社説:こども家庭庁 見えない「司令塔」の本気度

 子どもに関する政策を総合的に担う「こども家庭庁」が、きのう発足した。

 加速する少子化への対策や子育て世帯支援、深刻さを増す児童虐待や貧困などへの対応にあたる。いずれも喫緊の課題だ。

 ただ、権限や予算などは十分とは言えず、中途半端な形となったのは否めない。

 子どもの利益を第一とし、成長を社会全体で支えていくため、実効性ある施策につなげられるかが問われる。

 首相の直属機関として内閣府の外局に設置され、担当大臣を置く。厚生労働省と内閣府から関連部署の計200人を集約し、職員は350人とした。

 政策の指針「こども大綱」を取りまとめるほか、妊娠・出産の支援や保育、子どもの居場所づくりを担う。虐待防止や子どもの貧困、ヤングケアラー、障害児支援なども担当する。

 「縦割り打破の象徴」として菅義偉前首相が2年前に打ち出したのが発端だが、小中学校の教育分野は文部科学省に残ったままだ。就学前施設の「幼保一元化」も実現しなかった。

 担当大臣は子どもに関する施策について他省庁に是正を求めることができる「勧告権」を持つが、強制力はない。多岐にわたる課題の解決に向け、省庁の壁を越えて司令塔の機能を発揮できるだろうか。

 一昨年発足したものの、成果が見えにくいデジタル庁の二の舞いにならないよう、政治の指導力が欠かせない。

 新たに保育所や幼稚園に通っていない「無園児」の家庭の孤立防止に取り組むとしている。ベビーシッターなどの「無犯罪証明書制度」も検討する。表面化してきたさまざまな課題に積極的に対応してほしい。

 こども家庭庁の本年度当初予算は4兆8104億円で、従来の関連予算と比べ、約1200億円の上積みにとどまる。

 年間出生数が昨年初めて80万人を割った中、岸田文雄首相は、欧米に見劣りする子ども関連予算の「倍増」を唱え、「次元の異なる少子化対策」を打ち出す。対策の政府試案には、児童手当の所得制限撤廃や多子世帯への加算、育児休業給付引き上げなどを盛り込んだ。

 ただ、裏付けとなる兆円単位の財源確保は見通せていない。絵に描いた餅にならぬよう、本気度を示してもらいたい。

 今秋、こども大綱を初めてまとめるのに向けて、同庁は、小学1年生から20代までを対象に1万人規模で意見を募っている。子どもや若者の声を政策に反映させる仕組みを構築することが求められる。

 きのうは「こども基本法」も施行された。「全ての子どもは個人として尊重される」とした理念を社会に浸透させていくことが不可欠だ。大人たちが柔軟に意識や仕組みを見直していくことが鍵となろう。

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