ハードコア風紀活動『イコライザー』はなぜ「ナメてた相手が殺人マシンでした」映画の代表となったのか?【前編】

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2023年4月にCS映画専門チャンネル ムービープラスで『イコライザー』(2014年)、『イコライザー2』(2018年)が放映される。この記事はその告知も兼ねているわけだが、そうでなくても『イコライザー』シリーズの魅力と偉大さは、チャンスがあれば、いやチャンスがなくても書き残しておかなければならない。これは、この世に生きる我々の使命だといっても過言ではない。

なぜなら『イコライザー』シリーズは、皆さんが大好きなジャンル「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした!」ムービーを代表する大事な作品のひとつなんだから!

ナメてた相手が、実は殺人マシンでした。

まずは『イコライザー』のおさらいから。

主人公ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)はホームセンターの従業員。職務態度は真面目で同僚からの評判も良い。限度を超えた几帳面で、睡眠障害等の問題も抱えてはいるが、日々を静かに暮らそうとしていた。

しかし、ロシアン極道にコキ使われる少女売春婦テリー(クロエ・グレース・モレッツ)と出会ったことで、彼の中で眠っていた何かが目覚める。マッコールは、テリーを自由にしてあげようと、彼女を囲うロシアン極道の事務所に単身、交渉に行く。

案の定、事務所にいた5人の構成員は、地味な服装で穏やかな態度のマッコールを見て、豪快にナメた。

だが、しかし! 彼らが平凡なホームセンター従業員のオッサンとナメたマッコールは、実は高度な戦闘スキルを身につけた元CIA工作員だった! というロシアン極道的には悲惨な事態だが、映画ファン的にはグッとくる事実が発覚! というわけでマッコールは、5人のロシアン極道の構成員をわずか19秒で処刑する。

この大量殺人によってマッコールの中に眠っていたジャスティスが目覚めた。そして彼は、世の中を平等(イコール)にするため、人知れず悪を裁く正義の処刑人イコライザーとしてハードコアな風紀委員活動を開始するのであった……。

以上、『イコライザー』のおさらいでしたが、ここからは本作がいかにして「ナメていた相手が、実は殺人マシンでした!」ムービーを代表する作品となったのか? を解説していきたい。

『シティ・ハンター』✕『必殺』シリーズなオリジナル版ドラマ

『イコライザー』は、テレビドラマ『ザ・シークレット・ハンター(原題:THE EQUALIZER)』(1985~1988年)のリメイク映画として企画された。

このドラマ版の舞台はニューヨーク。主人公は、エドワード・ウッドワードが演じる初老の男性ロバート・マッコール。常にスーツにバーバリーのトレンチコート姿で、クラシック音楽やヴィンテージワインを好み、ジャガーXJ6を乗りこなす気品に満ちた英国紳士である彼だが、実は英国陸軍出身の元CIA工作員という経歴のオーナー。

ドラマは毎回、マッコール自身が新聞に出した「Odds Against You? Need Help?(困ってませんか? 助けは必要ですか?)」という広告を見て、助けを求めて来た人々を、エージェント時代に培った戦闘スキルを駆使して助ける……という、『シティ・ハンター』と『必殺』シリーズをドッキングさせたような作品になっている。

『ザ・シークレット・ハンター』の戦闘はガンアクションがメインで、毎回、英国紳士マッコールが戸棚の裏に隠された武器庫から銃をチョイスして戦いに行くのがお約束だった。なお映画『イコライザー』でも隠し武器庫のシーンを撮影し予告編では使われたが、本編からはカットされている。

ちなみに映画版のラスト、マッコール(デンゼル・ワシントン)が“仕事”を募る広告サイトを作ったのは、TVドラマ版で描かれた新聞広告へのオマージュで、「Odds Against You? Need Help?」という文も同じ。他にも、ドラマ版でマッコールの愛車だったジャガーXJを、汚職刑事マスターズ(デヴィッド・ハーバー)の自宅ガレージのシーンで登場させている。

フークア監督はドラマ版を観ていなかった!「年寄りが観るものだと…」

同シリーズは放映開始直後こそ話題にならなかったが、徐々に人気番組となっていく。そしてシーズン2放送時には、当時の人気ドラマ『私立探偵マグナム』(1980~1988年)とのクロスオーバーも検討されるほどの人気ドラマとなり、最終的にはシーズン4まで放映された。

ちなみに、マッコールの疎遠になっていた息子の役で『ベスト・キッド』(1984年)、ドラマ『コブラ会』(2018年~)のジョニー役で知られるウィリアム・ザブカも出演している。

そもそも『ザ・シークレット・ハンター』の映画版リメイクの話は2005年からあり、その時点では『ラッキーナンバー7』(2006年)のポール・マクギガン監督作として企画されていた。

しかし、この企画は進展せず、2010年になると『007 慰めの報酬』(2008年)の脚本家ポール・ハギスが監督、ラッセル・クロウ主演作として企画されたが、これも実現せず。その後、ジェラルド・バトラー主演という案も出たが、最終的には『16ブロック』(2006年)や『エクスペンダブルズ』(2012年)の脚本家リチャード・ウェンクが書いた本作の脚本を読み、主人公ロバート・マッコール役に興味を示したデンゼル・ワシントン主演作として動き出す。

デンゼル「この映画が面白くなるかどうかは監督次第だ」

主演だけでなく、プロデューサーも兼任することになったデンゼル・ワシントンは、『イコライザー』の映画化に対して、こんな考えを抱いていた。

この脚本を普通に撮ってしまったら、普通のヴィジランテ映画になってしまう……。この映画が面白くなるかどうかは監督次第だ。

最初に監督のオファーをされたのは『ドライヴ』(2011年)のニコラス・ウィンディング・レフン。しかし、彼は契約条件に同意できなかったため、1か月後にプロジェクトから去ってしまう。次に『猿の惑星:創世記』(2011年)の監督ルパート・ワイアットに依頼するも、彼は別の作品に関わっていたため参加できず。『イコライザー』のプロジェクトは行き詰ってしまった……。

と思いきや、ワシントンの頭には、この企画にうってつけの監督が浮かんでいた。彼がゴリゴリの汚職デカを演じて、アカデミー賞主演男優賞を受賞した『トレーニングデイ』(2001年)の監督、アントワーン・フークアだ。

彼なら『イコライザー』を平凡なヴィジランテ・アクション映画にすることはないだろう。それに『イコライザー』はキャラクターだけでなく、舞台となる街も丁寧に描けないと失敗する。『トレーニングデイ』でロスの危険地帯を生々しく描いたフークアなら、この作品にうってつけだ! ワシントンは早速フークアに電話した。

しかし、『イコライザー』の監督アントワーン・フークアは当時、『ザ・シークレット・ハンター』を観ていなかったという。

その頃、僕は『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984~1989年)を観ていたよ。『ザ・シークレット・ハンター』は、もっと年寄りが観るドラマだと思っていたんだ。

そんなフークア監督の発言を裏づけるように、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)には、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公の年老いた両親が自宅のTVで『ザ・シークレット・ハンター』のオープニングを観ているシーンがある。なお同ドラマのオープニングテーマ曲を作曲したのはイギリスのロックバンド、ポリスのドラマーだったスチュワート・コープランドだ。

フークアには「初老の男性が自警団になる」というフワッとした知識しかなかったが、依頼を受けるや「デンゼル・ワシントンが自警団になる男性を演じる映画!? それは面白くなるに決まってる!」と即決。こうして映画『イコライザー』は動き出した。

ちなみにフークアには微妙な評価をされた『ザ・シークレット・ハンター』だが、2021年からリメイク版ドラマ『イコライザー』が放送。主人公を英国紳士からシングルマザーの元CIA工作員ロビン・マッコール(クイーン・ラティファ)に変えた同作は好評を博し、国内では現在シーズン2まで放送されている。

👇【後編】に続く👇

文:ギンティ小林

『イコライザー THE FINAL』は2023年10月6日(金)より全国公開

『イコライザー』『イコライザー2』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「イコライザー イッキ観!」で2023年10月放送

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