韓国映画最大“流血量”から伝説ホラー続編まで エスター、オオカミ狩り、ハロウィン レビュー

はじめに

お疲れ様です。新年度になりました。皆様の中にも環境が大きく変わる方、たくさんいらっしゃると思います。春。春は出会いと別れの季節。いやホラーの季節ということで、偶然にもホラー映画の大ネタが多い2023年春。今回は人気スリラーの続編・前日譚。韓国映画史上最高最大の“血”の量を記録した映画。伝説のホラー映画新章三部作のラストを飾る一本。三本立て短レビューをお送り致します。桜散る中、出会いと別れに涙が流れる中、血飛沫飛ぶ中、ぜひホラーの春をお楽しみ下さい。ホラーが苦手な方、今回はすみません。そういった方、もちろんホラーは大丈夫という方も、『ダンジョンズ&ドラゴン~』はどなたも楽しめる最高のエンタメ作なのでオススメです。

『エスター ファースト・キル』

『エスター ファースト・キル』はあの「エスター」がアメリカで行方不明になった少女「エスター」と身分を偽り、家族の一人娘になりすます、エスターがエスターになっていく過程を描く『エスター』の、続編にして前日譚です。

超人気スリラー『エスター』ご覧になった方も多いと思いますし、『猿の惑星』『シックス・センス』『ミッドサマー』に続いてオチだけバレてしまっている系映画でもあると思います。ご覧になっていないけど、オチだけ知ってるよという方も多いのではないでしょうか。「ファースト・キル」「はじめての おつかい」ならぬ「はじめての さつじん」というタイトルから、『ジョーカー』『クルエラ』昨今作られまくっている「なぜこの悪役が誕生したのか?」悪役の誕生秘話を描く一連の作品を想起しますが、本作はそういった「悪の本質とは?」みたいなオリジンを仰々しく風呂敷を大きく広げて描く作品ではないという所が肝です。あくまでジャンル映画、前作同様、「一本のスリラー映画」として続編、前日譚を作ったという所が本作の勝因であると思います。

100点満点のフォーマットで勝負するのではなく、70点満点くらいのフォーマットで65点くらいの面白いスリラーを前作より短い上映時間100分弱でまとめた「ザ・ちょうど良い」スリラーに仕上がっているというのがとても好感が持てました。

前作『エスター』をネタバレなしで少しだけ説明すると、原題は“Orphan”『孤児』、エスターと名乗る孤児を家族に迎えてから、周辺で奇怪な出来事が起こる。「エスターちゃん…ちょっとヤバイかも?サイコパス?」宣伝コピーの通り「この娘、どこかが変だ」と母親は疑問を持つ。超古典『悪い種子』といった作品から連なる一連の作品。弊チャンネルでは「ウチの子変なんですけどホラー」とか呼んでいます。英語では「クリーピー・チャイルド・ホラー」「サイコ・チャイルド・ホラー」なんて呼ばれるジャンル形式で進みながら、『エスター』が飛び抜けているのは、かなり序盤で「ウチの子が変」という事実をバンバン観客に見せる。例えばそれこそ『悪い種子』では、あくまで直接的な描写なしで状況証拠的に、「ウチの子が変かな?」と疑問が積み重なる過程こそがサスペンス要素となっていますが、『エスター』はバンバン人を殺し、狂った行動を取りまくります。

ゆえに「ウチの子変なんですけどホラー」というより、9歳の女の子という特殊な殺人鬼モノ的な感触が強い作品であり、加えて中盤以降は『エスター』の監督の、どんなジャンルでも一定以上のクオリティの作品を出してくれる名職人監督ジャウム・コレット=セラによる、特にお得意な「孤立サスペンス」奇怪な状況に置かれた主人公がどんどんと孤立していくサスペンス・スリラーとして進行していきます。「ウチの子変なんですけどホラー」で始まり、序盤で観客は「もうこの娘が変なのは分かった」と、殺人鬼スリラーそして「孤立サスペンス」に変貌していく。何より最後の衝撃の事実という、そんな快作『エスター』でした。

本作『エスター ファースト・キル』の設定の面白さ一番は、主人公をエスター本人にしたという。そして前作で主人公ママが置かれる奇怪な状況に「エスター」本人をぶち込むと、前作の逆転!反転!前作の加害者と被害者を逆転させて、エスターご本人を奇怪な状況に置く、エスターこそが主人公としてどんどんと孤立していく、追い込まれていくという…なるほどという設定な訳です。

当然、観客は前作を観ていて「もうこの娘が変なのは分かった」という前提から本作を観始める訳ですが、登場人物もその観客の前提を共有しているような作りにしているというのが面白かったですね。『エスター』の親が「エスターちゃんが前にいたお家はFワードとか汚い言葉使うお家だったのかな…」なんて言うセリフありましたが、その通りだったという衝撃。見事に前作の衝撃の事実を前提にして、一本の“ザ・丁度良いスリラー”にしています。

何より『エスター』という作品は衝撃的な展開もさることながら、9歳の殺人鬼少女というキャラ、演じたイザベル・ファーマンの怪演、彼女のキャラクターが魅力的だった訳ですから、そのキャラの魅力を、エスターを主人公にすることで上手く引き出したという、かなり続編としては納得の作りでした。

まぁやっている事は『エイリアンVS.プレデター』ではないですが、元の作品では悪役だったキャラクターを味方側、主人公にしてエイリアン的なもっとヤバイ敵を用意する。「勝手に戦え!」サイコパスVSサイコパスのバトルモノみたいな展開をしていくという面白さでした。「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」と、きっと脚本会議で本作の設定を閃いた人が「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」と言ったと思うんですが、そういった作品です。

最近の続編モノだと『ドント・ブリーズ』とかに近いアプローチだと思います。ただ『ドント・ブリーズ2』のあのキャラは、前作を観ていると感情移入しづらい最低の人物だったと思うんですが、「エスター」は哀しきモンスターである訳ですよ。前作でも少しは同情してしまう哀しさを持った悪役だったので、より本作のエスターを主人公にした設定に観客もノりやすいのが良かったと思います。

この手の映画は引き算で話せば、いくらでも引けるので、加点法的に話しますが、一番驚いたのは『エスター』当時12歳、本作撮影時25歳のイザベル・ファーマンがちゃんと9歳の女の子に見えるというね、寄りだけではではなく、今回、ロングショットも多いんですが、スタントを使って、しっかり少女に見える演出というのが驚きました。

今回監督は、代わりまして、ウィリアム・ブレント・ベルという、『ザ・ボーイ』とかが有名ですかね、ホラーばっかりやっている監督です。正直僕は彼の作品は、『ウェア 破滅』という現代版『狼男』みたいな、これはちょっと良いかなと思いましたが、他の作品そんなに良いとは思えない感じで、本作は期待していなかったんですが、前作の異常なほどに色彩を欠いた寒々しい映像、冒頭のジャウム・コレット=セラの『フライト・ゲーム』から持ってきたようなワンカット精神病院脱走アクション、『アンノウン』のカメラを傾ける映像まで、『エスター』問わずジャウム・コレット=セラのテイストを踏襲しているようで、監督史上最も良い作品になっていました。

前作に無い要素としてはコメディ調。全編で3回、既存曲が使われますが、全てが場面の状況を表しながらどこか曲だけが明るい、陽気という、その皮肉めいた曲使いが笑えるブラックコメディ要素も加わって、これは続編である本作初の要素で良かったです。こういった具合の『エスター ファースト・キル』、正直、観る前、めちゃめちゃ舐めてました。ちゃんとジャンル映画として、コンパクトで「ザ・ちょうど良い」スリラーだったと思います。

『オオカミ狩り』

続いて韓国映画『オオカミ狩り』。まぁとんでもなかったです。今年これを超える血の量は映画で観られないと言い切っても良いくらい、全編血まみれ、流血、ハイテンション。とにかくお亡くなりになる登場人物の数、お亡くなりになる度に出る血の量が多いです。いちいちテンション高く人がお亡くなりになる、観客を選ぶと思いますが、びっくりしてしまいましたので、一応、紹介だけさせて下さい。

物語はシンプルで、フィリピンから韓国へと犯罪者を移送する貨物船で、犯罪者が逃亡、犯罪者VS警官のバトルが始まると。まぁ『コン・エアー』の海版のような何回も見た設定から開幕しますが、いちいち血の量が多い。しっかり一人一人、死に方大喜利で異なる回答を見せる、異なるお亡くなりになる方をねっとり、いやらしく切り取って、死亡数も多い、故に血の量も多い、序盤からずっと何かしら画面上で流血しているという異常な映画なんですね。

監督のキム・ホンソン。前作は2019年の『メタモルフォーゼ/変身』というエクソシスト・ホラーなんですが、これもエクソシスト、悪魔祓いモノにしてはブシャーと景気の良い、血の量が多い映画でしたが、『オオカミ狩り』は前作で何かに目覚めたのか、過激な暴力描写で観客を飽きさせないサービス精神が光っています。犯罪者VS警官、そしてエクストリームな暴力描写だけでも一本映画が撮れそうな所、宣伝コピーの通り、ここに「怪人」が乱入してきます。ご覧にならないとナンジャソリャという辺りだと思いますが、序盤にあった犯罪者VS警官の対立構造も吹き飛び、一般人VS怪人の対立になる。またもや人がお亡くなりになる速度と流血量が加速するという、お祭り騒ぎです。

決して設定とか、アクションの見せ方が優れている訳ではないですが、暴力描写と血の物量だけ飛び抜ければ、これほど突出したジャンル映画になるんだという事を分からせてくれます。昨年の作品だと、あれは台湾でしたが『哭悲/THE SADNESS』とか三池崇史監督の諸作品と比較しても良いかもしれない、ハイテンションと血の量。ずっと人が映画の中で人がお亡くなりになったり、血がずっと出ていたりすると、流石に感覚が麻痺してくるもんですね。最初は流石にウェと顔をしかめながら楽しんで観ていましたが、途中から麻痺して楽しみました。最近、貧血気味の方はぜひ『オオカミ狩り』は、4月7日公開です。

『ハロウィン THE END』

最後は『ハロウィン THE END』。前作『ハロウィン KILLS』から4年が経ち、殺人鬼ブギーマンは舞台ハドンフィールドから消えた。静かに心の傷と向き合うローリーの一方、新キャラクターである青年コーリーはブギーマンの姿を街の下水で見かけ、物語は最後の対決に向かいます。

伝説のスプラッターホラー1978年の『ハロウィン』正統派続編として、2018年に再始動した『ハロウィン』から始まったデヴィッド・ゴードン・グリーン監督による「ハロウィン」新三部作も本作で完結となります。「エブエブ」でアカデミー賞を獲得したジェイミー・リー・カーティス演じる、1978年最初の『ハロウィン』ではファイナルガールだったローリーが殺人鬼ブギーマンに復讐をするというリベンジ・アクション的な新鮮さが魅力だった三部作1作目『ハロウィン』。続編の『KILLS』は、ブギーマンによる景気の良い残虐祭。そしてブギーマンはマイケル・マイヤーズという人間、肉体を超え、人々の「恐怖」の象徴へ、まさに不定形の「シェイプ」、抽象的な存在へとマイケルを進化させた二作目でした。で、本作ではそのブギーマンの象徴化を引き継ぎながら、良く言えば、かなり地に足の着いた、三部作の1作目同様、しっかりとローリーのトラウマ、心の傷に向き合ったまとまりの良い完結作に仕上がっていました。ただ悪く言えば、三部作の完結作としては地味な、前作があれだけお祭りだったので、もう少し残虐シーンがあっても良いかなぁと思う地味な着地だなぁという印象もありました。

毎作、特にこの三部作はオープニングが作品のテーマを表していますが、本作『THE END』では、ジャック・オー・ランタンが壊れ、中からマトリョーシカ的に新しい別のジャック・オー・ランタンが現れると、新しい殺人鬼の登場、誕生を予感させるオープニングとなっています。本作はポッと出のコーリーくんという新しいキャラクターを軸にした、『ハロウィン』のジョン・カーペンターはジョン・カーペンターでも『クリスティーン』をベースに物語を作っているという奇妙なジョン・カーペンターミックス作品でした。

『クリスティーン』はいじめられっ子の主人公が意思を持った邪悪な車とシンクロして、邪悪な車が暴走すると、最近だと『THE BATMAN』にも影響を与えたホラー作品でしたが、『クリスティーン』そのままのホラーシーンがあります。いじめられっ子であり、ある過去の事故をきっかけに街では厄介者扱いされているコーリーくん彼の自我が、車ではなく、ブギーマン、殺人鬼「シェイプ」とシンクロして暴走していくという、今までの「ハロウィン」シリーズには無いような若干、唐突感のある物語が進行していくので驚く方も多いかと思います。監督のデヴィッド・ゴードン・グリーンは前作『KILLS』がアクション映画なら、本作『THE END』は青春映画だと。『ハロウィン』を題材にしながら、異なるジャンルをミックスしていく構成を採用したとのことでした。その言葉通り、前作を観ているとやや困惑する本作『THE END』は、コーリーくんを主人公とすると、ほぼ青春映画の印象が強く、ブギーマンの子とも言えるコーリーと、ファイナルガールの孫、ローリーの孫であるアリソンとのラブストーリー、サイコとフリーク、社会から、街からはずれもの扱いされている2人の恋愛物語が『ハロウィン』に合流します。デヴィッド・ゴードン・グリーン監督は何とウォン・カーウァイの『天使の涙』を引っ張ってきて、バイクシーンをそのまま引用するという荒技を本作で見せています。

2018年『ハロウィン』では被害者・加害者の逆転、被害者の復讐をやって、『KILLS』ではスプラッタ祭、『ハロウィン』的な王道、正攻法の残虐祭をした、これ以上、『ハロウィン』では遊べない、『ハロウィン』大喜利はできないという判断でしょう。青春映画とのミックスという大胆なジャンルミックス、やや「ハロウィン」シリーズとして見ると困惑。折角、最終作品なので、新キャラを追加せずに、今までのキャラクターでもう少し早めにスプラッタシーンが欲しいなぁとか思いながら、やや首を傾げながら見ていましたが、最後はしっとり、まさしく2018年の『ハロウィン』、今までホラー映画の被害者だった人物の心の傷に寄り添って開幕したこの三部作の締めにふさわしい、しっかりローリーの心と向き合った、ファイナルガールセラピー三部作最終作としてふさわしいしっとりとした締めを見せてくれるので、これがベストの締めなのかとも思いました。しかも、2023年春ホラー特集にふさわしい「花見」映画でもありました。4月14日公開です。デヴィッド・ゴードン・グリーン監督、次作は『エクソシスト』三部作ということで、一体、どうなるのか不安半分期待半分で待ちます。

【作品情報】
『エスター ファースト・キル』
3月31日(金)全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2021 ESTHER HOLDINGS LLC and DC ESTHER HOLDINGS, LLC. All rights reserved.

『オオカミ狩り』
2023年4月7日(金)新宿バルト9ほか全国公開
配給:クロックワークス
© 2022 THE CONTENTS ON & CONTENTS G & CHEUM FILM CO.,LTD. All Rights Reserved.

『ハロウィン THE END』
2023年4月14日(金)公開
© 2022 UNIVERSAL STUDIOS

『ダークグラス』
4月7日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
配給:ロングライド
Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.


茶一郎
最新映画を中心に映画の感想・解説動画をYouTubeに投稿している映画レビュアー

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