徳島の誇る藍染めを「現代の名工」のもとで体験!/古庄染工場(徳島県徳島市)

日本一の呼び声も高い“阿波藍”の藍染め

世界で“JAPAN BLUE”と呼ばれる独特の青は、藍染めによって生まれる美しい色。藍染めは徳島と切っても切れない関係があります。

江戸時代には、阿波藩の保護奨励により、吉野川下流域が日本最大の藍作地帯となりました。衣服に用いる木綿用染料として藍の需要が高まるなか、品質の良い徳島の藍は大きな評判に。葉藍を細かく刻んで発酵させた“すくも”を練り固めた藍玉が飛ぶように売れ、俗に「阿波二十五万石、藍五十万石」と呼ばれるほどの莫大な富をもたらしました。

その後、化学染料の発達と輸入で生産は減少していきますが、現在でも藍を育て“すくも”をつくり続けている藍師もごく少数ながら残っています。

その貴重な染料を用いて昔ながらの「天然灰汁発酵建て」にこだわり、素晴らしい製品を生み出しているのが、徳島市佐古七番町にある『古庄染工場』です。

工房の外には藍で染められた帽子が干してありました。

藍色と一言で言っても、その濃淡によって、かなり印象が変わります。一説によれば、もっとも薄い「藍白(あいじろ)」から濃さの極致である「留紺(とめこん)」まで48色に分けられるとか。

染めを繰り返すごとに色合いを変える藍染め。顧客の用途や好みによって藍の色をコントロールするのも、職人の磨き上げた技の見せ所だといえるでしょう。

「現代の名工」に教わる藍染め体験の魅力

“すくも”の入った“叺(かます)”と呼ばれる袋が山と積まれた入り口から中へ入ると、そこはさまざまな道具や設備で構成される職人の世界。

一番奥には大きな煙突が据え付けられており、まるで映画のような光景が広がっています。窓が高い位置にあるため、外光の入り方も少し不思議な感じです。

真剣な表情でストールを染めているのは、紺屋古庄の六代目である古庄紀治さん。

五代目である父・理一郎氏の後を継ぎ、木灰の上澄みをはじめ、石灰や糖蜜など、自然界にある素材だけで藍液をつくる「天然灰汁発酵建て」によって、江戸時代から変わらぬ製法で藍染めを行っています。

紀治さんは独自の研究により、製法が失われていた絹の藍染めを復活。1998年には厚生労働省の「国選定卓越技能章(現代の名工)」として表彰されたほか、2018年には「阿波藍の注染(ちゅうせん)」技法を有する職人として、徳島県無形文化財保持者に選定された名職人です。

「絹は染まりにくいけん、昔から“さわるな(染めようと思うな)”と言われとったけど、京都で蜂須賀公の藍染めの着物を見てね。考えてみたら、阿波藩の殿様が、阿波藍を使わんはずがないでしょう。どうにかして染めてみようと思ったんです」と優しく教えてくれました。

藍甕(あいがめ)といえば、その名のとおり丸い形を想像していたのですが、紀治さんが向かい合っているのは四角い水槽型。

「いわゆる丸い藍甕は糸を染めるためのもの。四代目までは使っていたんやけど、布を染めるんやったら四角い方が使いやすいんよ」。

ここには大きな藍甕がいくつかあり、それぞれ発酵の度合いが異なる藍液が入れられているそう。変なムラが出ないように美しく染めるには、見えない藍液の中で布地をどのように動かしていくかを考えることが大切です。素材や形状、厚さや長さによって少しずつ変えていかなければなりません。長年の経験で培った熟練の技が光ります。

いったん染めが終わったストールは引き上げられ、向かい側の床に置かれた洗い桶へ。冷水をかけ流しながら、娘の美智子さんが素早く藍液を洗い流していきます。

最初は独特の茶色がかった黒っぽい色だった布地が、見る見るうちに緑色を含む藍色に変わっていくさまは魔法を見ているよう。空気に触れて酸化することで化学変化を起こし、鮮烈な色が生まれていくのだそうです。

藍で染めた布地は、手で洗った後、陰干しすることで色が定着します。ものによっては乾かした後で、何度か繰り返して染めの工程を経ることがあるとか。

『古庄染工場』では、ハンカチや手ぬぐい、タオルのほか、Tシャツなどを持ち込んで藍染めの体験ができますが、いずれも体験当日に持ち帰ることはできません。アク抜きや乾燥といった最終仕上げの後で自宅まで送られてきます。

美しい藍色をした徳島の思い出が届くまで、楽しみに待っていてくださいね。

美しい注染浴衣が生まれる場所を見学

工房の奥で紀治さんと美智子さんが見せてくれたのは浴衣の染めに使用する伝統柄の型紙。

「渋紙」と呼ばれる貼り重ねた和紙に柿渋を塗ったものでつくられており、独特の鈍い光を放っています。

「阿波藍の注染」技法を有する職人である紀治さんのもとには、地元の徳島のみならず、京阪神から本藍染めによる浴衣の注文も多く、6月から7月にかけては浴衣に用いる生地の藍染めで繁忙期に。体験と見学は通年で受け付けていますが、これらの時期はどうしても受け入れが難しいタイミングも出てくるそう。

窓際に置かれていたのは型枠にはめられた作業中の型紙。

近年ではさきほどの「渋紙」ではなく、繰り返し注染に耐える特殊コートを施された紙に変わっているとのこと。しかし、一つひとつの図案や模様を丹念に描き、完成を予想しながら彫り込んでいく工程は、現在に至るまで変わりません。

工房内にはこうした作業中の型紙や道具などがいろいろ置いてあり、クラフト好きにはたまりません。

奥の部屋で美智子さんが描いている途中の型紙を見せていただきました。

糊を使って部分的に防染し、模様部分に「染料を注ぐ」ことで生まれる注染は、大胆なレイアウトと繊細な表現が混在するところが魅力。染めの技術が存分に生かされるには、ベースとなる型紙の出来が重要となってきます。

近くのざるには、葉藍を細かく刻んで発酵させた“すくも”が置いてありました。

徳島の誇る藍染めのなかでも、昔ながらの「天然灰汁発酵建て」にこだわり、素晴らしい製品を生み出している『古庄染工場』。六代にわたって藍と向き合ってきた伝統を、こちらで体験してみてはいかがでしょうか。

古庄染工場
住所/徳島県徳島市佐古七番町9−12
電話/088-622-3028
駐車場/あり(無料)
予約制・カード決済不可(詳細はお問い合わせください)
定休日/日・祝・お盆・年末年始
料金/ハンカチ(小:1000円・大:1500円)、手ぬぐい(2000円)、タオル(2500円)、Tシャツなどの持ち込み可(25円/g~)

瀬戸内Finderフォトライター 重藤貴志

▼記事提供元

[(https://setouchifinder.com/ja/)
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