<社説>学術会議法改正 学問の自由脅かす暴挙だ

 政府は日本学術会議の組織見直しで、会員選考に関与する新設の機関「選考諮問委員会(仮称)」の案を学術会議の幹部に説明した。政府は、諮問委の新設を盛り込んだ日本学術会議法改正案の今国会提出を目指している。 諮問委員会は科学研究の動向や産業などへの成果の活用、科学振興の政策に見識がある5人で構成する。「科学の知見を持つ関係機関」と協議した上で、学術会議の会長がメンバーを任命する。会員選考に際し、学術会議はあらかじめ諮問委の意見を聞き、尊重しなければならない。

 諮問委の運用次第では、学術会議の中立性、独立性が損なわれる恐れがある。既に学術会議から「監視のための法制改正だ」との批判が出ている。政府側が具体的な法案の条文を示していないことにも学術会議側から反発が出ている。このまま、法改正を強行することは許されない。

 学術会議を巡る問題は、菅義偉前首相による会員候補6人の任命拒否に端を発しており、現在まで十分な説明がされていない。任命拒否の問題に決着を付けることが先だ。

 改正案は「首相の任命権が形式的か否か」も焦点となっている。従来は、学術会議の推薦を追認する形式的なものとされた。1983年に当時の中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と国会で答弁している。ところが改正案は実質的な任命権は首相にあるとする解釈を維持しようとしている。

 諮問委や首相の任命権を通じて政府に都合のいい会員の選考を意図しているのであれば許されない。憲法が保障する学問の自由や言論の自由を脅かす暴挙である。

 学術会議への説明で、政府の担当者は「首相や政府が会員選考のプロセスに介入するような考えは一切ない」と強調した。そのような姿勢を保持していたならば、菅前首相による任命拒否の問題も起きなかったであろう。政府の説明は説得力を持たない。

 菅氏に任命を拒否された6人は「共謀罪」法案や安全保障関連法案、特定秘密保護法案に反対した。辺野古新基地建設に抗議する声明を出した人もいた。任命拒否は「異論は認めないという姿勢の表れだ」との見方が強い。

 戦前、日本の学術は政府に従属し、戦争遂行を支えた。そのことへの反省があったからこそ、政府から独立した機関として、核兵器研究の拒否などの声明を発出してきたのが日本学術会議だ。

 今回の改正案に、学術会議の梶田隆章会長は「歴史の転換点となり得る大きな問題だ」と強く反発する。学問の自由を毀損(きそん)し、民主主義の否定につながるような行為を見過ごしてはならない。

 政権におもねず、独立した立場で政府の政策決定に意見することに日本学術会議の存在意義がある。それをゆがめるような政府の会員選考への関与は許されない。

© 株式会社琉球新報社