「金正恩ねらう反動勢力」軍特殊部隊で重大事件

北朝鮮のゼロコロナ政策に伴う国境警備の強化のために投入された、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の第7軍団(暴風軍団)。

国境に近づいたという理由だけで人や動物を無差別に銃撃、死に至らしめ、地元で窃盗を行うなど、評判は散々だった。彼らが最近、ある事件をきっかけに一部地域から撤収した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)の情報筋は、恵山(ヘサン)地域に投入されていた暴風軍団が先月25日から今月10日までの間に完全に撤収したと伝えた。両江道最大都市の恵山は、幅10数メートルの川を挟んで、中国吉林省長白朝鮮族自治県と向かい合い、合法、非合法の貿易で栄えてきたところだ。

撤収のきっかけとなったのは、国境に接する市内中心部から数キロ離れた蓮峯洞(リョンボンドン)と馬山洞(マサンドン)で起きた事件だ。

今月7日、銃弾の入った箱を運搬する過程で、自動小銃の銃弾653発が消えてしまったというのだ。なお、情報筋は事件発生の詳しい経緯について触れておらず、どういう状況だったのかは不明だ。

事件発覚当初、部隊はこの事実を知りながらも、まずは銃弾を発見してから報告して、事を静かに収めようとしていた。ところが、1日経っても銃弾は見つからず、蓮峯洞と馬山洞の住民に事件のことを公表し、大々的な捜索に乗り出さざるを得なくなった。

捜査に乗り出したのは、国家保衛省(秘密警察)、社会安全省(警察庁)、軍の保衛司令部の担当者。市内一体を封鎖し、住宅を一軒一軒しらみつぶしに家宅捜索した。また、見つけたらすぐに通報せよ、しなければ刑法78条の「武器弾薬非法譲渡罪」に則って処理すると警告した。

しかし、10日が経っても糸口すらつかめずにいる。捜査当局は、白頭の聖地(故金日成主席が抗日パルチザン活動を行ったこの地域を指す言葉)で行方不明になった銃弾653発が見つかるまで、恵山市への出入りを禁じるとロックダウンした。

この地域では、脱北者団体による様々な活動が行われているが、当局が最も懸念しているのは、銃弾が金日成氏関連の史跡などに対する破壊行為に使われるのではないかということだろう。万が一、そんなことが起きれば、首がいくつあっても足りないほど血の雨が降ることになるだろう。

この地域は、密入国者により新型コロナウイルスが流入したなどといった理由で、何度もロックダウンされ、流通網の寸断により、餓死者まで発生する事態となった。コロナが落ち着いたと思ったら、今度は全く別の理由でロックダウンされてしまったのだ。

両江道の幹部によると、地域住民は嫌われ者だった暴風軍団の撤収を喜ぶ暇もなく、銃弾の捜索に協力せよとの指示が下された。

捜索と捜査が行われているものの、一向に見つかる気配はなく、捜査当局は「最高尊厳(金正恩総書記)の安寧に関連した反動勢力の策動」だと、住民に捜索を急げ、さもなくば上述の刑法78条違反だと厳重警告した。銃、弾薬、武器を違法に所持、譲渡した者は3年以上の労働教化刑(懲役刑)に処すというものだ。

地域住民は、事件が円満に解決されなければ、誰かが責任を取らせて銃殺されたり、管理所(政治犯収容所)送りにされたりするのではないかと心配している。

当局は、南朝鮮(韓国)の挑発で戦争が起きるかもしれないなどと、北と南の軍事的対立を煽る宣伝を行っているが、一部の住民は、そのような状況下で起きたこの事件が、どのように終結するか注意深く見守っているとのことだ。

運搬の担当者やその上官は処罰を免れないだろう。しかし、暴風軍団に対する処分について情報筋は言及していない。軍団の本部は、遠く離れた平安南道(ピョンアンナムド)の徳川(トクチョン)。そこからの情報は伝わってこないのだろう。

もし本当に見つからなければ、「韓国の安全企画部(現国家情報院)のスパイの仕業」にしてしまうかもしれない。こうしておけば、捜査担当者も含めて誰の責任も問われないことになる可能性が高いからだ。

他にも、すでに死亡している人の責任にして、墓を暴いて遺体を引きずり出し、改めて処刑するという手法が使われた事例もある。

なお、爆風軍団全体が国境地帯から撤収したかどうかは確認されていない。元々は、コンクリートの柱に高圧電流を流したケーブルの国境地帯への設置が完了し次第、完全撤収することになっていたが、こちらは完成が遅れていると伝えられている。

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