社説:元次官の人事介入 天下り確保の実態にメスを

 いまだ官僚社会が巣くう特権の根深さをうかがわせる。

 元国土交通省事務次官の本田勝氏が、東証プライム上場の「空港施設」に対し、同省OBの副社長を社長に昇格させるよう求めていたことが明らかになった。

 面会した同社の乗田俊明社長は、本田氏が「国交省OBの名代」として来たと告げて要求を伝え、昇格実現を念頭に「国交省としてサポートする」という趣旨の話を受けたと証言している。

 同省は、この会社の空港関連事業の許認可権限を持っている。元事務方トップによる利害関係企業の人事への圧力にほかなるまい。

 癒着防止への対策強化にも、中央官僚の「天下り」は絶えない。今回のような省庁OBの働きかけは規制の対象外である。国民を欺くような組織的、構造的な再就職の差配が疑われる実態にメスを入れねばならない。

 空港施設は羽田空港などのビル運営を手がける。1970年の設立以来、旧運輸省や国交省のOBが社長を歴任してきたが、前社長がホテル投資に失敗し、大株主の日本航空出身の乗田氏に交代した経緯がある。省OBで独占してきた要職を本田氏が取り戻そうとしたと見られている。

 本田氏は現在、国と東京都が全額出資する東京メトロの会長に就いている。今回の事実関係を認めつつ「省の権威を振りかざして威圧したのではない」と弁明するが、上場企業のトップ人事に口出しすること自体が、非常識な「お上意識」を持ち続けている表れではないか。

 さらに、本田氏が「省OBと議論して行った」としているのは見逃せない。天下り規制の強化で現役職員の関与が違反となるため、規制外のOBを中心に退官後の処遇を「調整」している実態が指摘されている。

 近年、幹部官僚は退官後、規制に触れないよう無関係の業界で顧問を務め、しばらくして関連業界に天下りするケースが多い。この際にOB間でポストをやりとりしているとされる。

 だが、企業における法令順守が厳しくなる中、「縄張り」の確保は難しくなっている。そこで今回のような脱法的な無理強いに出たのではないか。

 文部科学省では2017年、人事課OBを調整役に、歴代の事務次官らが組織ぐるみで天下り先をあっせんしたとして計約40人が処分対象となった。

 これを受けての全府省庁の調査では、内閣府や法務省、財務省、金融庁で規制違反が判明し、後に自衛隊でも多数見つかっている。

 国交省は、今回の働きかけへの関与を否定しているが、行政の公正性に関わる問題であり、実態を調査すべきではないだろうか。はびこる官僚の特権と官民の癒着に国民は厳しい目を向けている。

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