<社説>こども未来戦略会議 少子化対策を最優先せよ

 政府は「次元の異なる少子化対策」のたたき台となる試案を公表し、「こども未来戦略会議」をスタートさせた。2030年が少子化対策の分水嶺(ぶんすいれい)で、今が少子化傾向を反転させるラストチャンスだと政府自身が強調している。防衛費大幅増に政府は前のめりだが、最優先すべきは少子化対策だ。 この30年、政府の少子化対策は「不発」を重ねてきた。1994年の保育所整備を柱とする「エンゼルプラン」に始まり、19年の安倍内閣の幼児教育・保育の無償化、続く菅内閣の不妊治療への保険適用などが取り組まれた。しかし、少子化は止まらず、22年には想定より11年も早く出生数が80万人を割った。

 試案では少子化対策の基本スタンスとして「若い世代が希望通り結婚し、子どもを産み、育てることができるようにすること」とうたう。基本理念には「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」「全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」を掲げる。

 「何が従来とは次元が異なるのか」では、まず、児童手当の所得制限撤廃、育休給付100%という「制度のかつてない大幅な拡充」、次に保育士の配置基準の75年ぶりの改善など「長年の課題解決」を挙げた。そして、就労要件のない通園など「時代に合わせて発想を転換」、出産費用の保険適用や給食費無償化、大学授業料後払い制度など「新しい取り組みに着手」などを列挙した。

 試案の内容を全て実施するには8兆円が必要になるという。財源について首相は、消費税増税は封印し、社会保険料への上乗せ案を水面下で温めてきた。これに野党から「経済を直撃する」「現役世代の負担増になり本末転倒」などの批判が出ている。

 戦略会議で財源を検討しながら政策の取捨選択をすることになろう。しかし、それで基本スタンスを全うできるだろうか。賃金と雇用、住宅政策、教育の全面無償化など、抜本的な政策転換が必要ではないか。

 一方で、防衛力整備に5年間で43兆円も費やそうとしている。3月30日の参議院外交防衛委員会で防衛省の増田和夫防衛政策局長は、安全保障上の脅威について問われ、侵略の意図を確認していないとして「中国、北朝鮮、ロシアそのものを脅威と認識しているのではない」「特定の国・地域を脅威とみなし、軍事的に対応するという発想に立っていない」と明言した。「脅威」とは何か、冷静に議論すべきである。

 社会・経済の持続的発展を考える時、少子化と地球温暖化が最も喫緊の「脅威」ではないか。災害や感染症への備え、交通インフラや上下水道の老朽化対策、食料自給率向上も、安全保障だ。今こそ、政策の優先順位とそのための負担について、国民的な議論を尽くすべきである。

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