『シン・仮面ライダー』池松壮亮らの苦悩は報われたのか?命がけだった演技の印象は

時代が望む時、仮面ライダーは必ず蘇る……。

「仮面ライダー」シリーズの生みの親である石ノ森章太郎先生が遺した言葉です。混乱渦巻く「令和」の日本に新たな仮面ライダーが誕生しました。その名も『シン・仮面ライダー』

「エヴァンゲリオン」シリーズで有名な庵野秀明監督が、自身の創作に多大な影響をもたらした「仮面ライダー」を再構築した話題作です。

『シン・仮面ライダー』公式サイトより

しかしながら、今までに観たことがない作品でもあるため、賛否両論の熱い議論を巻き起こしていることも事実。さらに、先日放送された『ドキュメント「シン・仮面ライダー」』(NHK)にて映し出された壮絶な撮影風景が大きな話題となり、現在、より熱い論争へと発展しています。

特に、主演の池松壮亮さんを初めとしたキャストたちの苦労がハッキリと映し出され、彼らへの労いの言葉も多く見られるようになりました。
『シン・仮面ライダー』キャストたちは実際にどう演じていたのでしょうか? 特に男性俳優に注目します。

池松壮亮の苦悩が報われた本郷猛

『シン・仮面ライダー』の主人公となる青年・本郷猛。1971年に放送を開始したオリジナル版の『仮面ライダー』では、藤岡弘、さんが演じたことでも有名で、おそらくは日本で最も名前を知られている“仮面ライダーに変身する人”だと思われます。

そこまで有名なキャラクターを、今回新たに演じることになったのは、映画『ラスト・サムライ』で鮮烈なデビューを飾り、その後も『ぼくたちの家族』『紙の月』『アジアの天使』などで類まれなる才能を発揮し、数々の賞を獲得してきた、実力派俳優の池松壮亮さん。

『シン・仮面ライダー』本チラシ裏

30歳を超えて仮面ライダーを演じることに若干の戸惑いもあったという池松さんですが、ほとんどのアクションを自らこなすなど、役柄と真摯に向き合い、見事、新時代の本郷猛を作り上げた印象を受けます。

かつて昭和の本郷猛は心優しい性格の持ち主でありながら、どこか熱血漢の印象を大いに与える主人公でした。しかし、『シン・仮面ライダー』の本郷猛は、根底にあるキャラクター像はオリジナルに忠実ながら、“コミュ障”であるという追加要素がプラスされており、人と話すことや感情を表に出すことが苦手であるかのような印象を与えるのです。

こういった部分に、池松さんの演技が非常にマッチしているように感じ、望まない力を手に入れてしまった改造人間としての悲哀をより一層強調することに成功していると思いました。

『ドキュメント「シン・仮面ライダー」』内でも明かされていたように、撮影が始まる以前のリハーサル中、足に怪我を負ってしまった池松さん。製作発表記者会見に松葉づえをついて登場したことが大きな話題となりましたが、それもまた池松さんの本作にかける思いが現れた結果だと思います。

怪我をしても尚、CG以外のほぼすべてのアクションを自らこなし、自身が演じないアクションの場面でもスーツアクターとのコミュニケーションをとりました。

制御できない凶暴性や自らの力と暴力を行使することへの葛藤といった、改造人間の心の奥底に眠る感情を掘り下げ、アクション中の動きで体現して魅せたのは素晴らしかったです。デザイン性を重視したレザーのスーツを纏っての、文字通り“命がけ”の演技は大変だったと思うのですが、その努力が見事に結実した演技だったと言えるでしょう。

とりわけ仮面を被ったままセリフを話す場面が好印象で、ほんの小さな動きで感情の起伏を表現し、仮面の上からでも表情がわかるのは、すごいの一言に尽きます。

『ドキュメント「シン・仮面ライダー」』内でも、本物にこだわる庵野監督からの要求に四苦八苦しながらも理解を示し、熱心に新しい演技を引き出そうとする様が映し出されていました。その苦悩や葛藤が最終的に報われた形となったわけです。

ドキュメンタリーで映し出されたようなさらなる高みを目指そうとする現場は、俳優としての池松さんにとってこれ以上ない大きな財産となり、きっと今後の俳優人生に大きな影響を及ぼすことでしょう。

オールドファンも納得する柄本佑の一文字隼人

そんな本郷猛と相反する性格を体現するキャラクターが、仮面ライダー第2号こと一文字隼人です。

オリジナル版の一文字隼人は本郷と比べて非常に明るい性格の持ち主で、お調子者のイメージが強かったのですが、『シン・仮面ライダー』でもその部分は継承しつつ、ニヒルな笑顔も印象的なキャラクターへと昇華させた印象です。

演じる柄本佑さんの一筋縄ではいかない存在感も相まって、本郷すらも凌駕する魅力を放っていたと言えるでしょう。
さらに本作の一文字は悪役として初登場し、その後、真の仮面ライダーになっていく描写があり、その変化を話し方や表情でしっかりと表現していたのが印象深いです。
ファン歓喜の名セリフも含めて、オールドファンが求める一文字隼人像を体現していたのでないかと思います。

森山未來の官能的な演技。斎藤工や竹野内豊らも見事

ここまでは主演の2人にフォーカスしましたが、その他にも、『シン・仮面ライダー』を盛り上げた脇役陣も素晴らしい演技を披露してくれました。

まず触れたいのは、やはり緑川イチロー役の森山未來さん。オリジナル版には登場しない全く不透明なキャラクターでしたが、森山さんの官能的な演技の数々で、輪郭をハッキリさせることに成功したのではないでしょうか。

悪役としての狂気的な存在感もさることながら、決して悪とは言い難いキャラクター性を発揮している点もまた、森山さんにピッタリのハマり役だったように思います。

さらに、注目なのは、物語のキーパーソンとなる謎めいた存在…政府の男役の竹野内豊さんと情報機関の男役の斎藤工さん。

お二方とも『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』に続く、「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」3作目の出演となります。

特に竹野内さんは、3作通じて似通った印象を与えるキャラクターを演じているわけですが、演技の段階から、まるで同一人物であるかのように演じることを心掛けたと言います。
その甲斐あって、まさに同じキャラクターが、別の次元を行き来しているかのような錯覚を覚え、今後のユニバース展開にも一役買うのではないかという思いも抱いてしまいました。

斎藤工さんもまた然りで、まるで“ウルトラマン”が仮面ライダーの世界にいるかのような楽しみ方もできるわけです。彼らが演じるキャラクターは、映画のラストで名前が判明するのですが、鳥肌ものの事実に驚愕すること請け合いです。

そして、忘れてはならないのはアンドロイドのケイ役を演じる松坂桃李さん。

このケイというキャラクターは、かつて放映された東映の特撮ドラマ『ロボット刑事』へのオマージュかと思うのですが、「仮面ライダー」の世界に存在しても全く違和感のないデザインがとにかく見事で、演じる松坂さんの無機質な声の演技と好相性でした。

緑川ルリ子役の浜辺美波さん、ハチオーグ役の西野七瀬さん、KKオーグ役の本郷奏多さん、サソリオーグ役の長澤まさみさん等も忘れてはなりません。

彼らもまた魅力的な演技を披露してくれており、本作をさらに面白いものにしてくれています。
豪華キャストの巧みな演技も堪能できる『シン・仮面ライダー』は、全国の映画館で大ヒット上映中です。彼らの演技を劇場で堪能しよう。

(執筆:zash)

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