一度は見ておくべき アメリカの建築7選

グッゲンハイム美術館

Solomon R. Guggenheim Museum

New York
www.guggenheim.org

地元では「カタツムリの殻」と呼ばれ親しまれているグッゲンハイム美術館

ニューヨークの5番街に建つグッゲンハイム美術館は、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエと並び近代建築の三大巨匠に数えられているアメリカの建築家、フランク・ロイド・ライトによる作品。

フランク・ロイド・ライトは1959年に91年の生涯を終えるまでの間、20世紀を代表する建築家として1000以上の建築物の設計を手がけた。彼は「有機的建築」をデザインの基本概念とし、間仕切りのないオープンプランや、建築物の中と外の境界線をあいまいにした空間デザイン、スチール材やコンクリートといった素材を活用するなど、自然から学び、環境との調和を設計デザインに取り入れた。この革新的な手法は近代建築の発展に大きな影響を与えたとして評され、2019年には彼が手がけた8つの建築作品が世界文化遺産に登録された。グッゲンハイム美術館も、世界遺産に登録された建築物の一つだ。

1943年に、アメリカの美術品収集家であるソロモン・R・グッゲンハイムから依頼を受けたフランク・ロイド・ライトは、美術館の設計に15年の歳月をかけ、その間に700枚以上ものスケッチを描いたといわれている。美術館が完成したのは1959年。しかし、美術館開館の5カ月前にフランク・ロイド・ライトはこの世を去り、このグッゲンハイム美術館は彼が手がけた最後の作品となった。

吹き抜けの周りを囲むように螺旋状にスロープが渦巻く展示スペース

グッゲンハイム美術館が特徴的なのは、螺旋状に折り重なる4層構造の外観デザイン。上に行くにつれて螺旋は徐々に広がっていき、まるで大きな竜巻のようにも見える。この個性的な建物を内部から見てみると、なぜこのような構造なのかがよく分かる。建物の内側は1階から最上階まで螺旋状の導線となっており、来場者はこの螺旋状の廊下をくるくると緩やかに上りながら壁に展示されたアート作品を楽しむことができる。フロアごとの区切りがないため、来客は最初から最後までアートの世界にどっぷりと浸かることができる構造になっているのだ。また、上へと向かって広がる螺旋の天井部分からは、館内を明るく照らす自然光を贅沢に取り入れている。これも環境との調和に配慮したフランク・ロイド・ライトらしい設計といえるだろう。館内に併設されたライブラリーやカフェでも曲線美を生かしたデザインや木材を取り入れたインテリアなど、細部にわたってこだわりが見られる。

グッゲンハイム美術館では、ピカソやドガ、モネといった近代美術作品の常設展からモダンアートの企画展まで、さまざまな作品を楽しめる。

天窓のガラスは二重になっており、太陽光が拡散されて優しい光が差し込む

ウォルト・ディズニー・コンサートホール

Walt Disney Concert Hall

California
www.laphil.com/about/our-venues/about-the-walt-disney-concert-hall

カリフォルニア州ロサンゼルスに位置するウォルト・ディズニー・コンサートホールは、ロサンゼルス・フィルハーモニックの本拠地ともなっているコンサートホール。その個性的な外観は道行く人々の目を引きつけ、ダウンタウンLAのランドマークになっている。

コンサートホールの設計を手がけたのは、カナダ出身の建築家フランク・O・ゲーリー。波打つような大きな曲線を描いたステンレススチールの外壁は、ロサンゼルスの日差しを反射してひときわエネルギッシュさを放っている。無機質な素材を使いながら流動的なフォルムを表現する奇抜なスタイルは、まさにフランク・O・ゲーリーらしいといえるだろう。

建物の中に入ると、今度は木造の柱が同じように曲線を描いて来客をコンサートホールへと誘う。ホールに入ったら、まずはパイプオルガンに注目して見て欲しい。世界的にも珍しい木造のパイプオルガンは、1本1本のパイプがカーブを描いて天井へと伸びており、まるで燃え上がる炎のよう。ちなみに、コンサートホールの音響設計を担当したのは日本人の音響設計家、豊田泰久。ステージを囲むように観客席が配置された構造や音の効果を最大限に引き出す設計は、世界的に高く評価されている。

Amazon スフィア

The Spheres

Washington
www.seattlespheres.com

シアトルのダウンタウンでひときわ異彩を放っているのが、The Spheresと呼ばれる建築物。ここは2018年に完成した、「植物と人間の共存」をテーマとしたAmazonの本社キャンパスの一部だ。全面ガラス張りの鞠のような球体が折り重なった建築物は、まるで異世界のようなインパクトを人々に与えている。内部には植物園のように緑が生い茂っており、パーソナルスペースやミーティングスペース、鳥の巣のような木造のリラックススペースなど、さまざまなワーキングスペースが併設されている。Amazonの社員はこの空間で、自然に囲まれてリラックスしながらクリエイティブな作業に没頭できるのだ。

The Spheresの内部では、世界30カ国以上の国々から集められた約1000種の植物がおよそ4万株も育てられている。室温は人間と植物の双方が快適に過ごせるように、昼間は約72℉、湿度は60%前後に保たれている。

Amazonのオフィスながら毎月第1・第3土曜には一般公開されているので、事前予約のうえぜひ訪れて欲しい。料理界のアカデミー賞といわれるジェームズ・ビアード賞を受賞したシェフの料理が味わえるカフェもお見逃しなく。

アスペン美術館

Aspen Art Museum

Colorado
www.aspenartmuseum.org

©︎ Jimmy Baikovicius/flickr

コロラド州のスキーリゾート、アスペンのダウンタウンに位置するアスペン美術館は、日本人建築家、坂茂の設計による作品。木造の板を格子状に編み込んだような外観が特徴的だ。坂茂が大切にしているのが、“建物と周囲の環境との調和”。このアスペン美術館も、レンガ造りの建物が多いアスペンの町並みと周囲を囲む豊かな大自然との調和を意識して設計されている。

エントランスを入ると、まずは屋上へと続く大階段が設けられている。美しいアスペンの山々を一望できる屋上庭園からの景色を楽しんでから、ギャラリースペースへと続く階下へ降りていく導線となっているのだ。これはスキーリゾートという土地柄を考慮して、山の頂上から滑り降りていくスキーの導線をイメージして構成されているのだそう。

建物内部に随所に見られるのが、坂茂の建築で頻繁に用いられている紙管。もともとは被災地のシェルターを建設する際にローコストで扱いやすい素材として使い始められ、今となっては坂茂のシンボルとなっている。実は、外観を構成する格子状の部分も合成樹脂加工を施した段ボール材でできている。他にも段ボールのような素材で作られたベンチなど、至る所で紙材が用いられている点にも注目して欲しい。

ジョージ・ピーボディ図書館

George Peabody Library

Maryland
www.library.jhu.edu/library-hours/george-peabody-library/

©︎ Matthew Petroff/flickr

ボルティモアのジョンズホプキンス大学には、世界でもっとも美しい図書館の一つに数えられているジョージ・ピーボディ図書館がある。「本の大聖堂」という別称が付いている通り、厳かで美しい大聖堂のような雰囲気の建築だ。内部には1階の閲覧スペースを囲むように5層の書庫が頭上へとそびえ、各階には繊細な装飾が施された鋳鉄製のバルコニーが設けられている。格子状の天窓からは十分な自然光が差し込み、全体的に落ち着いた空間が演出されている。もともとボルティモアの慈善家、ジョージ・ピーボディが所有するピーボディ研究所の図書館だったが、その後、市に寄贈されて現在の大学図書館となった。設計はボルティモアの建築家、エドマンド・G・リンドとピーボディ研究所の初代学長、ナサニエル・H・モリソン博士による共同作。

ここには18世紀から19世紀にかけての蔵書が3万冊以上所蔵されている。蔵書は貸し出し不可のコレクションだが、来館者はオンラインで検索して館内で閲覧することができる。図書館は一般に公開されており誰でも入ることができるが、立ち入りできるのは1階の閲覧スペースのみ。中世ヨーロッパに迷い込んだかのようなドラマチックな内観は、一見の価値がある。

ロビー邸

Frederick C. Robie House

Illinois
flwright.org/researchexplore/robiehouse

©︎ David Arpi/flickr

シカゴ郊外に建つロビー邸は、フランク・ロイド・ライトが設計した個人宅。フレデリック・C・ロビーのために設計し、1910年に完成した。この建築物は、フランク・ロイド・ライトが確立したプレーリースタイル(草原様式)と呼ばれる設計様式の到達点といわれている。彼は大地に溶け込むように建物の高さを抑え、地面と水平に伸びる設計にすることで自然との融合を目指した。さらに、窓を多く設けて内部と外部を繋げる開放的な空間を実現するため、これまでの手法を崩して間取りを大胆に変える工夫を施した。

日本を訪れたことのある彼の建築設計は、日本文化や日本住宅の影響も受けているといわれている。ロビー邸の内部に入ってみると、格子模様を基調としたインテリアデザインが随所に見られ、窓やキャビネット、家具類にも日本らしさが感じられる。

ロビー邸ではオーディオによる内部・外部のセルフガイドツアーのほか、専門スタッフによるガイド付きで普段公開されていないプライベートスペースまで見学ができるツアーなどが実施されている。訪れる際は、より詳しく学べるガイドツアーを付けることをおすすめする。

シアトル中央図書館

Seattle Central Library

Washington
www.spl.org/hours-and-locations/central-library

©︎ Ming-yen Hsu/flickr

シアトルのダウンタウンにあるシアトル中央図書館は、その奇抜で先進的な見た目から世界的に評価されている建築物。オランダ出身の建築家、レム・コールハースらが率いる建築設計集団OMA(Office for Metropolitan Architecture)がシアトルの建築事務所LMNと共同で設計したこの建物は、積み重なった本をイメージしてデザインされたのだそう。外観はガラス張りの建物にひし形のフレームが重なり、ショッピングモールのような洗練された印象を人々に与えている。内部には高い天井から自然光が贅沢に差し込み、明るく開放的な空間が広がる。特に注目して欲しいのが、「ブックスパイラル」と呼ばれる書架スペースだ。6階から9階にかけて緩やかなスロープが各階を繋いでおり、000~999まで連続した番号で並べられた書籍が螺旋状に並んでいる。来館者はここで、書籍を途切れることなく順に見ていくことができる構造となっている。

シアトル中央図書館は11階建てで、書籍の所蔵数は約100万冊。そのほか275人収容できるオーディトリアム、会議室、イベントスペースなどがあり、さまざまなイベントやクラス、ワークショップが年中開催されている。

© STS Innovation, Inc.