『王様戦隊キングオージャー』は王道か、斬新か?“傑作”が期待できる3つの理由

45年以上もの長きにわたり、子供たちに勇気と希望を与え続けている「スーパー戦隊」シリーズの歴史に新たな一ページが加わろうとしています。

2023年3月よりテレビ朝日系にて放送を開始した「スーパー戦隊」シリーズ第47作『王様戦隊キングオージャー』です。

CD『王様戦隊キングオージャー主題歌』(コロムビア・マーケティング)

『機界戦隊ゼンカイジャー』『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』と、その歴史においても斬新かつ稀有な存在感を放っていた過去2作品と比べて、王道のヒーロー然としたスーパー戦隊というイメージが強い本作。

それでも「令和」の時代に相応しい新鮮味に溢れたドラマ展開なども目を引く作品となっており、今後どのような発展を遂げていくのか楽しみだと言うファンも多いことでしょう。
本稿では、新番組『王様戦隊キングオージャー』の魅力に迫ります。“傑作”となりうる可能性が高い理由とは?

昆虫モチーフの『仮面ライダー』を超えるか?

『王様戦隊キングオージャー』は、かつて5人の英雄と守護神キングオージャーの活躍によって、地下帝国バグナラクを打倒し、長きにわたる平和を得たという歴史を持つ世界を舞台としています。

しかしながら、その平和が終わりを迎える時が来てしまいます。「二千年の時を経て、地の底からバグナラクが蘇る」という予言の通り、現代のチキューでバグナラクが復活するのです。

これに対抗しようと、現代のシュゴッダム、ンコソパ、イシャバーナ、ゴッカン、トウフの「五王国」の王たちが再び集結。同盟を結びバグナラクを倒そうとした矢先に、ンコソパのヤンマ・ガストが同盟を辞退してしまいます。

バグナラクにより人々が蹂躙される中、一人の青年・ギラが立ち上がります。ゴッドクワガタの力を受け継ぎ“クワガタオージャー”へと覚醒したギラでしたが、その結果、反逆者として国を追放されてしまうのでした……。

前作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は「桃太郎」をモチーフにした和風テイストのヒーローが活躍する作品でしたが、打って変わって本作は架空の王国を舞台とした西洋感あふれるファンタジーテイストが印象を残します。

45年以上も続く長寿番組として知られる「スーパー戦隊」シリーズにおいては、意外にも初となる“昆虫”をモチーフにしたヒーローたちが活躍することになります。

昆虫をモチーフとしたヒーローと言えば、同じく長きにわたる歴史を築いてきた特撮ドラマ「仮面ライダー」シリーズの印象が強いため、これまでは敬遠されている節がありました。しかしながら、「昭和」から「平成」そして「令和」へと時代は流れ、「仮面ライダー」も昆虫の力を借りないヒーローたちが数多く存在します。

そして、ようやく令和五年にして「スーパー戦隊」も昆虫モチーフのヒーローが登場。「仮面ライダー」のお株を奪うヒーロー像をどのように描き出していくのかに注目です。

ファンタジーは特撮と好相性。人気漫画のオマージュも

前述のように本作は西洋感あふれるファンタジーテイストが大いに印象を残す作品となっています。

近年では『仮面ライダーセイバー』もそのような世界観を築き上げた作品でしたが、特撮とファンタジーの相性は非常に良いのではないかと筆者は考えます。

もともと「特撮」というジャンルは非現実感を視聴者に提供することを目的に作られている部分が強く、SFやホラー、ファンタジーの要素を散りばめた作品が多く世に送り出されてきました。
魔法使いや騎士といったファンタジー世界に登場するような背景を持ったキャラクターたちを主人公に据え、その時代、時代で傑作と呼ばれてきた作品は数多く存在します。

本作に関しても、傑作と呼ばれるに相応しい要素が充実しており、世界中に多くのファンを持つファンタジー映画の金字塔『ロード・オブ・ザ・リング』や史上最高の海外ドラマと謳われる『ゲーム・オブ・スローンズ』を彷彿させるような描写が際立っています。

特に第1話冒頭の5つの王国が出来上がっていくジオラマ風のCG描写は『ゲーム・オブ・スローンズ』のオープニング映像を意識しているように感じ、特撮ファンだけでなく、ファンタジー好きをも唸らせるものとなっています。

ここまでは、海外の作品を引き合いに出してきましたが、この『王様戦隊キングオージャー』という作品は、実に多種多様な作品のスパイスが散りばめられた作品のように感じさせます。

第1話でシュゴッダムに、バグナラクの巨大化したモンスターたちが襲来する場面では、そびえ立つ大きな壁の向こう側からモンスターがのぞき込み、その強大な恐怖に人々が絶望するというさながら『進撃の巨人』を連想する場面が存在。

第2話で活躍するトンボオージャーことヤンマ・ガストは国民から「総長」と呼ばれ、不良集団を率いているかのような描写があります。これは恐らく『東京リベンジャーズ』へのオマージュにも思えます。

王道と斬新の二刀流で勝負に挑む

このように、現在、世界中で人気を博している日本のアニメの要素をこれでもかとばかりに詰め込んだ(良い意味で)ような形で、一大ムーブメントを起こしてやろうという気概を大いに感じさせる作品でもあるのです。

とはいえ、人間とロボットが混在する『機界戦隊ゼンカイジャー』、最後の最後まで全員そろっての名乗りポーズを披露しないという井上敏樹テイスト全開だった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』と、異色作が連続した「スーパー戦隊」において、強烈な印象を残すというのはなかなか難しいことであることは間違いありません。

立場としてはかなり劣勢であることは間違いありませんが、本作は「王道」と「斬新」のまさに“二刀流”で勝負に挑んでいくことになります。

まず「王道」の部分ですが、本作は主人公であるギラの視点から物語が展開されていきます。

キングオージャーの赤き戦士であるクワガタオージャーを中心に据え、彼が次々と他国の王たちの心を掴み、仲間を集めていくという王道スタイルをとります。その他、ギラだけが今後、王になる存在であり、挑戦者として機能している点も王道のストーリーだと言えるでしょう。

一方で「斬新」な点については、ほとんどオールCGに近い世界観で描かれている点が挙げられるます。

「スーパー戦隊」シリーズや「仮面ライダー」シリーズは、現実と地続きの世界の市街地や工場、駐車場などをメインに戦いを繰り広げ、実際のロケ地で撮影されていることがほとんどでしたが、本作は、架空の王国を舞台としており、サイバー感あふれる王国、中世のヨーロッパを思い起こさせる王国、日本の時代劇を思わせる王国など、実にバラエティに富んだ世界が映し出されています。

そのため、背景に関してはCGを多用している部分が多く、とてつもない非現実感を醸し出しているわけです。

このように、世界を一から構築している点は非常に斬新であると感じる次第であります。

従来のプロセスを割愛した手法に驚く

また、「スーパー戦隊」シリーズと言えば、素面でのアクションから変身、ヒーローの活躍、敵が巨大化してロボット登場という構成で戦いが展開していくわけですが、本作における構成は通常と少し異なる印象を受けました。

というのも、本来は敵が倒されて、巨大化して復活というのが定石だったのですが、本作は敵のメイン怪人がすでに巨大化している状態で登場するのです。(第3話時点)つまり、等身大ヒーローは敵の戦闘員だけを倒し、メインの怪人はロボットで倒すという展開を見せているわけです。

巨大化までの回りくどいプロセスを割愛した斬新な手法であり、今までの作品にはなかったアイデアのように感じました。

現実世界ではリアルヒーロー大谷翔平の話題で持ちきりですが、「スーパー戦隊」の歴史において、まさに“二刀流”で革命を起こそうとしている『王様戦隊キングオージャー』。

これから一年にわたって本作を視聴するのが楽しみになる作品です。

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