「全て結果で評価を」立ちはだかるジェンダーの壁を打ち壊すのに必要なこと 東証プライム企業の女性社長は1%未満、多様性で取り残される日本

 インタビューに答えるマネックスグループ次期社長の清明祐子代表執行役=3月13日、東京都港区

 ダイバーシティー(多様性)重視の企業経営が世界的な潮流となる中で、日本を代表する大企業はトップのほとんどが男性だ。東京証券取引所の最上位市場「プライム」に上場する企業1836社のうち、代表権を持つ女性社長は1月末時点でわずか0・8%の15人にとどまることが、帝国データバンクと共同通信の調査で分かった。世界では、多様性を重視しているかどうかが投資家が企業を選別する際の基準になっている。ジェンダーの高い壁が立ちはだかり、このままでは日本企業は取り残されかねない。

 こうした中、能力のある女性をトップに置く企業もある。6月、プライム上場のマネックスグループ社長に清明祐子代表執行役(45)が就任する。清明さんは共同通信のインタビューで「組織で女性であることを意識したことはない。全て結果で評価されてきた」と述べた。これまで仕事とどのように向き合ってきたのか尋ねたところ、効率的な働き方を追求する姿が見えてきた。(共同通信=越賀希英)

 ▽短い時間で結果出すのが最も仕事のパフォーマンスが高い
 マネックスはインターネット証券を中核とする金融グループで、松本大社長(59)が1999年に創業した。清明さんがマネックスに入社したのは銀行勤務などを経た2009年。その後、グループ子会社の社長やグループ執行役などを経て、現在、グループ共同最高経営責任者(CEO)としてかじ取りを担っている。「共同CEOの話があった時点で、どこかのタイミングで『単独CEOをよろしく』となるだろうと思い、その覚悟の下で引き受けた」と振り返る。

 松本さんは少しずつ清明さんの権限を増やし、経営者としての適性を見極めた。後継者に決めた大きな理由を「与えられた権限をちゃんと使い切るから」と説明する。松本さんによると、清明さんは物事を決める際、必ず自ら方針を判断した上で松本さんに意見を求める。松本さんはこれが「経営者としてとても大切な資質だ」と評した。

 記者会見するマネックスグループの松本大社長(左)と次期社長の清明祐子代表執行役=1月30日、東京都中央区の東京証券取引所

 清明さんは自らを「決断力がある方」だと分析する。「自分が何ができないかを昔から意識して、できないことのために時間を割く」ようにしてきた。若い頃はできることを増やすために「無我夢中で仕事の量をこなし、型を覚えた」という。書類作成などの事務作業などは短時間で済ませる力を磨き、余裕ができた分を苦手な分野を減らすための自己研さんに充てた。

 昇進を重ねて仕事量が増えても働く時間はずっと変わらない。「短い時間で同じ結果を出す人が最もパフォーマンスが高く、効率化が図れている。だから私は昇進してきたと思う」と語る。

 仕事をする上で「期限を守る」ことも心がけてきた。「お客さまから給料をいただいている」と意識し、「今の自分の仕事がお客さまの所につながるのだとすると、遅れると迷惑がかかる」と考え、同僚の分まで仕事を引き受けて期限厳守を徹底してきたという。清明さんは「みんなが後回しにすることを先にやる、といった地道な努力を積み重ねて目の前のことをやっていたらここにいる、という感じだ」と歯切れよく語った。

 ▽社会は急に変えられない。いやなことは悩むより「忘れる」
 年功序列を重視する旧来型の企業は、入社年次や年齢、経験部署などを「積み上げ式」で評価する傾向がある。結果として出産などのライフイベントで制約が多い女性は昇進が遅れがちだ。清明さんは、だからこそ企業は、社員を働く時間や経験ではなく「結果で評価」するべきだと考える。

 清明さんは、性別を理由に報酬や評価に差をつけられたと感じたことはない。松本さんも「能力に応じて人材を登用していたら、企業トップの9割が50歳を過ぎた男性なんてことは起こりえない」と強調した。

 インタビューに答えるマネックスグループの清明祐子代表執行役=3月13日、東京都港区

 筆者は清明さんに、これまで性別が足かせになったと感じたことはあるのかと問うてみた。清明さんは、若手時代に営業先の会社社長に「えー、女なの」と露骨に嫌な顔をされたこと、酒席で「紅一点だから」と偉い人の横で酌をさせられたことを挙げた。ただ「嫌に感じたことはきっとあったが、あまり覚えていない。気にしないか、忘れ切ってしまうのがいい」ときっぱり話した。そして「社会は自分の力一人で急に変えることは難しい。そのことをもんもんと悩むより忘れる方がまし」と付け加えた。

 ▽なぜ女性役員を増やすのか。黙って座っているだけでは意味がない
 清明さんが投資家向けに財務状況を説明する際、担当の男性部下と一緒にいると海外投資家が最初にあいさつするのはいつも部下の男性の方だという。さまざまな業種の日本企業とやりとりしている海外投資家からは「日本企業で女性の責任者は初めてだ」とも言われた。海外からみても日本企業に女性幹部はいないというのが当たり前の感覚なのだと受け止めた。

 清明さんは「日本は公平な国じゃないと映ってしまう。日本にもいろんな能力のある人がいるのに、企業という組織になるとそれが見えない可能性があるのはもったいない」と語る。

 政府は女性管理職の比率を2020年代の可能な限り早期に30%にする目標を掲げ、女性管理職比率の開示を企業に義務づけるといった取り組みを後押ししている。

 ただ清明さんは、単に女性役員の数を増やそうとする動きになっているのではないかと疑問を投げかける。「黙って座っているだけで、議論がダイバーシティーになっていないのでは実効性がない」と話し、なぜ女性の数を増やすのかという目的の議論が欠けていると指摘した。

 ▽男性中心の取締役会はイノベーションが生まれない組織とみなされる恐れ

 2023年1月末時点でプライム上場企業の社長を務める女性15人のうち、衣料用防虫剤「ムシューダ」などの日用雑貨を手がけるエステーの鈴木貴子社長は6月に代表権のない会長に就く。一方で、共同通信の調べでは、プライム企業で2月以降に清明さんを含めて少なくとも4人の女性が社長になる。最近は女性のトップ就任が増えて変化の兆しはみえる。

 もっとも、労働経済学に詳しい東京大大学院の山口慎太郎教授は「変化のスピードが海外からみて圧倒的に遅い」と指摘する。多様性が重視されているかどうかは投資の判断基準にもなっており、山口さんによると、男性中心の取締役会は似たような発想となり、イノベーション(技術革新)が生まれないとみなされる恐れがある。

 上場企業の社会的責任は大きい。企業価値の向上に向け、幹部の育成や登用を巡る手法の見直しを進める局面に入っている。

© 一般社団法人共同通信社