石木ダム建設に疑問 亡くなった坂本龍一さん 反対住民「励まされた」

住民の岩下さん(右)の説明を聞きながら強制測量の写真に見入る坂本さん=2018年3月25日、川棚町岩屋郷の川原公民館

 3月28日に71歳で死去した音楽家の坂本龍一さんは、環境問題に関心を寄せ、積極的に発信していた。長崎県内では2018年3月、長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダムの建設予定地を訪問し、現地の反対住民と対話。本紙の単独インタビューには「一度決めたことを変えない公共事業の典型例」と疑問を投げかけた。
 石木ダム問題の発信に積極的だった米アウトドア衣料品大手「パタゴニア」日本支社の辻井隆行支社長(当時)を通じて、関心を持ったという。同支社は石木ダム問題の公開討論会開催を目指すキャンペーン「#いしきをかえよう」を推進。伊勢谷友介さん、いとうせいこうさんら著名人も現地を訪れ、賛同していた。
 坂本さんは住民の案内で、石木川周辺を歩いたり、県が1982年に実施した強制測量の記録写真を見せてもらったりした。「美しい棚田が目を引き、ウグイスの鳴き声が聞けるぜいたくな場所」と感想を語り、公民館にはサインを残した。案内した住民の岩下すみ子さん(74)は「世界的に有名な方が、実際にやってきて、話を聞いてくれたことにとても励まされた。亡くなって本当に残念」としのんだ。
 坂本さんの訪問後、住民の宅地を含む全用地は、県と佐世保市が土地収用法に基づき取得した。建設予定地では、今も現地で暮らす13世帯が抗議活動を続けている。石木ダム問題が私たちに投げかけるものは何か。記者の問いに、坂本さんはこう答えた。
 「たとえ13世帯だけだとしても、その小さな公共を守れなければ、大きな公共も守れないのではないか」

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