<北朝鮮最新調査>まだ世界最長! 今年の男子の兵役は8年、志願制の女子は5年 兵役の実態を調査してみると…

路地の市場に買い出しに来ていた女性兵士。2013年6月両江道にて撮影「ミンドゥルレ」(アジアプレス)

◆進学奨励し入隊免除措置も

2023年度の朝鮮人民軍の服務期間が、男子は17歳から8年間、女子は5年間、特別な兵種は10年間と定められたことが分かった。平安北道(ピョンアンプクド)の取材協力者が、兵役事務を扱う国防省隊列補充局傘下の「軍事動員部」の関係者に会って確認した。(カン・ジウォン/石丸次郎

北朝鮮の軍服務期間は2000年代に入って伸び始め、アジアプレスの国内調査では、2020年に義務制の男子は13年、志願制の女子は8年にまで伸びた。1990年代後半の大飢饉以降、子供の死亡者の増加と出生数が減少したのに伴い、入隊する若者が大幅に減り、それを服務期間の延長と女子の入隊奨励で補うという窮余の策だった。

金正恩政権が方針を転換したのは2021年。1月の労働党第8回大会後に服務期間を男子8年、女子5年に短縮して兵員の大幅削減を断行した。満期を超えていた兵員を大量除隊させて、人員不足で生産に支障が出ていた農業、鉱業、炭鉱などの分野に配置した。

新兵入隊の行事は全国で大々的に行われる。写真は2006年に撮影された清津市での歓送行事。撮影リ・ジュン(アジアプレス)

◆困難家庭は兵役免除の可能性

「軍事動員部」では、高級中学校(高校に当たる)を回って「招募」と呼ばれる軍入隊の手続きを進める。取材協力者が1~2月に会った「軍事動員部」の関係者が説明した今年卒業予定者を対象にした「招募」の特徴は次のようなものだ。

・政府は大学や専門学校への進学を奨励していて、合格者は男女関係なく「招募」対象から外す。

・生活困難家庭の者を「招募」から除外せよという指示が上から出ている。一人っ子家庭や、高齢、疾病などで働けない家族を一人で扶養している場合などは入隊を免除される。それを利用して息子をなんとか軍隊に行かせようとしないケースも見られる。

・3月1日から面談と身体検査を行い、3月末から配置先を決める。

・男子は義務で、女子は志願制だ。「軍事動員部」の担当官が学校の教室に入って、軍隊に行きたい生徒を立たせて選抜する。

◆入党が約束されないなら軍に行かせる必要ない

「動員部の人によると、このご時世、暮らしが大変なので、子供を一人しか産まない家庭が多く、入隊者が非常に不足しているそうだ。それでも上部では、勉強ができる者は皆進学させよという方針だ」

調査した協力者はこのように言う。

北朝鮮では、長く男は軍隊に必ず行くという考えが支配的で、大学に進学した者も卒業後に入隊するのが当たり前だった。軍服務を終えないと労働党への入党の道が開かれないというのが一番大きな理由だ。しかし、軍入隊に対する考えも大きく変化しているという。協力者が説明する。

「最近では、入隊を避けるために息子を何とかして大学や専門学校に進学させようとする親が多い。一昨年から、軍服務を終えて除隊したのに入党できない人が大勢出ている。政府が入党基準を厳しくしたためだ。親としたら、入党できないなら無理に軍隊に行かせる必要はないと考える」

◆貧しい家庭の息子が入隊

人民軍の一般兵士の食事事情は極めて劣悪だ。新兵が栄養失調になるというのは社会常識になっている。息子・娘が心配な親たちは差し入れをしたり、間食を食べられるようお金を送ったりしていた。

だが、新型コロナウイルス・パンデミック以降、様相が変わった。経済麻痺によって都市住民の窮乏がはなはだしく、「食べられないので、軍隊に送った方がましだと考える貧乏な家庭もある」という。

前述した免除条件を満たさないものの、困窮している家庭は多い。余裕のある家庭は子供を進学させて入隊を忌避できるが、食べ物にも事欠くような家庭では、そうもいかなくないようだ。

◆人気の配置先はミサイル部隊

希望する配属先にも変化がある。最近まで人気があったのは保衛省(秘密警察)、安全省(警察)、沿岸警備隊、警務部(憲兵)だった。待遇がいいうえ、賄賂収入が見込めるからだ。今年にわかに人気が出ているのはミサイル部隊だという。

「ミサイル部隊は待遇が格段によく、金正恩が参加する 『1号行事』に関係する機会が多くて、『配慮』による贈り物が下賜されることが多いのだ。余裕のある家庭では、これらの部隊に配置されるよう『軍事動員部』に賄賂を使う」

配属先は賄賂の額によって左右されるが、決まるのは3月の後半になってからだという。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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