米大リーグ、エンゼルスで本塁打を放った打者を祝福するセレモニーで有名になったかぶと。前面を飾る「獅子」は南九州市川辺の仏師、田中志昇(ゆきのり)さん(80)が手掛けた彫刻だ。かぶとが人気になったことで田中さんにも追加注文があり、製作に追われている。
田中さんによると、かぶとを製作した丸武産業(薩摩川内市)に約40年前から彫刻を納入しており、今回の獅子は20年ほど前に注文を受けてデザインした。
大きく口を開き、前脚と後ろ脚を大きく伸ばした姿で躍動感を表す。胴体は縦16センチ、幅4.5センチで現在は手に入りにくいロシア産のベニマツから彫り出した。尻尾は別に作り結合する。
川辺仏壇の製作にも携わってきた田中さん。若い頃は地元のソフトボールチームに属し、今も野球好きだ。スポーツニュースで、エンゼルスの主砲マイク・トラウト選手が祝福のかぶとをかぶった映像を見て、金色に塗装されていたが、すぐに自分の彫刻だと気付いたという。
翌日には、丸武産業から急ぎの注文がまとめて入った。とはいえ、1体彫り上げるのに丸一日かかる。早速製作にかかると、今度は大谷翔平選手のかぶと姿を見ることができ、さらに気合が入った。
仏像彫刻が専門だが、時代劇のかぶとの飾りも多く手掛けてきた。田中さんは「一度にこれだけの注文は珍しい。大谷選手の人気で注目されるのはありがたい」と彫刻刀を振るう手も軽やかだ。