『ブレイキング・ザ・コード BREAKING THE CODE』サラ・チューリング役 保坂知寿 インタビュー

コンピューターを発明した実在の男性、アラン・チューリングの物語が4月1日より開幕。イギリスの学者で、第二次世界大戦中、ナチスの暗号「エニグマ」を解読し、多くの命を救ったアラン・チューリング。近年では、映画『イミテーション・ゲーム』でベネディクト・カンバーバッチが演じ話題となった。
20年目という節目の年に入るゴーチ・ブラザーズが、日本で33年ぶりの上演となる本作で、気鋭の演出家、稲葉賀恵の手により今、演劇の真骨頂を。主演アラン・チューリングを演じるのは、亀田佳明。チューリングと関係を持つロン・ミラー役には水田航生
チューリングの同僚パット役に岡本玲。チューリングを戦時中の暗号解読に引き抜いた、ノックス役は加藤敬二。チューリングの初恋相手、少年クリストファー役には、若手俳優として頭角を表す田中亨。上層階級の官僚ジョン・スミス役に中村まこと。
チューリングの母、サラ・チューリングには保坂知寿。そして、強盗事件の捜査に訪れる刑事ミック・ロス役には堀部圭亮。
主人公の母親、サラ・チューリング役の保坂知寿さんのインタビューが実現した。

――初演のときの感想をお聞かせください。

保坂:初演の頃は劇団四季におりましたので、複数回拝見しています。ただ、自分も相当若かったので、難しい芝居だなという記憶があります。数学者の話で難しいと思いましたが、そこに人間が生きていく悲しさを描いたドラマ、そういう痛みみたいなものを受け取った覚えがあります。あとは、日下武史さんが私にとっては次元の違うところにいるような方なので、凄すぎてあっけにとられて観ていたという印象です。

――日下さんの印象は強いですね。それから、描かれている内容は当時としてはかなり衝撃的だったのではないでしょうか。

保坂:当時は同性愛のお話でもあるという印象はそんなになかったのですが、改めて、今回台本を読んで「こうだったのか」と思いました。

――今回出演にあたって再認識したということでしょうか。それでは、今回演じる役柄については?

保坂:アランのお母さん役ですが、すごく特別な人というわけではなく、ごく普通のお母さん。天才、能力の高い子供、ある意味特別な子供を持っていることによっての迷いもあるし、子育てに苦労している部分もある。でもすごく子供を愛している気持ちには変わりがない。普通に育ってほしいという願いが根底にありながら、アランの行く末を見守るというお母さんです。

――アランの同僚であるパットについて、お母さんであるサラは彼女を羨ましがるような様子もありますね。やはり時代背景かなというところが……。それに、息子から秘密を打ち明けられたときの反応も、当時の普通の母親像といった印象を受けます。

保坂:そうだと思います。でもなんだか、アランが若い頃とかはお母さんが陽気なのでちょっとウザいと思われていたんじゃないかなって(笑)。さらに、アランについては「ちょっと気難しい子なんだわ」と思いつつも、愛していないわけじゃなく、先に生まれたお兄さんばかりを可愛がったりとか、そんなことはない。「この子も社会とうまく交わってくれればいいのにな」という希望を持ち続けているんだろうなと思います。

――『ブレイキング・ザ・コード』は上演自体が本当に久しぶりですが、この作品を今上演することの意味について、ご意見をお聞かせください。

保坂:私が日本での初演を観たときは、コンピューターというもの自体が身近な存在ではなかったんですね。特別な人たちの世界、といったようなものでお話と自分たちとの間にかなり距離があった。でも、セリフの中の「2000年ごろにはこうなっているだろう」というアラン・チューリングの言葉よりも今はもう先になっている。私たちは当たり前にインターネットやスマートフォンを使いこなしていますし、人工知能とか、まさしく身近な存在に変わりましたよね。だから当時とはまったく理解の深さが違ってくるし、アランのような人たちの努力や知恵、働きかけが今の礎になっているんだなとも思います。あとは同性愛についても、もはや当たり前になりつつある。みんなの考え方も変わっているし、変えていかないといけない。それは同性愛だけではなくマイノリティ全般に対してですが。そういうふうになっている今だからこそ、作品と世の中の距離感が初演当時とは全く違うので、すごく面白いと改めて思います。この数学者の話は、昔抱いていたような決して難しい話ではないですね。

――現代のほうがこの作品についてよりわかる時代になりましたね。

保坂:多くの人に共感してもらえるんじゃないかなと思います。昔は「マニアックな人好みのお芝居」だったかも知れませんが、今は本当にいろいろな人にお勧めできますね。

――お稽古や、ほかのキャストさんについてはいかがですか。

保坂:みなさん個性派、私もそうですけど、亀田さんも違う劇団だったり(笑)。出自が違う人がいっぱいです。稽古の最初のころ、アプローチの仕方は人によってバラバラだったんじゃないかなと思うのですが、今は演出の稲葉さんが向かっていきたい方向というのがなんとなく全員の共通認識として浸透していっているところ。そもそも稲葉さんがそれをすごく大事にしていらっしゃるから、私達も「ついていけば大丈夫」と思いながら演じています。本当にみなさん個性的ではありますが、各々キャラクターにぴったりとハマっているんですよ。あまりこねくり回さずともすんなり入ってきているんだなと思います。

――それでは、最後にメッセージを。

保坂:アラン・チューリングを演じられる亀田さんは、本当に素晴らしくて…素晴らしすぎるんです。本当に天才だって思います。とにかく彼の演技を観てほしいんです。こういう方にもっともっとフォーカスが当たる世の中になってほしい。既に当たってますが、更に!それに作品としても素晴らしいものになると思います。みんなが提供しあってアランと関わっていって、彼の生き様に結実する、密度の高い舞台になるかと。頭とか五感とか色々使って、充足感のある舞台として感じていただけるんじゃないかなと思います。ぜひ劇場でご覧ください。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

あらすじ
第二次世界大戦後のイギリス。
エニグマと呼ばれる複雑難解なドイツの暗号を解読し、イギリスを勝利へ導いたアラン・チューリング。しかし、誰も彼のその功績を知らない。
この任務は戦争が終わっても決して口にしてはならなかったのだ。
そしてもう一つ、彼には人に言えない秘密があった。
同性愛が犯罪として扱われる時代、彼は同性愛者だった。
ある日、空き巣被害にあったチューリングの自宅に一人の刑事がやってくる。

あらゆる秘密を抱え、孤独に生きるチューリングが人生の最後に出した答えとは。
実在した彼の生涯を、少年時代、第二次世界大戦中の国立暗号研究所勤務時代、そして戦後と各時代を交錯させながら描いていく。

概要
ブレイキング・ザ・コード BREAKING THE CODE
日程会場:2023年4月1日(土)〜4月23日(日) シアタートラム
作:ヒュー・ホワイトモア
翻訳:小田島創志
演出:稲葉賀恵
音楽:阿部海太郎
出演:亀田佳明、水田航生、岡本玲、加藤敬二、
田中亨、中村まこと、保坂知寿、堀部圭亮
スタッフ:美術・衣裳=山本貴愛 照明=吉本有輝子 音響=池田野歩 ヘアメイク=谷口ユリエ 演出助手=田丸一宏
舞台監督=川除 学/鈴木章友 宣伝美術=山下浩介 宣伝写真=杉能信介
宣伝ヘアメイク=高村マドカ 宣伝協力=吉田プロモーション プロデューサー=笹岡征矢
企画製作=ゴーチ・ブラザーズ
公式サイト:https://www.breakingthecode2023.com/
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし

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