MIT、ドローンの空中衝突を防ぐ軌道計画システム開発。新アルゴリズムで新しい軌道を最適化

複数のドローンが同じ空域で一緒に作業する場合、例えばトウモロコシ畑に農薬を散布する場合、互いに衝突する危険性がある。

こうしたコストのかかる衝突を回避するために、MITの研究者は2020年に「MADER」と呼ばれるシステムを発表した。このマルチエージェント軌道プランナーは、ドローンのグループが最適で衝突のない軌道を策定することを可能にする。各エージェントは自分の軌道をブロードキャストし、他のドローンがどこに行こうとしているのかを知ることができる。そして、エージェントは自分の軌道を最適化する際に、互いの軌道を考慮し、衝突しないようにする。

しかし、研究チームが実際のドローンでこのシステムをテストしたところ、ドローンがパートナーの軌道に関する最新の情報を持っていない場合、不注意で衝突するような経路を選択する可能性があることが分かったという。そこで研究チームはシステムを改良し、エージェント間の通信が遅れても衝突のない軌道を生成するマルチエージェント軌道プランナー「Robust MADER」を現在展開している。

MIT航空宇宙工学科の大学院生である近藤耕太氏は次のようにコメントしている。

近藤氏:MADERはシミュレーションではうまくいったのですが、ハードウェアではテストされていなかったんです。そこで、ドローンを何台も作って、飛ばし始めました。しかし、実際に飛行させてみると、通信の遅れが必ず発生し、失敗することがすぐにわかりました。

このアルゴリズムでは、ドローンが最適化された新しい軌道に乗るまで、一定時間待機する「遅延チェック」ステップを設けている。この遅延時間中に他のドローンから新たな軌道情報を受け取ると、ドローンは新たな軌道を放棄し、最適化プロセスをやり直す可能性がある。

近藤氏たちは、シミュレーションと実際のドローンを使った飛行実験の両方で、Robust MADERをテストしたところ、100%の成功率で衝突のない軌道を生成した。ドローンの移動時間は、他のアプローチに比べれば若干遅かったものの、安全性を保証できるベースラインは他にないという。

近藤氏:より安全に飛行したいのであれば、慎重にならざるを得ません。障害物に衝突したくないのであれば、目的地に着くまでに時間がかかるのは合理的です。もし何かに衝突してしまったら、どんなに速く飛んでも目的地にたどり着けないので、あまり意味がないのです。

近藤氏は、ポスドクのJesus Tordesillas氏、大学院生のParker C. Lusk氏、MITの学部生であるReinaldo Figueroa氏、Juan Rached氏、Joseph Merkel氏、上級研究者のJonathan P. How氏(航空宇宙学のRichard C. Maclaurin教授、情報意思決定システム研究所の主任研究者、MIT-IBM Watson AI Labの一員)と共同で論文を執筆した。同研究は、International Conference on Robots and Automationで発表される予定。

軌跡を描くMADER

MADERは、非同期型、分散型、マルチエージェント型の軌道プランナーだ。つまり、各ドローンは独自の軌道を策定し、すべてのエージェントがそれぞれの新しい軌道に同意する必要があるが、同時に同意する必要はないのだという。何千ものドローンが同時に軌道に合意することは非常に困難であるため、これによってMADERは他のアプローチよりもスケーラブルになる。

また、分散型であるため、ドローンが中央のコンピューターから遠く離れた場所を飛行するような現実の環境でも、このシステムはよりうまく機能するだろうとしている。

MADERでは、各ドローンは、他のエージェントから受け取った軌道を組み込んだアルゴリズムを使って、新しい軌道を最適化する。常に新しい軌道を最適化し、放送することで、ドローンは衝突を回避することができる。

しかし、あるエージェントが数秒前に新しい軌道を共有しても、通信が遅れて他のエージェントがすぐにそれを受け取れなかったとする。現実の環境では、他の機器からの干渉や荒天などの環境要因によって、信号が遅れることがよくあるという。このような不可避の遅延により、ドローンは不注意で新たな軌道を約束し、衝突コースに入るかもしれない。

Robust MADERは、各エージェントが2つの軌道を利用できるため、このような衝突を防ぐことが可能だという。1つは、衝突の可能性をチェックした安全な軌道を保持している。元の軌道をたどりながら、ドローンは新しい軌道を最適化するが、遅延チェックのステップを完了するまで新しい軌道にコミットしない。

遅延チェック期間中、ドローンは一定時間をかけて他のエージェントからの通信を繰り返しチェックし、新しい軌道が安全かどうかを確認する。衝突の可能性を検出した場合は、新しい軌道を放棄し、最適化プロセスをやり直す。

近藤氏によると、遅延チェック期間の長さは、エージェント間の距離や通信を妨げる環境要因に依存する。例えば、エージェント間の距離が何キロも離れている場合は、遅延チェックの期間を長くする必要がある。

完全に衝突なし

研究チームは、通信の遅延を人工的に導入した数百のシミュレーションを行い、新しいアプローチをテストした。各シミュレーションにおいて、Robust MADERは衝突のない軌道を生成することに100%成功したが、ベースラインはすべてクラッシュしてしまったという。

また、6台のドローンと2台の空中障害物を作り、マルチエージェント飛行環境でRobust MADERをテストした。その結果、この環境でMADERのオリジナルバージョンを使用すると7回の衝突が発生するのに対し、Robust MADERはどのハードウェア実験でも1回も衝突を起こさなかったことが判明した。

近藤氏:実際にハードウェアを飛ばしてみないと、何が問題を引き起こすか分かりません。シミュレーションとハードウェアには違いがあることが分かっているので、アルゴリズムをロバスト化し、実際のドローンでも動作するようにしました。

ドローンはRobust MADERで毎秒3.4メートルで飛行できたが、いくつかのベースラインよりも平均移動時間がわずかに長くなっていた。しかし、すべての実験で完璧に衝突しない方法は他になかった。

今後、近藤氏と共同研究者たちは、多くの障害物やノイズが通信に影響を及ぼす可能性のある屋外で、Robust MADERを試験的に使用したいと考えているという。また、ドローンに視覚センサーを搭載し、他のエージェントや障害物を検知して動きを予測し、その情報を軌道の最適化に反映させたいとしている。

この研究は、ボーイング社のリサーチ&テクノロジーの支援を受けているという。

▶︎マサチューセッツ工科大学

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