもの声をくみ取れるかどうかが、今後問われるのです」
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じみ・はなこ 福岡県北九州市出身。東海大医学部卒。比例、参院当選2回。小児科専門医。

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