「会社員でも経費が落とせる」は間違い? ハードルが高い【特定支出控除】の条件とは

新年度がスタートしました。気持ちも新たに、お金の知識でしっかり節税して、将来使える資金を増やしてきましょう。今回は、よくご質問いただくけれど、勘違いされている方が多い2つの節税について解説します。

ネットの字面を見て自分の都合よく捉えて勘違いしていては、「なんて……嘆かわしい!」ですよ。お笑い芸人で本物の税理士である税理士りーなと、楽しく正しく学んでいきましょう。


会社員も経費が落とせる?

よく「会社員でも経費が落とせるって聞いたので手続きしたいのですが」とご質問をいただきます。実は私の経験上、その中で実際に経費にできた方はいません。0名です。

ではなぜ、皆さんが経費に落とせないのか、どんな場合なら経費に落とせるのか、具体的に確認していきましょう。

特定支出控除

会社員が、給与から経費を落とすことができる制度のことを「特定支出控除」と呼んでいます。この特定支出を理解するためには、まず前提の知識として「給与所得」計算の仕方を理解しておかなければなりません。

会社員・パート・アルバイトなどで受け取る給料を「給与所得」という区分で計算しますが、給料は受け取る金額ばかりで経費などの支出を本来把握せずに計算を行うため、「所得」と呼ばれる「儲け分」のような金額を計算する際に、金額の区分ごとに決められた「控除額」を総支給金額からマイナスして「所得」を計算します。

この控除額を「給与所得控除額」と呼び、年に一度皆さんが受け取る「源泉徴収票」にも「総支給金額」と「給与所得控除後の金額」、つまり「総支給金額 ― 給与所得控除額」の金額が掲載されています。

給与収入の方は「経費を引けないから税金の計算をするときに損だ」と思われているかもしれませんが、受け取った金額全てに税金がかけられているのではなく、あらかじめ決まった金額を、前もって経費のように引いてくれているということを知っておいてください。

この給与所得控除がある上で、さらに経費が引けるケースがどのような場合か見てみましょう。

通勤費・旅費・転居費・資格取得費など「特定支出」と呼ばれる支出をして、それが自己負担だった場合、その自己負担額の1年間の合計が「ある金額」を超えるケースは、その超えた部分の金額を給与所得控除後の金額から、さらに引くことができるというものです。

国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」によると、特定支出とは次の7ついずれかに該当するものです。なお7については、合計65万円までとなります。

1.通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)

2.勤務する場所を離れて職務を遂行するため直接必要な旅費(職務上の旅費)

3.転勤に伴う転居のために通常必要である支出(転居費)

4.職務に直接必要な技術や知識を得る目的で研修を受けるための支出(研修費)

5.職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)

(注)平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。

6.単身赴任など、勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)

7.次の(1)〜(3)の合計(65万円まで)で、会社から「その社員の職務の遂行に直接必要だ」と証明されたもの (勤務必要経費)

(1)書籍、定期刊行物などで職務に関連するものを購入する費用(図書費)

(2)制服、事務服、作業服など勤務場所において着用することが必要な衣服を購入するための費用(衣服費)

(3)交際費、接待費などで、会社の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答などの支出(交際費等)

これらの7つの特定支出は、いずれも「給与の支払者が証明したもの」に限られます。つまり、会社が「うちでは負担しないから自分で払ってね、と伝えましたよ」と証明してくれなければ、特定支出控除にはなりません。

画像:国税庁「令和2年分以後の所得税に適用される給与所得者の特定支出の控除の特例の概要等について(情報)第3様式編」より引用

つまり、自分で「あれこれ負担しちゃったよな〜」と思っているだけで、会社に内緒では特定支出に落とすことができません。会社に証明書を書いてもらわなければならない、という一手間が必要になるのです。

会社から補填されるものや、教育訓練給付金・母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分は、特定支出から除かれます。本当に自分が負担した部分というイメージで考えると分かりやすいでしょう。

最後に、「ある金額」を超えると、とお伝えしましたが、この金額が意外に高くてなかなか条件をクリアできないようです。その超えなければならない金額とは、「その年中の給与所得控除額の2分の1」。つまり、前述の「給与所得控除額」の半分を超えたら、超えた部分だけ引いていいということです。

ここで、給与所得控除額を確認してみましょう。

画像:国税庁「No.1410 給与所得控除」より引用

例えば、年収500万円の方なら給与所得控除額は「500万円 × 20% + 44万円 = 144万円」、つまり特定支出控除はこの半分である72万円を超えた部分だけ受けられるということです。

「えー? 全然超えられへんやん!」と思われた方が多いのではないでしょうか? 単身赴任の引越しや、お仕事上の旅費をどんなに足していっても、なかなか超えられない金額ですよね。

平成28年から超えなければならない金額が半分に下がったものの、まだまだ条件を満たしてこの制度を活用できる方は少ないようです。とはいえ、高額な資格取得(弁護士・公認会計士・税理士)のための専門学校費用などが認められるようになっていますので、以前よりは該当する方も増えて、制度を活用しやすくなっているそうです。

なお、この特定支出控除を受けるためには、所得税の確定申告を行う必要があります。その際、特定支出に関する明細書を作成し、会社からの証明書を申告書に添付するとともに、支出した金額を証する書類などを申告書に添付、または申告書提出時に提示する必要があります。

今回は、「自分は経費として、控除を受けられるのかな?」と思っている方に、分かりやすいよう簡潔に記述しました。該当する可能性がある方は、詳細を国税庁のウェブサイトでご確認ください。

配偶者の給料は103万円以内?

もう1つ、まだまだ勘違いが多い話題として、「配偶者控除を受けるのに給料103万円以内じゃないと」と言っている方、周りにいませんか?

以前は「103万円」と思っていれば正解でしたが、平成29年からルールが大きく変更になっています。年末近くなると、パートのベテランさんが声を揃えて「103万円になりそうだから12月は休みます」なんて言っている職場がたくさんあったのでは無いでしょうか?

そこで、配偶者が103万円ギリギリで仕事を休まなくていいように、「配偶者控除」として受けられる38万円という控除額と同額が、「配偶者特別控除」という新ルールを適用すると給与150万円まで稼いでも受けられる、という改正があったのです。おまけに、150万円を超えたとしても、控除額が38万円から一気に0円になるのではなく、ジワジワと少しずつ控除額が下がるというルールになっているので、150万円ギリギリで働くのをストップするという必要がなくなっているのです。

ただし、新ルールの導入と同時に、配偶者控除自体、高所得者は使えないという内容に変わっています。所得金額が1,000万円を超える方は、そもそも配偶者控除や配偶者特別控除が利用できなくなっています。パートに出ている配偶者に「103万円以内で働くように」と伝えていたら、控除も受けられないのにシフトを減らしてしまい「なんて……嘆かわしい!」ですね。

なお、会社によっては給与103万円以内の配偶者を養っている場合、配偶者や扶養の手当がつくというケースも多いと聞きます。企業ごとで設定されているものですので、ご自身の会社ではどんなルールになっているのか、これを機に改めて手当がつく条件についても確認されてはいかがでしょうか?


このように、節税について勘違いしているケースもよく見かけます。なんとなく苦手だからボンヤリとしか理解していないという方も多いようですが、積もり積もって何十万もの損失になるかもと思うと「苦手だから」といわず、少し頑張って向き合ってみられてはいかがでしょうか?

知識で将来の財産が大きく変わってくるかもしれません。知識だけで財産が大きく増えるなんて、「なんて……喜ばしい!」ですね。この春から、是非お金の知識をつけて、さらに豊かな生活を送ってください。

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