在宅勤務だったのにオフィス出社要請が…。働く側は従わないといけない? 社労士が解説

2023年5月8日から、新型コロナウイルス感染症の分類が、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げることになりました。

この変更も目前に、急拡大した在宅勤務などの働き方も従来のスタイルに戻そうとする動きも見受けられます。さて、勤め先企業から出社勤務の要請があった場合、従業員は従わないといけないのでしょうか? 在宅勤務を前提に、少し郊外に引っ越したなどライフスタイルを見直した方もいらっしゃるでしょうし、このまま在宅勤務を続けたいと考える方もいらっしゃると思います。その場合の考え方やポイントをお伝えしていきます。


労働とは個々の「契約」に基づく働き方

会社員として働いているということは、勤め先と「労働契約」を結んでいるということです。契約書の有無にかかわらず、労働契約を受け入れて勤務していることになります。

そこで重要になってくるのは、自分はどのような「労働条件」で働く契約をしているのかという問題です。雇い主は、労働者を採用するときに、労働条件を書面などで明示しなければなりません。この書面が互いに印鑑を押し合う「契約書」を兼ねている場合もありますし、配布される「労働条件通知書」などの書類ということもあります。明示すべき事項には「就業の場所及び従業すべき業務に関する事項」も含まれています。

また、合理的な内容の就業規則を労働者に周知させていた場合には、「就業規則」で定める労働条件が労働者の労働条件になります。個別の労働契約書と違って、就業規則は多くの従業員に共通するものなので、通常は自分自身が働く場所についての細やかな記載はないのですが、在宅勤務に関するルールが記載されていることは考えられます。

労働契約は変更可能!優先順位は就業規則>労働契約

労働契約の変更は可能ですが、労働者と使用者の合意が必要です。また、合意があったからといっても、就業規則で定められた労働条件よりも下回ることはできません。就業規則で労働条件を変更する場合には、(1)内容が合理的であることと、(2)労働者に周知させることが必要です。

自分の働き方に関する条件やルールが、就業規則と個別の労働契約と違う内容だった場合ですが、優先されるのは就業規則です。もちろん、就業規則、労働契約ともに労働基準法を下回る内容であれば無効です。

法律上の労働契約の変更ルールや就業規則を優先する考え方はあれど、新型コロナウイルス感染症の拡大により導入された在宅勤務であれば、企業として抜本的な変更をする方針でなくても、感染拡大防止に協力するため、急きょ企業と労働者が協力し実施したということもあり得ます。その場合、あくまで一時的な対応であったものの想定外に長引いてしまい、労働契約や就業規則の変更や新しい規程の整備が追い付いていない可能性もあります。特に、労働組合のない企業や中小零細企業であれば、在宅勤務に関するルールが存在しないままということも大いにあり得ます。しかし、この事態は過去に例もない世界的な緊急事態でしたし、筆者は必ずしも企業を責めることはできないと考えます。

今こそ勤め先に働きかけを

就業規則や労働契約の変更がされないまま新型コロナウイルス感染症の分類が5類に引き下げされると、在宅勤務という概念がなくなってしまう可能性もあります。このまま在宅勤務を続けたいと考える場合は、早急に企業に働きかけるタイミングといえるでしょう。企業側が急きょ対応した在宅勤務であれば、規程も慣習もまだまだ試験的であるなど流動的な可能性もありますので、必ずしも無駄な抵抗だとは思いません。

企業側も、労働者を使用する以上、中小零細企業であることも言い訳になりませんし、厚生労働省でも、「テレワークモデル就業規則(在宅勤務規程)」などガイドラインになるものをいくつも公開していますからしっかり対応していかなくてはなりません。

今後は、在宅勤務から出社への変更に関する係争が起こってもおかしくありません。在宅勤務も3年に及んでいれば、実態としては労働契約を在宅勤務に変更したものと見ることもできるかもしれません。通勤を求められることが、労働条件の不利益変更だと考えられることができれば、企業は法律違反になる可能性もあるのです。

在宅勤務に正式変更する際の注意点

最後に、前述した内容に加えて、労働契約を変更する際の注意点をお伝えします。もちろん、本人や家族が納得して受け入れるものであれば良いのですが、契約の変更というのは、後で「こんなはずじゃなかった!」という後悔と背中合わせです。

・業務委託契約・請負契約などに変更されていないか。
※雇用契約ではなく上記のような契約になることは、フリーランス、個人事業主への変更であり自営業者になることです。

・退職金や昇給への影響はないか。
※契約変更が再雇用のような扱いになれば、勤続年数に影響することにより退職金や昇給への影響が考えられます。

・費用の負担に納得感を持てるか。
※会社の備品やネットワークなどの環境を使えなくなるため、自分のものを使用したり購入したりするものが発生する可能性があります。

・出社要請の可能性に対する納得感を持てるか。
※定期的、臨時的な出社要請があり得ます。

・契約の期間
※それまでは正社員で期間の定め「なし」であったものが、契約の再締結のような扱いで有期雇用になっていないか。

契約の変更は、自分にとって都合の良いことばかりではないかもしれません。新しい契約の締結と考え、既得権のキープに対してのリスクはあると考えましょう。しかし、そもそも既得権を把握していない会社員は多いので、元の労働契約との比較、就業規則の確認も併せて行ってください。

人生にとって働く時間は非常に長く重要な決定です。後悔のないよう慎重に進めていきましょう。

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