今年もうんざり猛暑が到来か、政府が熱中症対策に乗り出した 「特別警戒アラート」来年新設、冷房付きの施設を住民に開放…「公助」を前へ

猛烈な暑さの中、日傘を差して歩く人たち=2022年6月26日午後、東京・銀座

 熱波や干ばつ、海面上昇…。地球温暖化が進み、世界各地で異常気象が起きている。日本も平均気温が上昇し、猛暑による熱中症の死者が年間1千人を超えることも珍しくない。政府は対策に本腰を入れるため、通常国会に“熱中症法案”を提出した。強烈な暑さが予想される際の「特別警戒アラート」を新設し、自治体には住民が暑さを避ける「クーリングシェルター」として公共施設やショッピングセンターなどの民間施設を確保するよう促す。2024年の運用開始を目指す。(共同通信=出崎祐太郎)

※この記事は音声(共同通信Podcast「きくリポ」)でも解説しています。
https://omny.fm/shows/news-2/20-10-1

 ▽記録的猛暑の2010年は1731人亡くなる
 厚生労働省の人口動態統計によると、熱中症による年間の死者数は、2000年代まで全国で500人を超えることはほとんどなかった。だが記録的な猛暑となった2010年は1731人が死亡。その後も2018年、2020年は1500人を上回った。
 近年は死者が1千人を超えることが珍しくない。2022年も6~9月の概数で1387人だった。

 異常な暑さは国外でも相次ぐ。
 環境省によると、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州では2021年6月29日に最高気温49・6度を記録。この一連の熱波での死者は600人を超えた。2022年夏は欧州各地で40度を超える熱波が発生し、ドイツで約4500人、スペインで約4千人、英国で3200人以上が死亡した。
 環境省の担当者は「北海道より高緯度の欧州でも熱波が発生している。地球規模で温暖化が進んでおり、日本国内でも早めの備えが不可欠だ」と訴える。

フランス南部で干上がりひび割れした湖底=2022年8月5日(ロイター=共同)

 ▽「10年に1度」「過去に例のない危険な暑さ」で発表
 熱中症法案は、温暖化による社会、経済への影響を軽減する「気候変動適応法」を改正し、新たな施策を盛り込む。熱中症対策を法律で規定するのは初めてとなる。自民党の議員連盟は「熱中症対策推進法」という新法制定を目指したが、現行法との整合性を考慮し、法律改正で対応することにした。
 新設する「特別警戒アラート」は「10年に1度」「過去に例のない危険な暑さ」といった健康被害のリスクが著しく高まった際に環境省が都道府県単位で発表する。
 発表の判断は、気温や湿度といった当日の気象条件だけでなく、直近の天候や地域のエアコン普及率、医療体制なども加味する。具体的な基準は有識者の意見を踏まえ、2024年の運用開始までに決める。

熱中症特別警戒アラート発表の流れ

 猛暑が長期間にわたる場合や、体が暑さに慣れていない5、6月ごろの極端な気温上昇、北海道や東北などエアコン普及率が比較的低い地域での猛暑などが想定される。
 熱中症のリスク判断には、気温と湿度、日射などから算出する「暑さ指数」を使う。汗が蒸発しないと体から熱が逃げにくいため、気象条件のうち特に湿度が重視される。おおむね気温31度~35度で暑さ指数は28~31、気温35度以上で指数は31以上となる。
 現行の「警戒アラート」は2021年4月に全国運用が始まった。暑さ指数で、重症者や死者が急増する33以上が予測される場合、環境省と気象庁がアラートを発表。エアコンのある室内への移動や、運動の中止などを呼びかけている。だが地球温暖化が進めば、現行アラートでは危険性が十分に伝わらない極端な高温も予想される。

40度近くを表示するJR多治見駅前の温度計=2022年7月1日

 ▽猛暑時、公共施設やショッピングセンターへ「避難」を
 特別警戒アラートの発表と併せて、冷房設備がある施設を自治体などが「クーリングシェルター」として住民に開放する仕組みも新たに導入する。自治体の庁舎や図書館のほか、ショッピングモールなど民間にも協力を求める。利用時間などは事前に自治体が施設管理者と協議して決めておく。
 クーリングシェルターの指定は任意となり、全ての自治体に設置されるわけではない。環境省の担当者は「普段は冷涼な地域でも熱中症のリスクはある。多くの自治体で設置されるよう環境省としてもノウハウを共有していく」と強調する。
 クーリングシェルターのヒントになったのは、国内有数の厳しい暑さで知られる埼玉県熊谷市などの取り組みだった。熊谷市は2011年度から「まちなかオアシス事業」と銘打ち、暑さを避けるため6~9月に市庁舎や公民館など約20カ所を開放している。2021年度は457人が、2022年度は859人が利用した。
 また民間事業所、店舗など市内の計約120カ所を誰でも冷房を利用できる「クールシェアスポット」に指定し、飲み物、商品の割引などのサービスを提供している。
 東京都品川区や英ロンドン、カナダのブリティッシュコロンビア州などでも、住民が暑さをしのぐことのできるスペースを自治体が設置しており、これを参考にした。

埼玉県熊谷市の「まちなかオアシス事業」=2019年7月、熊谷市役所

 ▽独居高齢者の見守りも強化
 熱中症の発生場所で、最も多いのは自宅などの「住居」だ。2022年に救急搬送された熱中症患者の39・5%を占めており、「道路」(16・6%)、「公衆の場(屋外)」(11・8%)を大きく上回った。
 そのため熱中症法案では、発見が遅れやすい独居高齢者の安否を見守るNPO法人や福祉関連団体を自治体が事前指定できる規定も新設。高齢者の熱中症は重症化するリスクが高いため、油断しがちな自宅での熱中症予防にも力を入れる。
 環境省の担当者は言う。「熱中症を甘く見ず、エアコンの適切な使用や、こまめに水分を取る『自助』が大事。新たな特別警戒アラートや、避暑先となるシェルター開設で『公助』を一歩前に進めることになる」

強い日差しの中、日傘を差して歩く人たち=2022年8月1日午前、JR東京駅前

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