超巨大ブラックホールの新たな観測画像公開 機械学習モデルで鮮明化

2つのリング状の像が並べられこちらの画像、左側の像は目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。これは「おとめ座」の方向約5500万光年先にある楕円銀河「M87(Messier 87)」の中心にある超大質量(超巨大)ブラックホール「M87*」を電波で捉えた画像です。国際研究グループ「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope:EHT)」から2019年4月に公開されました。

【▲ EHTが観測した超大質量ブラックホール「M87*」の2つの画像を比較。2017年4月に公開されたもの(左)と、機械学習モデル「PRIMO」を用いて再構成されたもの(右)(Credit: L. Medeiros (Institute for Advanced Study), D. Psaltis (Georgia Tech), T. Lauer (NSF’s NOIRLab), and F. Ozel (Georgia Tech))】

リング状の輝きはブラックホールを高速で周回しながら落下していくガスの存在を示していて、その中央にはシャドウ(影)と呼ばれる暗い部分が見えています。ブラックホールそのものはシャドウの中心に存在するとみられており、その質量は実に太陽の約65億倍と推定されています。

EHTはチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」をはじめ、世界各地にある電波望遠鏡を1つの巨大な仮想の電波望遠鏡として機能させる観測手法「超長基線電波干渉計(VLBI)」を利用して、これまでにM87*や天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」を観測することに成功しています。

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いっぽう、右側の像も左側のM87*の像に似ていますが、リングの幅はより細く、シャドウも広くなっています。この画像は2023年4月13日付で米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)から公開されたもので、EHTの観測で得られたM87*のデータを「PRIMO」と呼ばれる機械学習モデルを利用して再構成したものとなります。

PRIMO(principal-component interferometric modelingの略)はEHTのメンバーであるプリンストン高等研究所のLia Medeirosさんたちによって開発された、辞書学習を利用した機械学習モデルです。Medeirosさんたちはブラックホールに降着(落下)するガスをシミュレートした3万通り以上の画像を使ってPRIMOをトレーニングした上で、EHTによるM87*の観測データから画像の再構成を行いました。

【▲ PRIMOのトレーニングに用いられたブラックホールへのガス降着シミュレーションの例】
(Credit: Medeiros et al. 2023)

今回の結果をまとめた論文の筆頭著者を務めるMedeirosさんは「(PRIMOを用いることで)現在の電波望遠鏡ネットワークにおける最大の解像度を達成できました」とコメントしています。Medeirosさんによると、2017年公開の画像と比べてリングの幅は約2分の1まで細くなり、理論モデルや重力のテストに対する強力な制約条件になるといいます。

PRIMOを用いて再構成された画像は、M87*のより正確な質量などの決定をはじめ、いて座A*を含むEHTの他の観測にも適用できるとして期待されています。機械学習モデルによる電波干渉計の観測データの分析は、ブラックホールのさらなる知見をもたらすことにつながるかもしれません。

Source

  • Image Credit: L. Medeiros (Institute for Advanced Study), D. Psaltis (Georgia Tech), T. Lauer (NSF’s NOIRLab), and F. Ozel (Georgia Tech)
  • NOIRLab \- A Sharper Look at the First Image of a Black Hole
  • Institute for Advanced Study \- Sharper Look at M87 Black Hole
  • Medeiros et al. \- The Image of the M87 Black Hole Reconstructed with PRIMO

文/sorae編集部

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