【特集】新潟で「働きがいのある会社」をつくるために必要なこと、Great Place To Work® Institute Japan(東京都)の荒川陽子代表に聞く

新潟県が3月17日に公表した令和4年人口移動調査結果報告によると、新潟県の人口は前年同月から24,215人、1.11%減少し、減少率は過去最大となった。新型コロナウイルスの拡大によって地方分散への注目が高まった一方で、依然としてポジティブな変化が見られなかった。

人口動態の推移 新潟県公表の「令和4年 新潟県人口移動調査結果報告」(要約)より引用

人口流出の問題は、「働く場の有無」が大きく影響すると考えられる。少子高齢化が進み、人手不足が深刻となっている昨今、新潟県内に魅力ある企業が増えていく事は、人口減少に歯止めをかける上では重要であることは想像に難くない。

「働く場」の状況は、首都圏の企業と新潟のような地方企業とでは、どのような違いがあるのか。そして、新潟の企業が「選ばれる会社」となるためには、何が必要なのだろうか。

日本の職場に「働きがい」を。

1991年に米国で設立されたGreat Place To Work® Instituteは、「働きがい」に関する調査・分析を行い、一定の水準に達していると認められた会社や組織を各国の有力なメディアで発表する活動を、世界約100ヶ国で実施している。

同社からのライセンスを受けて日本で運営している調査機関がGreat Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan、東京都)。GPTW Japanは、日本に「働きがい」のある職場を増やすため、組織の「働きがい」の現状を明らかにする調査、「働きがい」の研究、「働きがいのある会社」の認定や国内ランキングの発表、研修サービスなどを手がけている。

地方で「働きがいのある会社」をつくるためにはどうしたらいいか、GPTW Japanの荒川陽子代表に聞いた。

GPTW Japan(東京都)の荒川陽子代表

「働きがい」とは何か

——GPTW Japanは、「働きがい」をどのように定義していますか

荒川代表 一番シンプルにお伝えをすると、「働きがい」は、「働きやすさ」と「やりがい」の二つからなります。

「働きやすさ」とは、快適に働くための環境や報酬条件など、いわゆる衛生要因と言われるものです。「やりがい」は、仕事に対するモチベーションなど、動機づけ要因と言われるものですね。この両方が揃って初めて「働きがいがある」と定義しています。

そして、グローバルで共通の働きがいの定義としては、「全員型『働きがいのある会社』モデル」というものがあります。「働きがいのある会社」では、マネジメントと部下、現場の一人一人との間に信頼関係がしっかりとあり、その上で一人一人が自分の持てる能力を最大限に発揮できるということを示しています。働きがいの根幹に「信頼」があるということを特に大事にしています。

そのような会社には有効なリーダーシップがあり、価値観やバリューがはっきりしていてイノベーティブなカルチャーがあります。これを簡単に言うと、「働きやすさ」と「やりがい」が整っている会社であり、「働きがい」が高いということです。

——「働きやすさ」は目に見えやすい一方で、「やりがい」は捉えにくい印象がありますが。

荒川代表 はい。その通りですね。やはり一人一人何にやりがいを感じるかは違います。職種や会社によっても傾向が出てくるものです。

これをきちんと可視化するためには、例えば我々のアンケート調査などを定期的に行うことで、社員のやりがいがどこにあるのか、もしくは、今どこが毀損されてしまっているのか、これらをきちんと可視化して、データとして見ていくことが非常に大事です。

自社への誇りを持つが、大切にされていないと感じる従業員

——これまでの調査では、新潟にはどのような傾向がありますか?

荒川代表 新潟県だけのデータは、母数が少なく単独では取れていませんが、中部エリアとしては、傾向値が出ています。

昨年の集計では、「自社が提供している商品・サービスが顧客から評価されている」「地域社会へ貢献している」と感じている社員が、中部エリアでは多いという傾向が出ました。その一方で、「専門性を高めるための研修能力開発の機会が十分ではない」という傾向が出ました。

つまり、自社の商品やサービスに対しては誇りを持てているのだけれども、(会社から)尊重されていないと感じているという傾向が、1つの特徴です。

「各地域における『働きがいのある会社』優秀企業」において特徴的に高い要素(提供 GPTW Japan)

「各地域における『働きがいのある会社』優秀企業」において特徴的に低い要素(提供 GPTW Japan)

——「誇り」を持てているという傾向は、どのように捉えたらいいのでしょうか?

荒川代表 「この会社は地域・社会に貢献している」という設問に対して、地方企業の方が東京の企業よりも肯定的な回答の割合が高いんですね。

誇りが高いということは素晴らしいことで、これは強みです。自分たちの商品やサービスが良いものだと実感し、そして社会に貢献できているという感覚。それを、テコにして尊重を高めていく事ができれば、働きがいを更に高められるのではないでしょうか。

また、社員の誇りが高いという事は、経営者の方々には自信をもってもらえたらいいと思うし、大事にしていただきたいです。地域密着で仕事ができるというのは、大きな強みだと思います。

——社員の「誇り」を活かす具体的な施策はどんなことでしょうか?

荒川代表 たとえば、「地元のスポーツチームを応援する」などもそうですが、地域社会で自社が貢献できることを考えて行うことです。例えばIT系の企業であれば、プログラミングの授業をボランティアとして小学校で開催するとか。大学へ積極的にリレーション作りに出向いて行って、地域との繋がりを意識している会社もあります。

また、ある会社では、過疎地の農家さんのところに行って、農作業を手伝うだけではなくて、どうやったらその地域が活性化するかアイディアを出し合うビジネスコンテストを開催していました。

本当に地元へ貢献できることは何か、自社ができることは何かを、社員全員で一緒に考えてみることです。こういうことで、「誇り」はより高まっていくと思います。

——「尊重されていないと感じている」傾向は、どのように捉えたらいいでしょうか?

荒川代表 これは会社からは自分が大切にされていると思っていない人が多いという傾向です。

たとえば、社員が能力開発や研修の機会が足りないと感じているのであれば、どんなスキルアップをしたらいいのか、どのようなプログラムがあれば社員が「この会社はすごく社員のことを考えている」と思ってもらえるのかを考えたらいいと思います。

GPTW Japan(東京都)の荒川陽子代表

——会社によっては教育への費用捻出が課題となるところもありそうですがいかがでしょうか

荒川代表 お金かけなくてもできる「社内の学び合い」という方法もあります。従業員が自分の専門性を生かして得意なことを教え合うという取り組みです。これは若手社員でも講師役になれるもので、例えば最近のSNSに関してなど、「若者の価値観」という内容で1時間のプログラムにしてみるとか。

もちろんベテランが自分の技能を伝えるということも、いいと思います。このような「社内アカデミー」のような、学び合いの場を作っていくことです。これはお金かけなくても出来ることですよね。

また、社内のコミュニケーションネットワーキング作りにも寄与するので、とても良い施策だと思います。

——社員同士の学び合う機運を高めるにはどうしたらいいでしょうか?

荒川代表 自然発生的に待つというのは駄目です。まずは会社がそういう機会を意図的に作ることが大事です。「なぜやるのか」の発信も、もちろんセットで行うべきです。

そして、できれば「勉強会は就業時間外」ではなく、1時間でいいから就業時間中で実施、なんならちょっとしたお菓子などを出して、学びやすい環境を整えてあげられると、「ああ、うちの会社は従業員に対してすごく温かい。従業員のことを考えてくれている。この会社でよかった」と思ってもらえることに繋がると思います。

——「働きがい」を高める大切さが広まる一方で、なかなか一歩が踏み出せない経営者もいると思いますがいかがでしょうか?

荒川代表 そうですね、よく聞かれます。何のために働きがいを高めるのですか? 儲かるんですか? 美味しいんですか? と(笑)

過去の調査から働きがいと業績は相関があることが分かっていますが、働きがいの向上と業績の向上の因果を証明することは難しいです。今この業界で因果を証明できている企業は1社もないと思います。

鶏が先か卵が先かわかりません。業績が上がったから働きがいが良くなったのかもしれない。それでもやはり我々のランキングにランクインしている企業の経営者の方々からは「働きがいが高いからこその業績だと思いますよ」と、よくおっしゃっていただける。

科学的にデータで証明されているわけではないですけれど、経営者の方が本気で働きがい向上にコミットすることは、巡り巡って業績にインパクトしている。これは真実だと思います。

GPTW Japan(東京都)の荒川陽子代表

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まず取り組むべきは従業員意識調査

GPTW Japanが提供する「『働きがいのある会社』調査」は、従業員に対して60の設問があるアンケート調査と、会社に対して従業員の働きがいを高めるための取り組みについてのアンケート調査を行う。

GPTWは調査結果から評価・格付けするグローバル共通の独自の方法論を持ち、その結果から認定・ランキングを決める。また、GPTW Japanではアンケートから得られた結果を会社にフィードバックし、コンサルタントがフォローアップするプランも提供している。

「知識基盤社会」といわれ、知識の価値や多様性が重視される現代。「働きがい」と向き合い、持続的に成長していく会社が、今後ますます求められ、選ばれていくと考えられる。

会社の現状を知ることは、はじめの一歩。新潟で「働きがい」への意識が高まっていくことに期待したい。

(インタビュー・文 中林憲司)

【関連リンク】
株式会社働きがいのある会社研究所(Great Place To Work® Institute Japan)

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