「G7機に、議長国日本は早急にLGBTQ+の人権守る法整備を」――11カ国の当事者・支援者らの会合で与野党議員や各国大使らが前向き議論

世界11カ国のLGBTQ+の当事者や支援者らの非営利団体などで構成するエンゲージメントグループ「Pride7(P7)」のメンバーによる初会合(衆議院第1議員会館)

5月の先進国7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前に、加盟7カ国のうち議長国日本だけが、「LGBTQ+」と表される、性的少数者の人権を守るための法整備がなされていないことに対し、あらためて国際社会の批判が高まっている。こうした状況を受け、日本はG7広島で議長国及び民主主義国家としての役割を果たし、LGBTQ+に関する課題に特化した取り組みをG7議題の一つとすること、そして国際社会と連携し足並みを揃えた取り組みを推進することを求めて、G7にタイ、ベトナム、ボツワナ、メキシコを加えた11カ国の当事者や支援者らの非営利団体などで構成するエンゲージメントグループ「Pride7(P7)」がこのほど発足。その初の顔合わせとなる会合が30日、衆議院第1議員会館で開かれ、法整備を促進する立場の与野党の議員や経済界の代表らも多数出席。G7広島を機に、日本での性的少数者の人権を巡る法整備を整えるよう議論が交わされた。(廣末智子)

広島G7を巡っては、日本を除いた6カ国およびEUの駐日大使が、LGBTQ+の人たちの人権を守る法整備を促す書簡を連盟で岸田首相宛てに取りまとめていたことなどが報道され、議長国である日本に対する圧力が強まっている。これに対して岸田首相は書簡を受領したかどうかについては明らかにしていないものの、28日の参院予算委員会における立憲民主党の辻元清美氏への答弁の中で、G7広島サミットの成果文書に、性的少数者の権利保護を盛り込む意向を表明。議長として「昨年の成果を踏まえて関係国と議論し、内容を確定していく。大きな方向性は明らかだ」と述べた。もっともLGBTQ+の人たちに対する理解増進法案ではなく、差別禁止法を求める辻元氏の訴えには、「多様性が尊重され、すべての人が互いの人権や尊厳を大切にする社会を実現する」と述べるにとどまっている。

性的少数者の課題に的を絞ったエンゲージメントグループは世界初

G7のエンゲージメントグループとは、政府から独立したステークホルダー(企業や非営利団体、市民団体など)がG7で議論される関心分野について、G7の成果文書に影響を与えるべく、政策対話や提言を行う組織をいう。性的少数者の課題に的を絞ったグループが組織されたのは今回が初めてで、実行委は日本の一般社団法人「性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」(通称:LGBT法連合会)と、公益社団法人「結婚の自由をすべての人に- Marriage for All Japan –」、「国際人権NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の3団体が務め、C7(Civil Society7)やW7(Woman7)といった既にあるグループと連携しながら活動を進める。

“初のP7サミット”と銘打った今回の会合には、グループを構成する世界11カ国のメンバーのほか、各国の駐日大使や、性的少数者を巡る法整備を促進する立場の与野党の議員、連合や経団連の代表ら約20人が来賓として出席。はじめに、内閣総理大臣補佐官(女性活躍・LGBT理解増進担当)の森雅子氏が「家族に理解されず、誰にも相談できない、性的マイノリティの方々の苦しみを聞いている。多様性が尊重され、すべての人が生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向け、こうした声を受け止めてしっかりと取り組みたい。G7広島を控え、こうしたことを改めて国内外に丁寧に説明していくことが重要だと考える」と述べた。

日本でのLGBTQ+の人たちに対する法整備を巡っては、2015年に国内で初めて、渋谷区でLGBTQ+に関する条例ができたのを機に、早期の法整備を目指す超党派の議員連盟が発足したが、今に至るまで進展はない。この間、2021年には『多様性に寛容な社会を目指し、性的少数者への理解を深める』とする「LGBT理解増進法案」が国会提出の一歩手前で見送られた。さらに一部の保守派議員や総理秘書官らによる差別発言などもたびたび問題になり、岸田総理自身も今年2月、「極めて慎重に検討すべき課題」、「家族観や価値観、社会が変わってしまう」などとネガティブな発言をしたことが物議をかもした。

与野党議員ら「G7は法整備の最大のチャンス」、各国大使は同性婚の効果強調

与野党の議員らが次々と思いを語った

会合で次々にマイクを握った与野党の議員らは、こうした流れを踏まえ、口々に日本でのLGBTQ+に関する法整備の立ち遅れを認めた。その上で、「理解増進法は法整備として初歩的な段階かもしれないが、それがないことによって、若者が自殺をしたり、職場でのハラスメントが行われている現状をこれ以上放置することはできない。G7の議長国というのは国会を動かす最大のチャンスであり、われわれも新たな一歩を踏み出したい」「日本に住むLGBTQの人たちがどれだけ権利を侵害され、生きづらいか。それを解決するために、同性婚法と差別禁止法をつくっていきたい」といった前向きな言葉が多く語られた。

各国の駐日大使らも法整備の必要性を強調した

また各国の駐日大使らは自国のLGBTQ+の人たちを巡る状況を説明。SOGI(性的指向・性自認)に関わらず差別を禁止する法律のある英国の大使は、「議会でも政府でも社会経済界においてもLGBTQ+の人たちは重要なパートナーであり、包括的な差別禁止法というものはどこにも必要だと考える」と力説、また、同性婚を認めて20年になるというオランダの大使は「この間、2万8000組以上が同性婚をし、7000組以上の人たちが子どもを持った。多くの人がより幸せになったと言える」と性的少数者を巡る法整備の必要性とそれによる社会への効果を強調した。

世界では現在、30の国と地域で同性婚が法律で認められているのに対し、日本はG7の中でも唯一、同性カップルに法的補償がなく、OECDの35カ国の中でも性的マイノリティに対する法整備の進捗具合は34位と後塵を拝している。近年は150以上の地方自治体が同性カップルに対するパートナーシップ制度を導入するなど、同性カップルの関係性を公に認める流れが急速に広がっているが、制度に結婚のような法的効果はない。一方で日本は、性的指向や性自認に関する人権を守る国連決議に賛同しており、国連人権条約機関は2008年以降、繰り返し改善を勧告している。

コミュニケは明らかに日本の義務違反が分かる内容になる

初会合を終え、記念写真に収まるP7のメンバーら

“P7サミット”はこの後、G7広島での成果文書や各国の政策に反映されるよう、各国の首脳に向けて提出するコミュニケ(声明文書)の策定のための議論が非公開で行われた。コミュニケは国際人権基準に沿って、LGBTQ+の人たちが雇用や教育、医療、政治、経済といった社会のあらゆる場面で人権を守られ、必要な法整備を求めるものになる方向で、4月中に内容を確定し、各国政府に提出する予定という。

議論の後に行われた記者会見で、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」日本代表の土井香苗氏は、コミュニケの内容について、「差別禁止法がなく、同性カップルの関係性が法的に保障されていない、戸籍上の性別変更を行うには性適合手術を受けなければならないといった、日本の3大問題が焦点となる。コミュニケの中で日本を名指しすることはないが、明らかに、日本が法的な義務違反をおかしていることが分かるものになる」と説明。さらに「G7のリーダーたちが、自国も含め、世界中のLGBTQ+のコミュニティに対するファイナンシャルな面でサポートをしていくことも大きな課題」と明かした。

広島G7 が、日本でもLGBTQ+の人たちの人権を守る法整備を促進するきっかけとなるかどうか――。議長国日本の動向を国民のみならず世界が注視している。

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