<ライブレポート>堂珍嘉邦、初のビルボードライブ横浜登場――ソロデビューから10年、さらに“深化”した歌と変幻自在の表現力で届けた濃密な時間

堂珍嘉邦が、4月6日に神奈川・ビルボードライブ横浜に初登場した。

【堂珍嘉邦 Billboard Live 2023】は、その変幻自在の表現力が炸裂した、濃密な約90分のステージだった。ボーカリスト・堂珍嘉邦の魅力がギュッと詰まったこのステージのレポートを一刻も早く届けるべく書き始めたものの、11日の同会場での追加公演を楽しみにしているファンの皆さんのことも考えなければいけない。終演後、本公演を観たオーディエンスのSNSにはセットリストが一切伏せられていてそのマナーの良さに感動したが、ここでは曲目を書いてしまうことをご了承いただきたい。

ショウの始まりを告げるSEが流れ、拍手に迎えられバンドメンバーに続き、堂珍が客席の間を通りステージに登場。

どんな夜になるのか——ステージと客席が近いからこそ生まれるドキドキ感が会場を包む。オープニングナンバーはSPANOVA「魂は木の葉のように」だ。Dr.kyOn(Key/BV)木暮晋也(G/BV)真城めぐみ(BV/Per)砂山淳一(B)山下あすか(Per/BV)後関好宏(Sax)という、堂珍ソロではおなじみ&初参加の腕利きミュージシャンが集結したバンドの放つ音が堂珍の歌と重なると、早速気持ちいいグルーヴが生まれる。サックスとローズの音色とギターが絡む間奏も聴きどころだ。「ようこそ」と客席に向け挨拶し、CHEMISTRYのアルバム『regeneration』から名曲「ALL MY LOVE」へ。どこまでもメロウで真城との掛け合いに引き込まれる。

「やっとこの日がやってきました」と、本人もこのステージを心待ちにしていたことを伝える。冒頭に濃密な90分だったと書いたが、一番強く印象に残ったのは、本人とバンドがとにかく楽しそうにパフォーマンスしていたこと。セッションを心から楽しんでいることだった。

「Believe」は、木暮がアコースティックギターにチェンジし軽やかなリズムを刻む。堂珍の伸びやかなボーカルは、さらにしなやかさを増したように感じる。初出しナンバーのTHE BOOM「真夏の奇蹟」では本人もパーカッションを手に、明るい曲調とややダークな歌詞のコントラストを鮮やかに伝える。フルートが重なり色気を感じるイントロのSkoop On Somebody「Nice‘n Slow」は、どこまでもムーディーで、艶のある声と相まって横浜の夜によく似合う。

「ど、どうですか?」と客席に探りを入れる堂珍。大きな拍手が贈られ笑顔だ。ギターの木暮とコーラスの真城が所属するバンド、ヒックスヴィルが4月5日に29周年を迎えたことを紹介すると「色々な人の時間の流れを見ていると、“続いていること”が尊いと思えるようになった」と、表現者としての現在地を自身でも確認するように語っていた。

ここからは真城とのデュエットコーナーだ。「今日一日は僕の真城さんでいてください」と二人の距離を楽しむ。「星たちの距離(ディスタンス)」はCHEMSITRYの1stアルバムにケイコ・リーが書き下ろし、堂珍とデュエットしたラブソングだ。切ないピアノとコントラバス、美しいハーモニーが重なる。ピーボ・ブライソンとロバータ・フラックのスタンダードナンバー「Tonight I Celebrate My Love」では、真城のソウルフルな声と堂珍のビロードのような肌触りの声が交差するハーモニーが空間に溶けていき、極上の空気が生まれる。

「ここからはノリノリで」と昨年出演した音楽・ダンス・芝居・笑いが融合した舞台『The Dream Co-Star』で出会った「Mr.Bojangles」を披露。レゲエのリズムに乗せ、人生の悲哀を描いた歌詞を伝える。「Caravan」(デューク・エリントン作曲)はコントラバスが激しいリズムを生み、客席からの手拍子が重なり、堂珍も体全体でサウンドを感じ、激しく体を動かしながらエモーショナルに歌う。熱を帯び、クライマックスはシャウトし歓声が沸く。カバーはその「アレンジの妙」も楽しみのひとつだ。このバンドが生み出す音とアレンジが堂珍の歌をさらに印象深いものにしている。

メンバー紹介から、ギターのカッティングに心が躍る山下達郎「SPARKLE」のカバーを披露。堂珍のミックスボイスはどこまでも心地よく、手拍子が熱気を生み、春を越え、ひと足早く夏を連れてきてくれたような感覚になる。

昨年WOWOWの番組に出演した際に初めて歌い、「自分の心境と重なる」と感銘を受けたミュージカルの名曲「僕こそ音楽」(ミュージカル『モーツァルト!』より)を本編最後に披露。まさに圧巻。この日がソロ公演初披露だったが、こまやかな心象風景を確かなテクニックと圧倒的な表現力で描き出し、<ミュージックだけが生きがい>と自身の素直な思いを吐露するように伝えると、客席に感動が広がる。堂珍は2014年の音楽劇『醒めながら見る夢』を皮切りに、『ヴェローナの二紳士』『RENT』『ジャック・ザ・リッパー』と着実にミュージカルのキャリアを重ねてきたが、この日は“ボーカリスト”としてこの曲と向き合い、歌詞に心情を重ね、ファンにまっすぐ伝えた。

アンコールは最新シングルから「My Angel」だ。ひと言ひと言を丁寧に、優しく伝える。その自然で美しいビブラートが耳と心に優しく触れてくる。このライヴでは柔らかく、時に強烈な堂珍の歌が、客席との距離の近さもあって、聴き手の皮膚や鼓膜へとよりダイレクトに伝わっている気がした。それは強い余韻となって心に残る。このステージだからこそ生まれる“何か”を本人、バンドメンバー、そしてお客さんは感じたはずで、この公演を観たファンがSNS上で「シリーズ化希望」とコメントしていたが、激しく同意したい。

この日2ステージを終え、4月11日のビルボードライブ横浜での追加公演では、さらに“深化”した堂珍の歌とバンドのアンサンブルが楽しめそうだ。

Text by 田中久勝
Photo by 柴田恵理
Hair and makeup by 関東沙織

◎公演情報
【<追加公演>堂珍嘉邦 Billboard Live 2023】
2023年4月11日(火)神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場16:30 開演17:30
2ndステージ 開場19:30 開演20:30

◎『Merchan.jp堂珍嘉邦×ビルボードライブ』特設サイト
http://bit.ly/3wkWUfs

◎その他詳細は堂珍嘉邦オフィシャルHPにて

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