貯金が底を尽くピンチ乗り越え20年 JRA騎手から革職人に転身した佐伯清久さん

騎手から革職人の道へ。佐伯清久さん(52)は2005年にJRA騎手を引退してから20年近く、革製品の職人として滋賀県・栗東市で活動をしている。競走馬を調教するJRA栗東トレーニング・センター近くに工房「Bull’z-F」(ブルズエフ)を構え、乗馬や調教で使用するレザー装具やレザーウォレット、バッグ、小物などの日用品も販売。スタッフは1人いるが、佐伯さんほぼ一人で手がけている。

きっかけは成績不振と調教中のケガだった。騎手の引退と同時に革製品の職人になること決断。「趣味でもあったし、自分の好きな道で行こうかなと。今みたいにうまくいくとは思っていなかった」と振り返る。調教助手として競馬界に残る選択肢もあったが、全く考えていなかった。もともと物作りが得意。騎手生活の傍ら自身の財布や、調教中に使用するチャップス(脚部の革製防具)などを製作。騎手仲間にも話が広がり、格安でチャップスを提供していた。

ただ、引退と当時に本格的に始動したが、最初はほとんど仕事がなかった。1000万円ほどあった貯金も残り数万円と底を尽きかけようとしていたとき、救いの手が差し伸べられた。2007年の天皇賞・春を制したメイショウサムソンの祝勝会に呼ばれ、松本好雄オーナーから直接、記念品の製作を依頼された。財布、コインケース、キーケースを50個ずつ。関係者に配られ、知名度もアップした。「ホンマに助かりました」と感謝する。

また、引退した騎手が革職人に転身したということで、さまざまなメディアで取り上げられ、競馬関係者以外にも多く知られるようになった。「騎手が革職人になるなんて、珍しいですからね。本当にありがたいです」。当然、話題だけが先行しても長くは続かない。オーダーメードが主力でもあり、顧客からのさまざまな要求に応えながら、信頼を勝ち取ってきた。「お客さまに鍛えられました」と話した。

徐々に経営も軌道に乗ってきた。JRA関係者をはじめ、牧場や地方競馬関係者からチャップスの注文が入るようになった。他にも知人から栗東市でふるさと納税の返礼品を募集していると聞き、応募すると採用。年間でペンケース、ロングウォレットなど20種類以上、約500個の製品を製作している。

「苦労?そんなことは思ったことはないですね。割と前向きで、いいようにしか考えていないので」と淡々と話す。目標に関しても「ないですね」と即答。「こだわりもないです。今が充実しているので。これ以上、何をしようかなあ」。あくまで自然体で自分の好きな道を歩み続ける。

◆佐伯清久(さえき きよひさ)1971年3月12日生まれ。滋賀県出身。JRA競馬学校卒業後、騎手として1989年3月4日にデビュー。2005年2月28日に引退。JRA通算成績は1948戦77勝。引退後は革製品の職人として活動を始める。

(よろず~ニュース・中江 寿)

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