<社説>里親解除調査報告 子どもの福祉を最優先に

 那覇市の50代夫妻が生後2カ月から5年以上育てた児童の里親委託を児童相談所から解除された問題で、児相が実親の環境を考慮せず児童を実親に戻そうとしていたことが明らかになった。実親が暮らす県外の自治体が児童の受け入れを拒否したことも分かった。外部有識者の調査委員会による報告書を本紙が情報公開請求で入手し判明した。 実親が引き取る意向があったとしても育児が困難だったとみられる。児相は児童のことを第一に考え、実親の状況もきちんと調べた上で判断したのか疑問だ。実親に戻すことありきではなかったか、県は説明すべきだ。

 報告書が指摘する「子どもの権利利益を尊重する視点の欠如」が改めて浮き彫りになった。県は第三者の評価を取り入れ、子どもの意見をくみ取る仕組みづくりに取り組むという。県は指摘に真摯(しんし)に向き合い、子どもの福祉を最優先にしてほしい。

 報告書は、実親が児童を引き取る気持ちが揺れていたとする。児相はそれに向き合わず、当初計画通りに里親委託解除を進めたとし「県の方針に従わないものは排除するという一方的な事務的対応だ」と批判した。報告書を読んだ専門家は「ケースワークとは呼べない。委託解除が目的化している」と指摘している。

 愛着の深い里親から強制的に離された児童の気持ちを思うと、いたたまれない。児童は元の里親に何度も「会いたい、戻りたい」と求めたという。児相は知事や県議会などに「(児童は)落ち着いて生活している」との説明を繰り返していたが、調査委は、一時保護所の日誌である「行動観察記録」には「それ(児相の説明)を否定する本児の悲鳴であふれている」と強調した。

 昨年1月に里親夫妻から一時保護された児童は現在、県内の別の里親宅で暮らしている。こうした生活環境の変更は、児童自らの意思で積極的に選択したものではない。

 報告書が指摘するように、愛着関係にある身近な人との強制的な離別は、児童の発達過程に影を落としたことは間違いないだろう。児童のことを第一に考えた対応とは言いがたい。姿勢を改めるべきだ。

 報告書は、当時の児相の嘱託弁護士が法的対応を前面に出すあまり福祉的な対応が置き去りにされたと批判する。その上で福祉の中に法的見立てを組み込むケースワークを提言した。里子や里親のアドボカシー(権利擁護、代弁活動)制度も必要だ。県はこれらに取り組んでほしい。

 一方、県内児相が2021年度に対応した児童虐待相談事例件数が過去最多に上った。児相の負担増は全国的な問題だ。里親支援を充実するためにも人員確保は必須だ。厚労省は24年度までに全国の児相で児童福祉司を増員する。県は政府とも連携し、子どもを中心としたケースワークの充実を図ってほしい。

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