ただれたマスクが醸し出す殺人史! ついに完結『ハロウィン THE END』監督が語る「見えないもの」の恐ろしさ

殺人鬼マイケルと主人公ローリー、実に40年にわたって繰り広げられた映画史に残る長期戦が、ついに決着!

三部作すべてにテーマが設けられたホラー映画『ハロウィン』シリーズ。「ラブストーリー」というテーマのもと、これまでと打って変わって大変エモーショナルになった最新作にして完結作『ハロウィン THE END』が、2023年4月14日(金)より公開となる。

というわけで、三部作すべてを手がけてきたデヴィッド・ゴードン・グリーン監督にオンライン取材を決行。スティーヴン・キング愛から好きなバンドの話まで、このインタビューを読めば色々と腑に落ちるものとなっているはず。リメイク版を監督する予定だった、大ファンと公言している『サスペリア』(1977年)のポスターが貼られたオフィスでたっぷり語ってくれました。

「笑っているようにも、悲しんでいるようにも見える」

―本作の物語は、前作『ハロウィン KILLS』(2021年)から4年経ったところからスタートするということで、様々な状況に変化がありますよね。なかでも、ザ・シェイプことマイケル・マイヤーズが被っているマスクの劣化具合がとても恐ろしかったです。マスク制作を担当したクリストファー・ネルソン(注:特殊メイクアップアーティスト。『キル・ビル』[2003年]、『アメリカン・ホラー・ストーリー』[2011年〜]、『スーサイド・スクワッド』[2016年]などが代表作)の仕事が素晴らしかったです。

彼は天才ですよね。僕と同じく、彼も大のホラーファンでもあるので、1978年のオリジナル版のマスクを尊重しつつも少しずつ劣化させ、マイケルというキャラクターをどう描くか、どのような運命を辿るかを考えながらデザインをしてもらったんです。

―今のデザインに至るまで、かなり試行錯誤されたんですか?

そうですね、オフィスに写真を並べて吟味しましたよ。火傷の度合いや、ヒビなどの劣化具合、いろんなパターンを作ってもらいました。マスクで肝心なのは、照明を当てたときにどう見えるか、なんです。左半分が火傷でただれていて、右半分は原型をとどめていますよね。これを、どういった照明で、どんな角度で撮るか、このあたりの判断が難しい。完成版は、照明とアングル次第で笑っているようにも見えるし、悲しんでいるようにも見えるんです。マスク一つで、さまざまな表情を引き出すことができるんですよ。

「ホラーの入り口は、スティーヴン・キングだった」

―たしかに、劣化によって以前よりも表情豊かになっていますね。それと今回は、オリジナル版の『ハロウィン』以外にも、『ザ・フォッグ』(1980年)や『クリスティーン』(1983年)などジョン・カーペンター作品の影響を感じさせます。でも、個人的にはハドンフィールドという街自体がキャラクターのようであったり、狭いコミュニティ内での軋轢、下水道に棲むモンスターなど、雰囲気も含めてスティーヴン・キング作品の影響が濃いように思いました。監督はスティーヴン・キングの作品に思い入れがあるんですか?

おっしゃる通り、スティーヴン・キングにはとても思い入れがあります。12歳から読み始めて、今こうして取材を受けている僕のオフィスには、すべての著書があるんですよ。

―そんなにお好きなんですか!?

僕の両親はホラー映画に関しては厳しくて……友達の家で『悪魔のいけにえ』(1974年)『13日の金曜日』(1980年)『エルム街の悪夢』(1984年)なんかは観ていたけれど、家ではホラー映画は禁止されていたんです。でも、図書館で借りてくる本なら親にはバレない(笑)。僕のホラーの入り口は、まさにスティーヴン・キングだったわけです。個人的に影響を受けていますし、もちろん本作にもかなり反映されていますね。

―やはり、そうだったんですね!

「自由の象徴としてバイクが描かれるのは大好き」

―本作では街の除け者コーリー・カニンガムという青年が、古いKAWASAKIのバイクを手に入れて、束の間の自由を謳歌する場面があります。バイクが自由と破滅の象徴として念入りに描かれていて、同じバイク乗りとしてそのオールドスクールな姿勢に大変感動しました。それに劇中で、ジョン・ウー監督/ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ハード・ターゲット』(1993年)の映像が使われていますが、これもバイク・アクションが印象的な作品です。監督はバイクに何か特別な思い入れがあるんですか?

ありますね! ただ、若い頃は乗っていたんですけど、今は乗っていないんです……。

―それはなぜですか?

バイクに乗らなくなったのは……やっぱり僕も、バイクって自由だ! と思っているのはたしかなんですが、ヘルメットを被らなきゃいけないじゃないですか。それってちょっとどうなの? 本当に自由なのか? っていう(笑)。ただ、今おっしゃったように映画というものの中で、自由の象徴としてバイクが描かれるのは僕も大好きなんです。今作のバイクに関しては、トニー・ビル監督の『マイ・ボディガード』(1980年)にインスピレーション受けた……というか、ほとんどそのまんまです(笑)。

―青春映画の名作『マイ・ボディガード』には学校のいじめられっ子と、誰ともツルまない一匹狼が、ふたりでバイクの修理をしてギュッと距離が縮まる場面がありましたね。

今回、劇中ではちゃんとノーヘルで、それこそしっかり自由の象徴として表現したかったんですが、バイクに乗ってもらったコーリー・カニンガム役のローハン・キャンベルは、ほとんどバイクに乗った経験がなかったんです。なので撮影はけっこう苦労したんですけど、ちゃんと「自由」を感じてもらえたのなら嬉しいですね。

―監督の手がけてきた『ハロウィン』三部作は、毎度印象的な殺害シーンがありますが、本作ではマイケルを挑発しているラジオDJが殺される場面が最高でした。あそこでTHE CRAMPSの「I Was a Teenage Werewolf」という楽曲を使っていますよね。THE CRAMPSが大好きなので嬉しくなっちゃいましたが、曲名と同タイトルでティーンエイジャーが狼男になる映画『心霊移植人間』(1957年:原題『I WAS A TEENAGE WEREWOLF』)、またそれを元にしたとされるマイケル・J・フォックス主演の『ティーン・ウルフ』(1985年)もありますが、何か意味はあるのですか?

特に意味はないんです(笑)。ちなみに僕もTHE CRAMPSの大ファンで、今回映画で使われている楽曲は、全部自分が好きな曲で構成しようと思ったんです。あのDJ殺害のシーンに関しても、「好き」という以外に特に深い理由はなくて、合わせてみたらピッタリとハマっただけなんですよ。とてもゴアなシーンではあるけれど、あの楽曲に合わせることでユーモアも生まれて楽しいシーンになりましたね。

「見えるものより、見えないものが恐ろしい」

―あの、僕は監督の『スモーキング・ハイ』(2008年)の大ファンなんですが……。

ありがとう!

―『スモーキング・ハイ』のほか『ロード・オブ・クエスト ~ドラゴンとユニコーンの剣~』(2011年)などにも出演していて、『ハロウィン』三部作すべての脚本にも関わっているダニー・マクブライドさんとは、どこで出会って、どういったキッカケで映画の脚本まで一緒に書かれるようになったんですか?

彼とはノースカロライナ大学の芸術学部で一緒だったんですよ。学寮の2つ先の部屋がダニーで、コメディやホラーの感覚がめちゃくちゃ似ていて気が合ったんです。いま僕は自宅もオフィスもサウスカロライナにあるんですが、すぐ近くにダニーも住んでいて、今日もこれから一緒に牡蠣を採りにいくんですよ(笑)。

―ほんとに仲が良いんですね(笑)。

TVドラマはダニーが、映画の場合は僕がリーダーという感じで棲み分けして、いつも一緒に作っているんです。お互いが好きなものを共に掘り下げていっている、という感覚ですかね。ビジネス的にもパートナーであり、良き友人でもあるんですよ。

―そんな仲良しのダニー・マクブライドと監督は、『エクソシスト』のリブート版(2023年公開予定)でも脚本を一緒に書かれていますよね。『ハロウィン』三部作を手がけた経験は活かされましたか?

もちろんです。オリジナルの『ハロウィン』と『エクソシスト』は同じホラーとはいえまったく違うタイプのもので、当然リブート版に関しての僕らのアプローチも『ハロウィン』とは違いました。ただ、共通点があるとすれば、「見えるものより、見えないものが恐ろしい」ということなんです。映画的に簡単に言えば、照明の使い方ですね。恐ろしいものを、どの程度見せるか、見せないか。その塩梅は『ハロウィン』三部作でとても勉強になりました。

―そちらの公開も楽しみにしています! ありがとうございました!

取材・文:市川夕太郎

『ハロウィン THE END』は2023年4月14日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開

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