第一次世界大戦で炭鉱夫たちが担った「秘密作戦」とは?『アンダー・ウォー 史上最大の地下爆破作戦』が描く凄惨な史実

『アンダー・ウォー 史上最大の地下爆破作戦』©2021 by Vital Pictures LLC

地下で戦う男たち

『アンダー・ウォー 史上最大の地下爆破作戦』(2021年)は第一次世界大戦も終盤近い1917年、メッシーネ高地攻略戦で坑道戦に従事した男たちの、史実ベースの物語です。

「坑道戦」――聞き慣れない単語ですが、じつは紀元前から使われていた戦術です。

要は、敵の城/陣地までトンネルを掘り進めて敵陣内を急襲したり、あるいは城壁や櫓の地下を空洞化して崩落させてしまおう、というもの。日露戦争における旅順要塞攻略戦が主題の『二百三高地』(1980年)でも、日本陸軍による坑道戦が描かれていました。

地上が駄目なら地下を進もう

1914年8月に戦争が始まった時、戦線に向かう将兵たちは「落葉の頃には家に帰れる」と思っていました。

ところが戦争は、膨大な物量と人命を注ぎ込んでは磨り潰し合う、凄惨な消耗戦となってしまいます。複雑精緻に構築され重機関銃と大砲で防御されたドイツ軍塹壕陣地帯は、英仏連合軍が5日間で100万発の砲弾を撃ち込んでも、爆撃しても、戦車を投入しても、突破できないのです。

これはドイツ軍も同様で、その凄まじさは過去に何度も映像化されている『西部戦線異状なし』で描かれている通りでした(※Netflix映画『西部戦線異状なし』は第95回アカデミー賞で国際長編映画賞など4部門を受賞)。

そこでイギリス軍が持ち出したのが「坑道戦」なのです。つまりドイツ軍陣地地下までトンネルを掘り進めて爆薬を仕掛け、陣地もろともドイツ兵を吹っ飛ばす、というもの。

この坑道戦は規模の大小を含めて何度か実行されていて、筆者は『1917 命をかけた伝令』(2019年)で主人公らがドイツ軍陣地前で目撃する巨大なクレーターは、坑道戦の爆発の跡ではないかと睨んでいます。

5人の炭鉱夫たち

メッシーネ高地坑道戦は、1年もかけて深さ18~40メートル以上のトンネルを20本も掘って総計600トンもの爆薬を仕掛けるという、非常識なまでに豪快な企画でした。軍事作戦というより、もはや大規模土木事業です。

そこで投入されたのがイギリスの炭鉱夫です。この映画は、志願入隊した5人の炭鉱夫を核に展開していきます。

この坑道戦が、とにかくキツイ。秘密作戦なので詳細を知らない味方将兵から「戦争に来ても穴掘りかよ」と侮蔑されるのはともかく、トンネルは崩落の危険が常にあり、また有毒ガスも浸出してきます。

さらに坑道戦を察知したドイツ軍もイギリス軍側にトンネルを掘ってくる(「対抗壕」と言います)ので、むやみな騒音は出さないよう工夫し、なおかつドイツ軍側からの作業音を聴診器で予測しなければなりません。

圧壊の恐怖、濁った空気、聴音での探り合い……もはや潜水艦映画(例:『U・ボート』[1981年])のような坑道戦の緊迫感は、ぜひ鑑賞してお確かめください。ただ、この作戦に従事した数千人の工兵のエピソードを5人に集約させたためか、いささか詰め込み過剰&ブツ切り感があるのが、残念なところではあります。

ちなみに、この作戦にはオーストラリア炭鉱夫も参加していて、かの国では『THE SILENT WAR 戦場の絆』(2010年)として映画化されています。

さて、この坑道戦自体は成功し、ドイツ軍将兵約1万名もろとも高地陣地を噴き飛ばしたのですが、それでも戦局の打開とはなりませんでした。この後、イギリス軍は「パーサンダーラの戦い(パッシェンデールの戦い)」で死傷者約40万人という、継戦自体が危機に瀕するほどの大損害を出してしまいます。

結局、ドイツの国力崩壊により1918年11月、欧州の参戦各国が疲弊し尽くした状態で第一次世界大戦は終決するのでした。

彼らの誇り

イギリスの石炭・鉱物資源は良質かつ豊富で、産業革命以前からイギリス経済を支えてきた歴史があって、イギリスの炭鉱夫たちには「大英帝国を支えてきたのは俺たちだ」という自負がありました。劇中で描かれる彼らの愚直なまでの任務への献身は、「忠君愛国」とはまた異なる、歴史を背負った職業人としてのプライドが核になっているのです。

けれども貴族や上流階級にとって炭鉱夫は、穴掘り仕事の肉体労働者=下層階級でした。この映画での主人公らに対する将校(基本的に貴族/上流階級出身)の冷ややかな目線の意味は、そこにあります。

本作の原題は『THE WAR BELOW』ですが、「below」には「地下」というだけでなく「地位/身分が下位」という意味もあります。つまり物語の主題を突いたダブル・ミーニングなタイトルなんですね。

この『アンダー・ウォー 史上最大の地下爆破作戦』は実話系戦争映画であると同時に、『ブラス!』(1996年)や『パレードへようこそ』(2014年)に連なる、イギリスならでは“炭鉱夫映画”でもあるといえるでしょう。

文:大久保義信

『アンダー・ウォー 史上最大の地下爆破作戦』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:決死の最前線」で2023年4月放送

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