マスターたちのスイングチェック Vol.1ジョン・ラーム【解説/目澤秀憲】

ラームはついにキング(王者)になれるか(撮影/田辺安啓(JJ))

◇メジャー第1戦◇マスターズ 事前情報◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)◇7545yd(パー72)

マスターたちによる祭典がいよいよ始まる。今年は誰がグリーンジャケットに袖を通すのか。開幕2週前に米国でトップ選手を見てきた目澤秀憲コーチが、世界ランクトップ3(ジョン・ラーム、ロリー・マキロイ、スコッティ・シェフラー)のスイングの状態を解説する。第1回は、スペインのラーム。

練習の質がとにかく高い

松山英樹プロに帯同した「WGCデルテクノロジーズマッチプレー」の会場で世界トップランカーの練習を見る機会がありました。その中で一番「仕上がっているなぁ」と思ったのがラームです。シーズン序盤であれだけ勝てた(2月ザ・ジェネシス招待までに3勝)のもうなずけるほど状態が良さそうでした。

今季すでに3勝と絶好調(撮影/田辺安啓(JJ))

何より「練習の内容」が、ひと味もふた味も違う。練習場では1WやFWなどの長いクラブで意図的にドローとフェードを打ち分けていました。どちらに曲げる弾道も精度がバツグン。あえて大きく曲げるような球も打っていました。

ドローとフェードでボール位置ももちろん違いますし、体の向きも変わる。練習場レベルですが、長いクラブであれだけコンスタントに弾道を打ち分けられ、しかも“逆球”も出さずにコントロールしているのは高い質の証拠。もともとラームは、ドローヒッターなのかフェードヒッターなのかわからないほどで、セットアップだけ変えてどちらの球も打つことができる理想的なスイングをしています。打ち方が理屈的に分かっていたとしてもそれを実践するのは難しいもの。普段の練習からこうして弾道の打ち分けをやっているからこそ、優勝争いの緊張した場面でも狙った球が打てるんでしょうね。

下半身の形はほとんど変わらずしっかりと捻転(撮影/田辺安啓(JJ))

練習を見ている限りでは、どちらかというと打ちづらそうなフェードの練習を重点的にやっていました。もはや自分のスイングをあれこれいじくる段階ではなく、一歩先の「試合で使える球の練習」。当然、2週後にあるマスターズを見据えていたのは間違いないでしょう。

スイングは良くも悪くも大きく変わってないので、今はその精度をどう保っていくかなのでしょうね。

ラームの特徴と言えば、左手の掌屈(手のひら側に折れる形)。ハーフウェイバックからトップまでにその形を作っていきます。掌屈の形ができているといわゆるシャットフェースを保てる。つまり事前にインパクトでつかまえる形を作っているから、コンパクトなトップにもでき、体の回転を使うだけのシンプルなスイングができるんです。パワーと長身がなせる業ではありますが、これならかなり再現性の高いスイングができるはずです。

トップの掌屈はインパクト後まで保たれたまま(撮影/田辺安啓(JJ))

あれだけコンパクトなトップでドローとフェードを打ち分けるには、やはり体の強さが求められる。特にフェードを打つ場合は胸が起きやすくなるものですが、このスイングを見る限りしっかりとカバー(胸が下を向いた状態)できていますよね。上半身の強さもないとやはりこの動きはできません。

本来はどちらか一方の球筋にしていたほうがスイングは簡単ですが、でもどちらか一辺倒だけではPGAツアーのコースはねじ伏せられない。ですから、球を打ち分けられるスイングを探し、その精度を上げているのでしょう。

試合を見ていても本当に穴がないというか、ショット以外のアプローチ、パットも上手く、隙がないですよね。マスターズは今回が7回目の出場で、コースを熟知していますから、まさに優勝候補の筆頭と言っても間違いないでしょう。(取材・構成/服部謙二郎)

ジョン・ラームの撮れたてスイングをご覧ください

スタンスは「逆ハの字」(撮影/田辺安啓(JJ))
ヘッドを擦るように上げる(撮影/田辺安啓(JJ))
ここから掌屈が始まる(撮影/田辺安啓(JJ))
特徴であるショートトップ(撮影/田辺安啓(JJ))
左に踏み込んで切り返しスタート(撮影/田辺安啓(JJ))
左に行きすぎず右サイドで球をつかまえにいく(撮影/田辺安啓(JJ))
右ひじの絞り込みが強い(撮影/田辺安啓(JJ))
左手の“掌屈”で球をつかまえる(撮影/田辺安啓(JJ))
前傾をギリギリまで保っている(撮影/田辺安啓(JJ))
回転しきったフィニッシュ(撮影/田辺安啓(JJ))

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