高市大臣が有印私文書変造容疑で刑事告発 パー券収入を秘書と共謀して無断で訂正か 「極めて悪質で傲慢」と専門家が批判

◆パー券問題で告発は5度目

高市早苗経済安全保障担当大臣と第一公設秘書の木下剛志氏の二人が共謀し、「自民党山添村支部」(以下、山添村支部)の政治資金収支報告書を権限がないのに勝手に訂正していたとして、奈良地検に有印私文書変造、同行使罪と政治資金規正法の収支報告書の虚偽記入罪の疑いで刑事告発された。一連のパーティ券疑惑で、高市大臣が刑事告発されたのは5度目。「他の政党支部の収支報告書を勝手に訂正していたのなら極めて悪質で傲慢」と専門家は厳しく批判した。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)

有印私文書変造などの共謀容疑で刑事告発された高市早苗経済安保担当大臣 高市氏のHPより

告発状によると、自由民主党奈良県第二選挙区支部(以下、第二支部)の代表である高市大臣は、公設秘書で第二支部の会計責任者である木下氏と共謀して、権限がないにも関わらず別の自民党支部である山添村支部の政治資金収支報告書(以下、収支報告書)を手書きで訂正し、山添村支部の会計責任者のハンコ(印章)を使用して訂正印を押していた。これは有印私文書変造、同行使罪にあたるだけでなく、収支報告書の虚偽修正にもあたると指摘している。

金額を訂正された山添村支部の収支報告書。鑑定によれば筆跡は公設秘書の木下剛志氏のものだという。写真は「しんぶん赤旗日曜版」提供。

金額を訂正された山添村支部の収支報告書。鑑定によれば筆跡は公設秘書の木下剛志氏のものだという。写真は「しんぶん赤旗日曜版」提供。

◆赤旗のスクープ記事

話を少し前に戻そう。

2021年7月、第二支部は政治資金パーティを開催した。山添村支部は22万円分のパーティ券を購入したと収支報告書に記載していた。しかし、第二支部は、パーティ券収入の欄にその明細を記載していなかった。この事実を「しんぶん赤旗日曜版」(以下、赤旗)が報道したところ、山添村支部の収支報告書は昨年12月に「パーティ券の購入代が12万円分」「10万円は『その他の支出』」と訂正された。

1件につき20万円未満のパーティ券収入は詳細を収支報告書に記載しなくてもよいことになっている。山添村支部が購入したパーティ券分が12円分なら第二支部のパーティ券収入の詳細に記載する必要がなくなるのだ。つまり22万円のパーティ券購入代を支出したと記載した山添村支部の収支報告書が間違っていたと装おうとしたと見られる。

訂正した箇所には二重線が引かれていた。そしてその左下に訂正した金額である12万円が手書きで記載され、横に訂正印が押されていた。その手書き部分の筆跡が、高市大臣の第一公設秘書である木下氏のものと一致したという鑑定結果が出たと、赤旗が3月5日に報じた。

さらに、山添村支部は訂正する際、手書きで訂正願いを出しているのだが、なんとその筆跡も鑑定で木下氏の筆跡と一致したというのだ。つまり、山添村支部の収支報告書を訂正したのは、山添村支部の代表でも会計責任者でもなく、訂正する権限のない高市大臣の公設秘書だったということだ。

さらにだ。訂正印は山添村支部の会計責任者のハンコである。最初に提出された収支報告書の最後のページには宣誓書があり、そこにも山添村支部の会計責任者の印鑑が押してある。そのハンコと同じなのである。では、この山添村支部の会計責任者のハンコは誰が押したのか…。

◆山添村支部は「訂正のことは全然知らなかった」 では誰が修正?

赤旗は2021年の高市大臣のパーティ券問題について山添村支部を取材、これに対して「支部では(パーティ券を)11枚購入し11人が参加した」と回答している。要するに、11人分である22万円分を山添村支部で購入したということだ。これは訂正前の収支報告書と合致する。

さらに、山添村支部の収支報告書が訂正された後の赤旗の取材に対しては、「訂正のことは全然知らなかった。事前も事後も報告はなかった」と訂正されたことすら知らなかったと山添村支部の会計責任者は語っている。

それだけではなく「私は訂正に関与していないので聞かれてもわからない。誰が訂正したかも知らない」とも話した。山添村支部の収支報告書を訂正する権限がある会計責任者がその訂正に関して何も知らなかったわけだ。つまり、山添村支部の会計責任者があずかり知らないうちに、収支報告書が訂正されていたという驚くべきことが起きていたというのだった。

では、訂正印は誰が押したのか?

筆跡鑑定の結果が正しとすれば、高市大臣の公設秘書の木下氏が押した可能性が高いと考えるのが普通だろう。告発状では、木下氏が山添村支部の収支報告書を作成・訂正する権限がないのに訂正し、訂正印を押したと結論付けている。

山添村支部の2021年分収支報告書は、今年1月に2回目の訂正がなされ、昨年12月の「10万円は『その他の支出』」との訂正も削除され、支出総額等も10万円減額する訂正がなされた。この時の手書きの訂正願の筆跡も鑑定され、木下氏の筆跡と一致したと赤旗は報じた。

山添村支部が赤旗の最初の取材時に回答した「11人分を購入した」ということが正しければ、木下氏が訂正をしたのは収支報告書の虚偽修正だ。有印私文書変造・行使罪だけでなく、政治資金収支報告書の虚偽記入罪にも該当する。

権限のない他の政治団体の収支報告書を虚偽修正するということを、高市大臣の承認を得ず行うとは考えにくいことから、公設秘書の木下氏は高市大臣と共謀したに違いないと告発状は指摘している。

◆勝手に訂正なら極めて悪質で傲慢

高市大臣と木下氏を刑事告発した神戸学院大学の上脇博之教授は次の様に指摘するとともに厳しく批判した。

「昨年12月の1回目の訂正については、今年2月に規正法違反の虚偽記入罪で告発しました。訂正された文字の筆跡が高市大臣の秘書の筆跡と一致したと赤旗が報道したので、3月6日付の告発状において、2回の訂正を有印私文書変造罪で告発し、2回目の訂正を虚偽記入罪で告発しました。

高市大臣側が保身のために、他の政党支部の収支報告書を勝手に訂正したとすれば極めて悪質で傲慢です。高市氏は大臣として失格ですが、議員としても失格です。検察は捜査を尽くして厳重に処罰すべきです」

収支報告書を作成する権限のない人が勝手に書き換えていたとなると前代未聞の事件である。これが事実ならば、収支報告書の信頼性が揺らぐだけでなく、政治や民主主義さえも揺らぐことになりかねない。しかも、総務大臣や特命大臣など重要閣僚を歴任した現役の大臣が、その公設秘書が共謀して行ったのであれば、岸田首相の任命責任が問われねばならないだろう。

■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。

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