うどん店といえば「手打うどん」のイメージがありませんか?
私もそう思います。
でも、昔ながらの製法でつくられる本格的な手打うどんの店は意外と少ないです。
そんななか昔からの手打うどんの製法を続けているうどん店が、倉敷市西部・玉島地区にあります。
それは「手打うどん 蔵 (くら、以下 蔵)」です。
蔵は、もともとうどん専門の製麺所でした。
その後、昭和末期にうどん店に変わり、玉島の地で営業を続けています。
2019年(令和元年)には、店舗を一新しました。
蔵には、日々おいしい手打うどんを求めて多くのお客さんが訪れています。
昔ながらの手打うどんをつくり続ける蔵。
もちろん、ダシをしっかり取ったツユも楽しめます。
手打ちうどん 蔵の魅力について深掘りしましょう。
蔵は昭和49年創業、製麺所を起源とする手打うどん専門店
蔵があるのは、倉敷市玉島地区の南東部・乙島(おとしま)。
JR新倉敷駅と水島工業地帯E地区を結ぶ幹線道路「産業通り」沿いです。
蔵は、昭和49年(1974年)にうどん専門の製麺所として創業。
昭和62年(1987年)に、手打うどん店に転じました。
令和元年(2019年)9月には、新しい店舗になり営業しています。
新店舗は旧店舗のすぐ南隣。
蔵の店内は広い空間です。
▼4人がけのテーブル席が2卓。
▼子供連れに好評の、4人がけのボックステーブル席は4卓あります。
▼4人がけの座敷も2卓ありました。
▼相席用のテーブル席は、全部で8脚です。
店内は禁煙エリアと喫煙可能エリアに分かれています。
入口寄りのエリアが禁煙、奥寄りのエリアが喫煙です。
▼天カスはセルフサービス。
それぞれの卓上に天カスが置いてあります。
蔵のメニュー
令和5年(2023年)4月時点の情報。価格は消費税込
蔵はうどん店なので、さまざまなうどんメニューがそろっています。
定番のかけうどんや肉うどん、ザルうどん、ぶっかけうどんなどから、蔵のオリジナルうどんまでラインナップ。
メインメニューの多くは、うどん店として開業してからずっと置いているものだそう。
さらに、サイドメニューも充実。
ごはんものから、一品料理、おでんなどまでそろっています。
うどんとごはん、おかず、漬物などがセットになった「日替わり定食」(810円)も人気です。
▼取材時の日替わり定食は、メンチカツと小松菜の炒め物でした。
定食のうどんは、「かけうどん」または「ザルうどん」です。
それ以外のうどんの場合も、うどん価格プラス270円で定食化できます。
また、蔵のうどんは「替え玉」(170円)もできるのです。
うどん店で替え玉は、とてもめずらしいと思います。
また蔵では、平成30年7月豪雨で被災されたかたに対し「少しでも力になれれば」とのことで、被災者のかたの食事代を50%割引(半額)にしています。
被災者割引を受ける場合は、罹災(りさい)証明書、または運転免許証などの住所がわかる証明書を店員に見せてください。
なお、被災者割引とほかの割引・特典は同時に利用できません。
蔵の手打うどんは超長い!なんと約1メートルも
店名に「手打うどん」と付けているように、蔵のうどんは「手打」製法です。
昨今は機械製麺による自家製麺が増えてきており、手打の工程を貫くうどん店は少なくなっています。
蔵では、お客様が一番おいしいと感じられる製法として、創業以来受け継がれてきた手打の製法を今も続けているのです。
▼そして、蔵のうどん麺はとても長い!
なんと約1メートルもあるそう。
長いので、1本ずつ食べてもじゅうぶん食べごたえがあります。
太さもけっこうありました。
ザルうどんや釜揚げうどんの場合、あまり麺を多く箸で掴むと、ツユに入りきらないことがるので気をつけてください。
もちろん、うどん麺以外にもダシ汁にこだわっています。
毎日店でダシを取っているのです。
蔵のごはんは総社市新本産の朝日米
蔵の定食や、サイドメニューのごはんものなどで使っている米は、すべて総社市西部・新本(しんぽん)産の朝日(あさひ)米です。
オノファクトリーという農家が生産した朝日米を使っています。
緑に囲まれた水がきれいな地域で育った朝日米は、とてもおいしいと好評。
総社出身の私にとって、新本はとてもなじみのある地域。
その新本の米が使われているということで、とてもうれしく思いました。
蔵の注目メニューを紹介!
たくさんある蔵のメニューのなかから、注目のものを紹介していきましょう。
「天ザルうどん」はうどんの麺を楽しめ、サクサクの天ぷらも味わえる
という店主・中川さんの話を聞き、ザルうどんを食べようと思いました。
お客さんからは天ぷら付きのうどんが人気があるとのことで、「天ザルうどん」(1,150円)を注文。
盛りだくさんの天ぷらが付いて、お腹いっぱいになりそうです。
▼ネギ、ゴマ、ワサビ、梅干しは、うどんツユ用の薬味です。
▼モミジおろしは、天ぷらのツユ用の薬味。
でも、実はうどん用ツユと天ぷら用ツユは同じツユなんです。
なので途中でツユを逆にすると、うどん・天ぷらとも違った味わいを楽しめます。
▼艶やかなうどん麺は美しく、おいしそう。
さきほど紹介したとおり、蔵のうどんは1本が長いです。
そのため、1本ずつツユにつけて食べました。
長いうどんを勢いよくすすり食べてみると、モチモチとした弾力があり、とてもしなやかな食感です。
そしてツユの甘めの味わいとダシの風味が麺と絡み、口の中に広がります。
▼天ぷらは盛りだくさんの内容です。
天ぷらの種類は全部で7種。
エビ、ニンジン、ナンキン(カボチャ)、レンコン、サツマイモ、ナス、ピーマンです。
もちろん揚げたてサクサク。
サクッとした衣の天ぷらと、アッサリとしたザルうどんの組み合わせは最高です。
「肉うどん」は肉の煮かたに蔵の個性あり
「肉うどん」(850円)も店主・中川さんのおすすめ。
お客さんからの人気も高いうどんです。
シンプルながら、とてもおいしそう。
器の約半分を肉が占めるほど、タップリと牛肉が入っているのがうれしいです。
肉うどんに入っている肉といえば、甘く煮た濃い味だという印象がありませんか?
実は蔵では、肉の煮かたが違うのです。
だから肉うどんの肉はサッパリとしています。
そして肉のうまみ、味わいがダイレクトに楽しめるのです。
また、ダシ汁にも肉のうまみが広がっていて、最後まで汁を飲み干せるほどのおいしさでした。
蔵の肉うどんの肉がどのようにつくられているのかは、中川さんへのインタビューで明らかになっています。
ぜひ、インタビューを見てください。
もちろん、肉うどんの麺も長いです。
ザルうどんとはちょっと違った、少しやんわりとした食感が楽しめます。
ダシがよく絡んで、ダシの風味とともに麺が味わえました。
「山かけうどん」はトロロの粘りが特徴の具だくさんなうどん
「山かけうどん」は具だくさんでお得なうどんです。
先代のころから人気メニューで、リピーターの多いうどんだそう。
具材は、タップリのトロロ(長イモ)に生卵、そしてワラビなどの山菜、モミジおろし、刻みネギ、刻み海苔、おろしワサビ。
ツユは、甘みが強めの濃い味です。
山かけうどんの麺も、ほかのうどんと同じく1メートルくらいの長さ。
麺・具材とともに、少なめのツユとシッカリかき混ぜて食べます。
うどんの歯ごたえと味わいに、長イモのトロトロとした粘り、甘めのツユの味わい、ワラビのコリコリとした食感、もみじおろしの風味などが複雑に絡み合って、おいしいマリアージュが生まれます。
そこへワサビを入れると、ピリリとしたワサビの刺激と風味がアクセントになりました。
これはクセになるうどんです。
注目のサイドメニュー
「とりめし」は鶏から揚げをごはんに載せた郷土の味
ごはんもの「うまメシご飯」から「とりめし」(330円)を頼みました。
とりめしという料理は全国にいろいろあります。
蔵のとりめしは、ごはんの上に刻み海苔とタレ、その上に刻んだ鶏のから揚げを載せたもの。
岡山県周辺では、弁当店のメニューなどでおなじみのとりめしと同じです。
タレは甘めの甘辛系の味わいで、そんなに濃くはなく、ごはんによく合います。
サクサクの香ばしい鶏のから揚げとともに、ごはんをかき込むとおいしいです。
なお、さきに紹介したように米は総社市新本地区産の朝日米を使っています。
「まかないめし」はうどんのダシ汁をごはんにかけたもの
「うまメシご飯」から「まかないめし」(260円)も食べました。
うどんのダシ汁をごはんにかけ、カツオ節をかけたものです。
ダシがおいしいので、シンプルですがとてもおいしいと思いました。
「おでん」は玉島特有の「カステラ」入り
蔵では、おでんも人気です。
おでんは、セルフサービス。
どの具材も一律で1個120円です。
▼おでんの具材は、以下のとおり。
- ごぼう天
- 平天
- とうふ
- 玉子
- 厚揚げ
- 大根
- コンニャク
- カステラ
- すじ
人気トップ3は、だいこん、コンニャク、すじ。
さらに注目は「カステラ」です。
蔵のおでんは、うどんのダシでしっかりと煮込んでいます。
▼だいこんは、内側までシッカリとダシが染み込んでいました。
▼コンニャクはとてもモチモチとした弾力がある食感です。
▼すじもモチッとした食感がたまりません。
▼そして、注目のカステラ。
見た目はカステラそっくりですが、実は菓子のカステラとは別物なのです。
カステラは、玉島周辺で古くから親しまれている食べ物。
カステラの詳細は、くらしき地域資源ミュージアムの玉島おでんのページを参考にしてください。
昔ながらの「手打」のうどんとダシの利いたツユをつくり続けるうどん店、蔵。
手打ちうどん 蔵を運営する有限会社 恵新の代表・中川 恵介 (なかがわ けいすけ)さんへインタビューをしました。
蔵の代表・中川恵介さんへのインタビュー
昔ながらの「手打」のうどんとダシの利いたツユをつくり続けるうどん店、蔵。
手打ちうどん 蔵を運営する有限会社 恵新の代表・中川 恵介 (なかがわ けいすけ)さんへインタビュー。
開業についてや店を継いだ経緯、店の特徴、今後の展望などについて話を聞きました。
インタビューは2020年10月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
製麺所から手打うどん店へ
──まず、開業の経緯を教えてほしい。
中川 (敬称略)──
創業は、昭和49年(1974年)。 ちょうど、私が生まれた年です。
創業時はうどん店ではなく、うどん専門の製麺所でした。
おもにスーパーマーケットなどに納品していたそうです。
場所は、玉島北部でした。
私の両親が創業し、運営していました。
父は朝に製麺所で仕事をし、さらに昼はうどん店の従業員としても働いていたんです。
その後業界の変化なども考慮し、製麺所だったことと、父がうどん店での勤務経験があったことも生かして、手打うどんの店に転業したんです。
うどん店を開いたのは、昭和62年(1987年)。
場所は現在店のある玉島の乙島(おとしま)地区ですが、今より少し南の場所でした。
うどん店を継ぐのは自然な流れだった
──恵介さんがうどん店を継いだきっかけは?
中川──
正直、継ぐとか継がないかとか考えたことはなくて。
小さなころからうどん店の手伝いをしていましたし、親の跡を継いでうどん店で働くのは、自然の流れでしたね(笑)
高校卒業後、香川県の調理師の専門学校に進学しましたが、それも親のうどん店で働く前提での進学先でした。
また在学中も香川県のうどん店でアルバイトとして働くことで、修業をしていたんです。
その後は無事学校を卒業し、そのまま蔵で働き始めました。
平成7年(1995年)のことです。
──店名の由来は?
中川──
私が小さなころに親が決めたので、私はよくわからないんです。
推測ですが、やはり倉敷市の一般的なイメージは美観地区。
美観地区にある蔵から連想させて付けたのではないでしょうか。
昔からのうどんのつくりかたを今も続けている
──蔵の特徴はどんな点がある?
中川──
当店は、常連のお客様が非常に多いのが特徴です
一般的に商売は、常連2割・新規8割が理想といわれています。
ところが当店は、まったく逆なんですよ。
常連のかたが非常に多いのです。
当店を気に入ってくれて、リピーターのかたがここまで増えたのは大変ありがたいですね。
一時期、いろいろ考えて試してみたんですが、なかなかうまくいきませんでした。
試行錯誤した結果、原点回帰といいますか、元に戻してみたんです。
すると常連のお客様にすごく喜んでいただきまして。
だから、昔のやりかたを続けるのは大事だなと痛感しました。
昔のやりかたを続けるのは、すごく難しいです。
手間も時間もかかりますし、効率もいいとはいえません。
ですから、当店では昔からあるやりかたをした「本当の手打うどん」を続けています。
ダシもコンブ、カツオ、サバ、イワシなどから時間をかけて取っているんです。
麺もダシもつくるのは大変ですが、お客様がおいしいと喜んでもらえるうどんづくりを続けています。
──うどんの種類が多いが、おすすめは?
中川──
最初に食べてほしいのは「ザルうどん」と「かけうどん」。
やはりシンプルなので、麺の良さ、ダシの良さがダイレクトに伝わります。
まずはシンプルなうどんで、当店の麺とダシを味わってほしいですね。
なかにはザルうどん・かけうどんを同時に注文して、両方楽しむうどん通のかたもいますよ(笑)。
もうひとつ食べてほしいのは「肉うどん」です。
実は、肉うどんの肉って店によってつくる工程が違うんですよ。
だから肉うどんが一番店の個性が出ます。
私も、ほかのうどん店へ行ったときは、ザルうどんと肉うどんを食べますね。
当店の肉うどんは、うどんダシで肉を煮ます。
よくあるのは、甘辛いツユで肉を煮るのですが、当店は違っているんです。
うどんダシで煮た肉は、肉のうまみが引き出され、肉の味が一番わかるんですよ。
だから、当店の肉うどんは「おいしい」という感想もたくさんいただいて、リピーターが多いです。
あとは当店ならではの「鳥我楽(とりがらく)」や「肉とじうどん」「牛もつ鍋焼うどん」も食べてほしいメニュー。
鳥我楽は鶏肉のうまみが味わえる、ちょっと濃いめの味付けのうどんです。
肉とじうどんは、お客様の「関西には他人うどんというのがある」という話をヒントにしました。
牛もつ鍋焼うどんは、10月〜翌年5月までの期間限定メニューです。
牛もつの甘みがおいしいですよ。
──逆にお客さんから人気なのは?
中川──
お客さんから人気なのは、天ぷら付きの「天ザル」「天かけ」が人気です。
さきほどの肉うどんも人気ですね。
お腹いっぱいになってコストパフォーマンスのいい「日替わり定食」も好評ですね。
あとは「山かけうどん」。
具だくさんで、当店の独特のメニューですので、先代のころから長いあいだ人気があります。
ちなみに、当店のメニューのほとんどは、先代の時代からあるメニューですよ。
──サイドメニューも多いと感じる。
中川──
それは、当店の立地が関係しています。
当店がある乙島地区は、すぐ南に水島工場地帯があります。
大きな企業の工場があり、その工場で働く人の社宅があったんです。
ですから以前は工場労働者のかたが、多く来店されていました。
工場は三交代制だったので、当店の営業中が仕事終わりになるかたも多かったんです。
なので酒を飲まれるお客さんが前は多くいました。
それに合わせて、ツマミとしてサイドメニューを増やしたんです。
今は前ほど飲まれるお客さんが減りましたが、昔の名残で一品料理などは残っています。
──おでんやごはんものに郷土色のあるものが目に付いた。
中川──
基本的に、私が好きなものを置いています(笑)
「とりめし」は、私が某弁当チェーンのとりめしが好きでした。
あるとき、とりめしは岡山周辺限定の弁当だと知ったんです。
だったら、私の好物で地元特有の食べ物なら店に置いてみようと思いました。
とりめしは、けっこうお客さんにも人気ですよ。
「卵かけごはん」も、私の好物。
ちょうど県内の美咲町がたまごかけごはんで地域おこしをしていたので、これもメニューに加えてみようと思いました。
「まかないめし」は、名前のとおり私たちが店でまかないとして食べていたもの。
うどんのダシをごはんにかけただけのものですが、当店はダシにこだわっているので、シンプルでもおいしいんです。
店員だけ食べるのにはもったいないので、メニューに加えました。
「おでん」は、玉島の商工会議所で玉島の名物として売り出し中のものだったので、メニューに入れてみたんですよ。
一番の特徴はおでんの中に入っている「カステラ」。
カステラは私たち玉島の人間からしたら当たり前のものですが、ほかの地域から来たお客さんは気になるだろうと。
それで、メニューに加えたらおもしろいんじゃないかと思いました。
今後の展望
──最後に、今後の抱負ややってみたいことを聞きたい。
中川──
「ものづくり」を今後も続けていきたいです。
昔からうどんに限らず、プラモデルとか細々してものをつくるのが好きでした。
うどん店では、いろいろなものを組み合わせて新しいメニューを考えたりしています。
「鳥我楽」や「肉とじうどん」などは、私がメニューに加えました。
だいたい3年に1つくらいのペースで新しいメニューが出ています。
定着したものもあれば、定着しなかったものもありますが(笑)。
うどんの麺・ダシなどは、創業からのつくりかたは継承しつつ、新たなメニューづくりなどを楽しみながら考えていきたいです。
蔵の魅力は昔ながらの手打うどんの味
私は、うどん店といえば「手打うどん」というイメージをもっていました。
でもよく考えてみると、インタビューで店主の中川さんが話したように、昔からある純粋な「手打」製法をやっている店は案外少ないです。
試行錯誤の末、創業時から受け継がれる「本当の手打うどん」を今も実直につくり続ける蔵。
そんな蔵の手打うどんを求めて、店には多くのお客さんが訪れています。
ぜひ蔵へ行き、昔からの本当の手打うどんの味を楽しんでみてください。