時代に媚びないロックバンド《ストリート・スライダーズ》トリビュート&オリジナル  レコードデビュー40周年「On The Street Again Tribute & Origin」で聴かせる絶え間ない進化

デビュー40周年! 武道館公演を控えるストリート・スライダーズ

2023年はレコードデビュー40周年。5月3日には「The Street Sliders Hello!!」と銘打つリユニオンによる武道館公演を控えているストリート・スライダーズ。武道館公演アナウンスの直後のロックファンの気持ちの高揚は、SNSなどを通じて如実に伝わってきた。チケットは争奪戦になり、ファンにとってはまさに待ち侘びた時といったところだろう。

かつて基地の街だった東京福生のライブハウス「UZU」でリトル・ストーンズと呼ばれていたスライダーズ。往年のローリング・ストーンズのダーティーでワイルド、普遍的なロックンロールはバンドの持ち味とされているが、96年までに発表された14枚のオリジナルアルバムではそれだけのパブリックイメージでは括れない進化と懐の深さを感じずにはいられない。

83年にデビューして、80年代後半のバンドブームも、90年代に入って音楽の多様化、ジャンルの細分化の中でも、スライダーズは時代に媚びることなく、バンドのフォーマットを変えることもなく2000年の解散まで第一線のロックンロールバンドとして演り続けた。

ただ、この長きに渡る期間で第一線に立ち続けているということは、絶え間ない進化が必須条件となる。この部分についてスライダーズは、時にはブラックミュージックのエッセンスを忍ばせたり、レゲエフィーリングを兼ね備えたりしながら、自らの音楽性を深く、深く追求し、同時にこれをどのように時代に響かせるかという部分を模索してきたバンドでもあったと思う。

トリビュートを収録した「On The Street Again -Tribute & Origin」

去る3月22日にはこの40周年アニバーサリーとしてトリビュート盤とオリジナルベスト音源の2枚組『On The Street Again -Tribute & Origin』がリリースされた。

スライダーズのオリジナルナンバーから厳選されたトリビュート盤のセレクトに注目してみると、それはまさに彼らが80年代、90年代にきっちりと描いた音楽地図をそれぞれのアーティストが自身のフォーマットに落とし込み、自分たちの色に染め上げているという印象がある。スライダーズの残した音源はダーティでワイルドなロックンロールを基盤としながらもそれだけ多面的で多様性に満ち溢れている。

ザ・クロマニヨンズがプレイする「Boys Jump The Midnight」の痛快さ

スライダーズのレゲエフィーリングをより硬質に、ハリーの詩的な世界観をよりドラマティックなものとして自分の領分に引き寄せたThe Birthdayが奏でる「Let's go down the street」から始まり、ロックンロールの痛快さと疾走感を思想が入る隙がないほどまでに突き抜けたザ・クロマニヨンズがプレイする「Boys Jump The Midnight」では体を揺らさずにいられない。

冒頭の対局的な2曲を聴いただけでも、トリビュート盤という枠を軽々と飛び越え、各々のアーティストの持ち味が十二分に体現されている。

トリビュート盤というのは、そのネーミングのごとく、敬意に準ずるものであるから対象とするアーティストを超えることができないという印象を僕は持っていた。

しかし、このアルバムを全編通して聴いてみると、それぞれの楽曲はもちろん敬意を基盤としながらも参加アーティストの持ち味にピッタリとシンクロし、それぞれのオリジナルと言っても過言ではないほど自然体のものとして解き放たれている。つまりこれがスライダーズの懐の深さであり、参加アーティストの個性の強さだろう。

見事なエンディング、エレファントカシマシ「のら犬にさえなれない」

意外なところでは、初期スライダーズの気怠さと危うさを体現した「マスターベイション」をジャンルミキシングの手法を持ち合わせながら妖艶に歌い切る中島美嘉や、これとは相反し、ファンクチューン全開でエンタテインメント性を開花させた渡辺美里の「Special Women」など聴きどころ満載だ。

そしてラストを飾るのは、これまでの数々のカバーソングを歌い上げてきた宮本浩次率いるエレファントカシマシの「のら犬にさえなれない」だ。一見、オリジナルに忠実だが、ミヤジの緩急つけたボーカルがリリックの世界観をより際立たせる。

 傘の中からじっと 雨を見ていたのさ
 Baby,baby いつからこんな
 へんなクセ ついたのさ?

アルバムのラストで、スライダーズが描いてきた寂寥感と浮遊感を併せ持つ詩的な世界が間近に寄り添ってくる、見事なエンディングだった。

彼らが現役時に放った名曲は聴き手の心の中で醸成され、独り歩きしている。アニバーサリーという節目で個性の強いアーティストたちがリメイクすることは、次世代へのスライダーズの継承という面からも大きな意義があるだろう。

カタリベ: 本田隆

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