除去工事のアスベスト漏えい、2022年度「通告」調査でも33% 累計37.3%と高止まり 環境省調査

2022年度の環境省調査で吹き付け材などの除去作業のうち、3分の1で空気1リットル中1本超のアスベスト(石綿)が外部に漏えいしていた。ずさんな工事が続いている実態が垣間見える。(井部正之)

2023年2月に開催された環境省アスベスト大気濃度調査検討会の資料の一部。この資料から関連する測定データを抜き出して独自に漏えい率を調べた

◆「通告」調査でも3分の1漏えい

同省が毎年実施している大気中の石綿濃度の測定結果を筆者が独自に調べた。2022年度のデータは同省が2月15日に開催したアスベスト大気濃度調査検討会(座長:山﨑淳司・早稲田大学理工学術院教授)の資料に含まれる。

2022年度同省は、全国40地点の計98カ所で大気中における石綿を含む可能性のあるすべての繊維「総繊維数濃度」を調べているが、そのうち改修・解体現場は計5地点。作業場をプラスチックシートで隔離し、内部を減圧するなどしたうえで、加圧式の全面マスクや防護服を着用して厳重な対策で実施する吹き付け石綿など、いわゆる「レベル1~2」に該当する作業は3地点だった。

まず新潟県の解体現場では負圧隔離された作業場から作業員が出入りする「セキュリティゾーン」出入口で空気1リットルあたり1.7本の石綿を含む可能性のある繊維「総繊維数濃度」を検出。だが、走査電子顕微鏡(SEM)による詳細分析で、石綿の含有はないことが確認されている。

残る千葉県の解体現場2地点のうち、1地点では同1本超の漏えいは確認されなかった。もう1地点については、負圧隔離された作業場から作業員が出入りする「セキュリティゾーン」出入口で最大で同68本を検出した。SEMによる詳細分析で実際にクロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)が同38本検出している。そのため3地点中1地点(33.3%)で1本超の石綿の漏えいが確認されたことになる。

2010年度以降の測定データから同様に年度ごとの漏えい率を調べると、2022年度を加えた13年間で累計37.3%と高止まりしていることがわかる。

同省調査で重要なことは、件数は少ないものの自治体から推薦を受けた現場について事業者の同意を得たうえで、事前に立ち入り日程を通告して実施していることだ。

◆石綿漏えい4割弱でも対応なし

事業者はきちんと届け出など必要な法手続きをして、真面目に取り組んでいる。だからこそ国の測定に同意したのだ。当然、あらかじめ知らされた日程の測定に備えて万全の準備をして望んでいる。にもかかわらず、4割近くで石綿が外部に漏えいしているのだ。抜き打ち検査すれば、間違いなくもっとひどい結果となるだろうことは同省検討会の委員もかねて認めている。

同省検討会ではこうしたデータのまとめや考察をしておらず、この“惨状”について評価もしていない。この深刻さが同省の毎年の発表からは伝わらない。

2020年の石綿規制改正では、作業時の飛散・ばく露防止対策についてはほぼ強化していない。むしろ規制緩和した部分すらある。現場作業としてはほとんど変わっていないのが実態だ。

石綿飛散事故だらけの現実を踏まえて、いまだ放置されたままの除去業者の許認可制や作業場内外の徹底した測定による業務管理などを早急に法令で義務づける必要がある。実地研修すらない除去作業者の講習制度見直しも重要だ。多くの課題がいまだ先送りされている現実に改めて目を向ける必要がある。

いま手を打たなければ、今後も作業者や現場周辺の人びとの石綿被害が拡大していくことになりかねない。吹き付け石綿が使用された可能性のある建物の解体ピークが目前に迫っており、浪費する時間はない。

【資料】環境省調査にみる各年度のアスベスト漏えい率

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