なぜ熊本の第8師団が宮古島に 有事には南西諸島へ緊急展開する役割 インフラ、地形を確認か

 沖縄県の宮古島沖で6日に発生した陸上自衛隊第8飛行隊(熊本県)所属のUH60JA多用途ヘリコプター事故。ヘリには、陸将で熊本県に拠点を置く第8師団の坂本雄一師団長らが搭乗していた。沖縄を管轄する第15旅団ではない師団のトップが、宮古島を上空から偵察していたことが明らかになった。

 背景には、政府が2013年に閣議決定した防衛大綱で機動力の強化を打ち出し、航空機で運べる機動戦闘車の導入などで全国各部隊の移動展開能力を高めていったことがある。従来は駐屯する地域の警備が主だった各部隊の役割を、有事になれば他部隊が所管するエリアに迅速に移動させ、対処に当たれるようにするものだ。

 ■南西諸島念頭に機動師団化

 定員約5千人の第8師団は17年度末、全国に先駆けて機動師団化された。同師団のパンフレットにも描かれているように、南西諸島防衛を念頭に置いている。有事の際には、本来の所管エリアである熊本、宮崎、鹿児島県から南西諸島方面に緊急展開することを想定している。

 防衛省関係者によると、先行して第8師団が機動師団化されたのは、最も南西諸島に隣接しているからだという。18年度末に南西地域の空白を埋める一環として新設された奄美警備隊(鹿児島県)も、第8師団の島しょ防衛能力を高める狙いがある。

 坂本師団長は3月末に着任したばかり。自衛隊関係者は「いざとなれば展開する可能性のある地域を、就任後すぐに見ておくことは一般的によくあることだ」と説明した。

 政府は22年末に改定した安全保障関連3文書で、第15旅団を除く陸自の全14師団・旅団を「機動師団」「機動旅団」に変え、有事となれば最前線に柔軟に展開させる方針を明記し、さらに推し進めようとしている。

 ■上空からインフラや地形など確認か

 事故機が事前に提出していた飛行計画を見ると、駐屯地のある宮古島を出発し、北方の池間島、下地島や隣接する伊良部島などを視察する予定だったことが分かる。計画していたコースでは下地島空港や平良港など重要インフラの近くを通過することが予定されていた。自衛隊が、有事に民間の港や空港を使うことを想定していることに重なる。

 自衛隊関係者によると、島しょ防衛で上陸地点となる海岸線や陣地として利用し得る山などの地形を把握しておくことが重要だという。下地島空港は、「屋良覚書」と「西銘確認書」によって軍事目的で利用しないことを県と政府の間で確認しているが、その後も米軍や自衛隊は使用に意欲を示していることから、上空から確認した可能性もある。

 防衛省関係者は「戦術上の要衝がどこになるかを見極めるには上空から見る必要があり、日ごろからさまざまな地域で実施している」と語った。 県内で軍事基地の監視を続けている沖縄県平和委員会の大久保康裕事務局長は、沖縄県や鹿児島県の離島で実施された日米共同訓練「アイアン・フィスト」で、島によって違う上陸方法を訓練していたことから「今後、宮古・八重山で訓練や作戦をする構想が(地形偵察の)念頭にあったのではないか」と推測する。

 これまでに自衛隊と米海兵隊の間で幹部交流プログラムが実施されてきたことに触れ、大久保氏は「米海兵隊は、単純な数字上のデータではなく、司令官も自分の目で現地を見て情報を入手することを重視している。交流を通じて影響を受けているところがあるのでは」と指摘した。 (明真南斗、沖田有吾)

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