ジェンダーレス制服はLGBT配慮か?特別視を懸念、対象は「T」 識者が見解「多様である状態が自然」

中学、高校の入学式シーズンになると、新たな制服に身を包んだ生徒たちの姿を目にすることになる。その「制服」といえば、近年、「ジェンダーレス制服」を導入する学校が増えているが、この傾向は当事者にとって「好ましい動き」とみてよいのだろうか。性的マイノリティの問題に取り組む一般社団法人 「fair(フェア)」代表理事で、教育機関や企業、自治体での研修、各媒体での執筆やSNSでの発信を続ける松岡宗嗣氏(28)に見解を聞いた。

2015年に文科省の「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」という通知が出され、学校側も制服の在り方を検討し始めた。大手制服メーカーは当サイトの取材に「(1)選択肢の増加(2)性差を感じさせないデザイン(3)多様な性を受け入れる環境づくり」の3点をポイントに挙げた。報道される機会も増えている。

だが、松岡氏はこの動き自体を歓迎しつつ、違和感を覚える点もあるという。

「制服をめぐるニュースに関しては大きく2つの疑問があります。1つは見出しで『LGBT配慮』と語られることがあって、気持ちは分かるのですけど、誤解を与えます。制服で困りやすいのは主にトランスジェンダー(T)で、シスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別と性自認が一致している人)のLGBはあまり困ることはありません。また、『ジェンダーレス制服』という枠組み自体が『特殊な人への特別な対応』と捉えられてしまう懸念があります」

そう指摘した同氏は「トランスジェンダーだけでなく、多数派であるシスジェンダーの女性でも、例えば『寒いから』といった理由でスラックスをはきたい人もいるはず。『かわいそうな人たちへの特別対応』みたいになると、かえって利用しづらくなる懸念もあります。『みんなが好きなスタイルを選択できる』という価値観で広がって欲しいと思っています」と付け加えた。

では、男子として入学した生徒のスカート着用はどうだろうか。松岡氏は「制服に限らず、女性のパンツスタイルはそもそも違和感を持たれないですが、逆は難しいですね。トランスジェンダーの生徒がスカートスタイルを選択できることは当然保証されるべきですが、カミングアウトしていない生徒にとっては、ハードルが高いでしょう。制服の性別選択を自由化するのと同時に、受け止める生徒や先生側の認識を変えていく必要がありますし、社会全体として、例えば男性のスカートスタイルもファッションとして一般的になれば、また違った状況になるかもしれません」と解説した。

松岡氏は1994年生まれ。2010年代初めに高校生だった世代だ。 「WHO(世界保健機関)が同性愛を〝精神障害〟から外したのが90年。私が生まれる4年前まで〝病気〟とされていたことを知った時には驚きました。物心ついた時、揶揄されることはあっても、『同性愛が病気』という言説は否定されているのが前提だったので…。しかし、いろんな方の活動の積み重ねだと思いますが、特にここ10年で、パートナーシップ制度が地方自治体で広がったり、トランスジェンダーの従業員の性別移行をサポートする企業も出てきたりとか、性的マイノリティを取り巻く社会が各所で大きく変わりつつあるのは確かです。学校の制服が自由に選べるようになってきたということもその流れにあると思います」と背景を説明した。

その上で、松岡氏は「現在はLGBTといった言葉の認知度は高くなったし、そういう人が世の中にいるという理解もされている。ただ、自分の家族や友人、職場の同僚といった身近な範囲にも当事者がいて、実はカミングアウトできない状況にある、という認識にまでは至っていないと思います。よく分からないイメージ上の存在ではなく、(近くにいる)『●●さん』として実感値を持って認識できることが大事かなと思います」と問題提起した。

松岡氏は、鈴木亮平と宮沢氷魚がゲイカップルを演じた映画「エゴイスト」(2月公開)の宣伝監修を担当している。同作を劇場で観た。物語は中盤に起きた「突然の出来事」によって大きく転換し、阿川佐和子が演じる(宮沢の)母親と息子の恋人男性(鈴木)との交流が淡々と描写される。「性」や「世代」といった境界線を問い、「違う価値観を持つ相手を受け入れ、互いに尊重すること」を模索する視線を感じた。

松岡氏は「自分は今のところゲイですけど、異性を好きになる可能性は全然あり得ると思っています。ヘテロセクシュアル(異性愛者)だと自認している人であっても、同性に対して惹(ひ)かれることもある。そうした『揺らぎ』も含めた『多様である状態』が自然なのかなと思います」と語った。

LGBTに限定せず、人がより生きやすい在り方を模索していくこと。学校制服も、その契機になるだろう。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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