2000年代の日本における生徒会団体の展開と課題

日本における「生徒会」という教育システムは,以前のコラム“「生徒会」のルーツを探れ”で触れたとおり,戦後導入されたものですが,複数校の生徒会が集まる生徒会団体もまた「生徒会」導入直後から各地で結成されていました.1950年代以降逆コースの政策が取られる中で,多くの生徒会団体は様々な思想的影響を各方面から受け,時には政治運動の先頭に立って活動を行うこともありました.こうした中,1960年12月に文部省初等中等教育局長通達「高等学校生徒会の連合的な組織について」が出され,複数校にまたがった生徒会団体の結成やそれに参加することが実質的に禁止されます.この通達以前に隆盛を誇っていた生徒会団体は相次いで活動を休止し,高校紛争を経て生徒会団体の活動は一層下火になっていきました.地域的には10校程度の参加校を集め意見交換を行なう団体が,高校紛争後も断続的に複数確認されていますが,1950年代の生徒会団体の規模と比べると見劣りする感は否めません.

全国生徒会大会2013の閉会式での集合写真

しかし,2000年代,特に携帯電話やスマートフォンが中高生に普及して以降,活動規模が飛躍的に拡大し,ついには全国規模で生徒会活動について議論するイベント(全国高校生徒会大会)の開催に至るまでになりました.近年は地域ごとの生徒会団体が各地に設立され,生徒会団体の活動が次第に盛り上がりを見せています.本稿ではその発展過程を辿っていきます.

2000年以降の生徒会団体の経過

2002年,現在盛り上がりを見せる生徒会団体の源流ともいえる団体「首都圏中学校生徒会連盟(現在の首都圏中学校生徒会連盟懇談会)」が設立されました.生徒会間の交流の必要性を感じた当時の中学生生徒会役員が都内各地の学校の文化祭などを巡って仲間を集め,設立にこぎつけました.この団体は1990年代に活動した千葉県生徒会連盟をモデルに設立され,2ヶ月に1度の連盟会(意見交換会)を活動の基本としていました.参加にあたって,正加盟校(運営などに参画できる学校)には生徒会顧問から参加の了承を得ることなどを取り決めた憲章も作られ,毎回の連盟会は参加校の教室を借りながら,中学生たちによって自主的に企画・運営されていました.2005年にはこの団体を設立した中学生達が新たに首都圏高等学校生徒会連盟(以下高生連)を設立します.しかし,連盟会の参加校は多いときでも10校強で,参加校もその大半が首都圏の私立中高一貫校(半数程度は大学付属校)に限られていました.

高生連の活動が設立メンバーから代替わりを繰り返しながら安定する頃になると,各地で生徒会役員のネットワークが形成されるようになります.2008年には多摩地域の都立高を中心とした多摩生徒会協議会が,09年には関西で生徒会連盟が相次いで設立されます.これらの団体は相互に存在は認識しつつもそれぞれが独自に意見交換と役員の交流を中心とする活動を行っていました.

携帯電話やスマートフォンが中高生にも普及すると,それまで郵送などによって行っていた会の開催告知がインターネット上の通信手段に代替されるようになります.また,SNSの発達により今まで以上に団体の存在が同年代の高校生に知られるようになった結果,飛躍的に参加校が増えることになりました.具体的には高生連の連盟会参加校が,2012年1年間で10校程度から多いときは30校を数えるまでに急成長したことがあげられます.こうした中で首都圏全体規模・全国規模の生徒会に関するイベントが相次いで高校生たちによって企画され,実現していくことになります.

2012年3月,衆議院議員会館で全国から120名余りの高校生を集め,生徒会などの問題に関して議論するイベント,「全国高校生徒会大会」が開催されました.このイベントは1年に1度,定例化され,2017年3月には第5回大会が開催されました.運営委員は全国各地の生徒会役員が有志で務め,インターネット上を中心に会議を重ね,SNSなどを通じて全国から参加者を集めています.現在,全国大会での交流を契機として,首都圏や関西に留まらず日本各地で生徒会団体が設立されるようになっています.

生徒会団体は,近年その活動の規模を徐々に広げつつありますが,こうした団体の継続的で安定した運営を支援する「大人」の存在は不足していると言わざるを得ず,現場教員への正しい活動内容の周知も進んでいません.また,参加する高校生も一般に優秀とされる高校の生徒が大半であるという問題も抱えています.こうした点を克服できるかが,生徒会団体が今後より発展していけるかどうかのポイントと言えるのではないでしょうか.

【文】猪股 大輝(一般社団法人生徒会活動支援協会 運営委員/早稲田大学教育学部)
【写真】全国高校生徒会大会2013(葛西区民館)


本稿は「子どもの権利条約ネットワークニュースレター」128号に掲載された原稿を一部修正したものです.

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