いつまで若者と政治の距離感は遠いままなのか?各地で始まる女性参画の後押しや「選挙小屋」の取り組みとは?

4月9日に投票日を迎えた統一地方選前半戦の投票率は過去最低となり、立候補者が定数を下回る「無投票当選」者数が全体の4分の1を占めました。こうした投票率の低迷や議員のなり手不足に関連して、長らく問題となっているのが、若手議員数の少なさや若者の投票率の低さでした。なかなか抜本的な改善が難しい中で、今年の統一地方選挙をめがけて、若者自身が立ち上がる取り組みが各地で始まっています。

若者目線で政治を語る「FIFTYS PROJECT」

3月7日夜、霞が関の官庁街からほど近いコワーキングスペースのラウンジで、「FIFTYS PROJECT(フィフティーズ・プロジェクト)」のイベントが開催されていました。大学生が中心となって立ち上げた同プロジェクトは、政治分野のジェンダー不平等の解消を目指し、女性や性的マイノリティーの議員を増やすことや、若者の政治参画を促す取り組みを進めてきました。今回の統一地方選挙では、20・30代の地方議員の女性比率を現在の14%から30%に引き上げる目標を掲げています。

同日のテーマは、選挙ボランティアへの参加でした。選挙の現場で候補者を支えるボランティアを増やすことで、女性や性的マイノリティーの政治進出を後押しする狙いがありました。

「今の選挙スタイルはサステナブルじゃない」

プロジェクトを主催する団体に所属する大島碧生さんは、昨年参加した金沢市長選挙や品川区長選挙でのボランティア経験を踏まえてこう語ります。

大島さんたちは、2つの選挙で女性立候補者の陣営ボランティアに入り街宣活動などを手伝っていました。自身のボランティア活動を「友達と一緒に、心から応援したいと思う候補を応援しに行って楽しかった」と笑顔で語り、参加者にもおススメしていました。

ただ一方で、「子育て世代に訴えたいのに、赤ちゃんの寝かしつけの時間帯に選挙カーを走らせることに罪悪感もあった」と明かしました。選挙期間中には昼間に街宣車で自分の名前や訴えを大きな声で拡散することは、よくある手段ですが、現場で候補者を懸命に応援するほどジレンマをも抱えていたといいます。

また、いわゆる「三バン」という言い方に象徴されるように、資金力や地縁がないと当選しづらいといった「既存のルールや伝統の縛りがとても多い」ことが女性や若者の政治参画の壁になっているとも指摘。

同イベントの参加者にはボランティア経験がある人もない人もいましたがが、「子どもの頃に国会を見ていて、なんで男性しかいないんだろうと不思議に思った」「防衛費の増額の話、どうしてそうなったのか全然分からなかった」など、政治に関して率直な言葉でお互いに話し合っているのが印象的でした。

選挙取材の街頭演説などで聞く、選挙ノウハウをよく知る人からはあまり聞かない、若者言葉を織り交ぜながら語られる政治や選挙に関する話は、むしろリアルに聞こえました。

プロジェクト主催団体代表の能條桃子さんは、「選挙ボランティアは陣営によっては、ぎすぎすしていたりするので、自分がセーフティと感じられない場所にあたってしまうと『もう行きたくない』と思ってしまう人もいる。でも、ここで知り合いできて、一緒にボランティアに行ったら、また別のところに行ってみようと思えるかもしれない」と、ゆるくつながり、広がることに期待を込めて語りました。

まちに、日常に、政治を存在させるーー日本初の選挙小屋

統一地方選挙の皮切りとなる知事選が告示されて初めての週末、若者に人気の街・下北沢にある「下北線路街」には国政各政党の登り旗が並んでいました。

国内で初めての「選挙小屋」の取り組みです。

小屋を除くと、政党が今、力を入れている取り組みや紹介するパンフレットを配布したり、参加者と政策に関して意見を交わしたりしていました。

「統一地方選挙の公約です。ぜひ読んでください」

「この冊子はね、毎月無料で配ってるんだよ。(ページが多くて)すごいでしょ」

定例的に発行している広報誌やチラシを丁寧に説明する政党、政党のキャラクターグッズを活用して特色を説明する政党、動画を流してPRする政党など、それぞれの党のカラーがあらわれていました。

イベントを主催した日本若者協議会の室橋祐貴さんによると、選挙小屋の取り組みは北欧を中心にですでに進んでいるとのことで、今回の初開催にあたっては自ら現地視察にも行ってきたそうです。

選挙小屋の特徴は何といっても、出展者と参加者の「近さ」にあります。小さいブースに分かれているからこそ両者が対話しやすく、屋外ならではのオープンな雰囲気でした。

室橋さんは選挙小屋を開いたきっかけを「日本は政治への不信感が強いですが、対話をした上で不信感を持っているかというと必ずしもそうではないと考えています。漠然と知らない、もしくは伝わってくるのが悪いニュースばかりといった強調されているように感じます。そういう人にリアルな姿を知ってもらうことで、市民と政治の関係性が変わっていくと考えています」と期待を語ります。

また、イベント全体は「民主主義ユースフェスティバル」として選挙小屋の他にも、キッチンカーによる食べ歩きや音楽ライブなどを楽しむことができました。こちらも海外の開催事例があり、政治に関する講演の後に「日本でいうと紅白出場レベルの有名歌手」が生演奏をすることなどもあるそうです。室橋さんは、「日常会話の延長で政治を語る文化が日本でタブー視されている点を変えたくて、政治とエンタメ要素を織り交ぜた企画にしました」と明かします。

また、室橋さんは、「こうした対話の場の大切さを主要政党の方々にも知ってもらうきっかけになれれば」と話しています。市民と政治の関係性はこれまで、思想が近しい組み合わせでしか発展してこなかった側面がありますが、両ウィング・全方位で関われる場があれば関係性が変容することも期待できます。

今回の選挙小屋は1カ所で行われましたが、本場では「山手線の各駅ごとに小屋が設けられている」イメージで、今後も取り組みを広げていく考えです。こちらは政治側から市民へ近づいていく取り組みとなりそうです。

Z世代の8割が友達と政治を語らない、対話の環境づくりが急務を!

学生団体「NPO法人ドット・ジェイピー」が今回の統一地方選に向けて、全国の大学生を対象にまとめた政治意識調査によると、8割が「投票に行く」と回答した一方で、「友達と政治について話すことがありますか」と尋ねる設問には29.0%が「全然ない」、47.2%が「あまりない」と回答しました。

「政治について周りと話しにくいと感じる理由」で最も多かったのが「政治に関する知識に自信がないから」(49.1%)、次いで「自分や周りにとって身近な存在ではないから」(40.3%)、「政治の話をすると『意識が高い人』と思われそうだから」との回答でした。この結果からは、学生の普段の生活の中で政治がいかに「遠い」存在であるかが浮き彫りとなりました。

学生団体ドット・ジェイピーによる「【統⼀地⽅選挙】Z世代の政治意識に関する調査」より抜粋

こうした中、選挙情報を調べるためにSNSを利用している割合は64.6%と過半数を占めました。

同団体は、「政治についてZ世代は友人同士で話をすることがほとんどなく、SNSやshort動画などの動画メディアで情報収集をしていることが明らかになりました。その一方で、友人と政治の話をする人ほど、政治に対し課題を抱き、投票に行く傾向があることからも、政治や選挙について対話できる環境も必要だと予想されます」と考察しています。

若者の政治参画を進めるには、若者と政治の双方が歩み寄る必要があるのではないでしょうか。

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