WWFなど5団体が水産業の生物多様性リスクへの対応を促す機関投資家イニシアティブを設立

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WWF(世界自然保護基金)など自然や生物多様性の保全に取り組む5団体はこのほど、機関投資家の影響力を利用して、水産業者が自然や生物多様性に関連する重大な影響・リスクに取り組むことを促すイニシアティブを立ち上げた。5団体は2月、エコノミスト誌がポルトガル・リスボンで開いた「世界海洋サミット」でこの取り組みを発表した。(翻訳・編集=小松はるか)

イニシアティブでは、水産物のバリューチェーンから乱獲、違法行為、生息地の改変をなくすことを目的に、志を同じくする投資家を集め、主要な水産業者らと共に目標を定めて取り組みを進める計画だ。参画するのはWWF、FAIRR(食品業界のESGリスクに取り組む機関投資家ネットワーク)、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)のブルー・エコノミー・ファイナンス・イニシアティブ、プラネットトラッカー、ワールド・ベンチマーキング・アライアンスの5団体。

投資家らはまず、水産業者がサステナビリティの最良事例を実践できるように取り組む計画だ。具体的には、バリューチェーン全体におよぶトレーサビリティシステムの開発や、混獲と廃棄の削減、フードロスと食品廃棄物の削減、国際的に認められた基準への適合などを目指す。

米WWFでブルーファイナンスを担当するルーシー・ホームズ氏は、「持続不可能な水産製品は海の健全性に悪影響をもたらし、未来を危機にさらす。水産業が自然や健全な海に計り知れないほど依存していることを考えると、持続可能な水産物の実現に取り組むことは、投資家にとって広範な自然や生物多様性に関するリスク・影響に対処するための最適な方法だ」と語る。

今回のイニシアティブ発足のきっかけとなったのは、資産運用会社の水産関連投資を評価したWWFの報告書だ。報告書によると、資産運用会社のほとんどが生物多様性や自然資本への影響をリスクだと公に認めているものの、水産物がもたらすリスクや悪影響に対処していないケースが圧倒的に多いことが分かった。開示情報の評価を受けた42社の資産運用会社のうち、投資先の水産業者に対する環境・社会課題に関する期待値をすでに策定・公開している企業は1社のみだった。報告書は、資産運用会社をこうした視点から初めて評価したもので、特に投資家が連携する形で、水産物に関連する課題への取り組みをさらに強化する必要性があることを明確に示している。

一方で、銀行の取り組みについては、水産物に対する考えが少しは進んでいるものの、対応すべきことがまだあるとの見解を示す。銀行の水産物関連の方針・対応を評価した最新の調査によると、主要な水産業者に融資する銀行の多くが水産業における環境・社会課題に取り組む必要性を認識しているが、現在の方針ではリスクへの関与を防いだり、リスクを管理するのが不十分な状況だ。この分析は、銀行の水産業関連の方針を評価したWWFの報告書『Above Board: 2022 Baseline Assessment of Banks’ Seafood Sector Policies』にまとめられているが、調べた41の国際的な銀行のなかで水産業に関する方針を開示している銀行の割合は2割にすぎなかった。

こうした状況に対し、WWFは銀行と投資家向けの支援の一環として、2021年から金融の専門家を対象にしたEラーニング講座「シーフード・サステナビリティ101(基礎編)」を展開し、受講生を募集している。これまでにすでに31カ国6000人以上が受講している。

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この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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