『僕の心のヤバイやつ』市川と山田、正反対な2人はなぜ惹かれあう?

2023年4月1日からTVアニメが放送中の『僕の心のヤバいやつ』は、陰キャの厨二病少年・市川京太郎×陽キャの美少女・山田杏奈が繰り広げる両片思いラブコメディで、更新の度にTwitterのトレンドを賑わせている超人気漫画です。

アニメ『僕の心のヤバイやつ』メインビジュアル

陰キャ少年×陽キャ美少女……一見ありがちに思える設定。しかし、取り上げられがちな「陰キャ」「陽キャ」といった部分は彼らの一側面に過ぎません。作中ではそういった枠組みを超えて、二人がお互いを好きだと思う気持ちを積み重ねていく様子が丁寧に描かれています。

性格も環境も正反対な二人ですが、お互いを大切に想うようになる理由も正反対。何がそこまでお互いを惹きつけるのか? 原作の名作エピソードの紹介を交えながら、紐解いていきます。

※記事の性質上、原作の内容に触れています。

市川:山田によって自分の世界が輝いた

市川は当初から、モデルとして活躍する美少女・山田を偏見の目で見ていました。「好き」というよりは厨二病妄想の題材として見ていた側面の方が大きく、直接関わろうとは思ってすらいなかったはずです。

もともとその見た目に惹かれ憎からず思っていたのは確かですが、拗らせた市川が単なる”好き”という気持ち以上に"山田の世界を大切にしたい"と素直に思っている様子がKarte.40「僕は練習台になった」(3巻収録)で描写されています。

『僕の心のヤバイやつ』3巻 (秋田書店)

モデルから女優へと活躍の場を広げ、ついには映画に出演することになった山田。そんな山田に対し、市川はこれまで以上に自分との格差や、山田との関係性の変化を意識します。自分達が卒業し、関係性が変わってしまう時期に公開される映画——「観てくれる?」と問いかけてくる市川が出した答えは……

「……観られる…(自分になる)よう、善処する」

山田のために成長することを誓った市川。卑屈で、自虐的で、山田を含め他人に対して線を引いていた市川の姿からは想像ができないほどに成長しています。

それもこれも、山田をきっかけとして人と関わるようになり、市川なりに友人関係を構築できるようになったからなのではないでしょうか。いわば山田が「自分の世界を輝かせてくれた」のです。

アシストしてくれる女友達・萌子や、素直に感情を顕してくれる友人・足立、そして恋敵である南条先輩(通称・ナンパイ)など、自分の内側に引きこもっていた市川の矢印が外側に向くようになり、自分が納得できる自分になるように成長しようという気持ちになれたのです。

山田:市川が世界を穏やかにしてくれる

山田は当初、市川のことは眼中にありませんでした。他の男子と同じように思っている節があり、(自分にとってのモブである)市川へ侮蔑の目を向けるような一幕も……。

華やかな大人の世界に居て、みんなの憧れである山田。そんな山田が市川に惹かれた理由は「市川が自分の世界を穏やかにしてくれるから」でしょう。

『僕の心のヤバイやつ』2巻 (秋田書店)

2巻に収録されているKarte.27「僕らははぐれた」では、一緒に職業見学に行くことになった山田と市川。

学校に帰る途中、他の班員と共に行動していたはずがちょっとしたミスではぐれてしまい、二人は電車のホームに取り残されてしまいます。そんな状況に思わず子供のように泣き出してしまう山田と、何も言わずにミルクティーを差し出す市川。

基本的に市川視点で話が進むため山田の心情は描写されませんが、ミルクティーを受け取った後の、困惑したような喜びが溢れているような微妙な表情を覗かせます。

『僕の心のヤバイやつ』7巻 (秋田書店)

山田は中学生である傍らでモデルの仕事をしていることもあり、周囲の大人たちから子供扱いされることを悔しく思っている描写があります。

でも市川は山田に「大人であれ」もしくは「子供らしくしろ」と望むことはないし、「なんで泣いてんの」と冷静さを押し付けてきたりもしません。

みんなの憧れであり、大人になりたいと虚勢を張る山田。そんな市川の穏やかな優しさに触れたとき、自分が子供であることを思い知らされ改めて気恥ずかしくなり、同時にそれでも構わないと知り嬉しくなり、微妙な表情を見せたのではないでしょうか。

最初はツンとしていて隠れて図書館でお菓子をつまんでいた山田も、市川と接していくうちに人前で感情を顕にしたり、大食いするようになりました。

そして自分らしさを発揮し、地に足をつけて落ち着いて見渡すことができるようになった分、自分の気持ちや夢を市川や周囲へと語るように成長できたのだと思います。

お互いの存在によって変化する素晴らしさ

何もかも正反対な二人がなぜ惹かれ合うのか? それは、お互いの存在によって世界がより良く見えるようになるからです。

アニメ『僕の心のヤバイやつ』ティザービジュアル

特に読者視点となる市川の成長や視野の広がりは凄まじいもので、山田と接するようになってからの市川は多くのことを経験し、「学校が楽しい」とまで言えるようになります。

モデルとか学校一の美少女とかは関係なく、そんな世界を自分にもたらしてくれた山田だからこそ、市川にとってはかけがえのない存在となったのではないでしょうか。

一方で山田は、気負わず穏やかに過ごすことのできる日常を市川を通じて感じ取ります。「大人になりたい」と背伸びすることなく年相応に成長できるようになった山田は、その世界を教えてくれた市川の優しさや繊細さに、次第に惹かれていったのではないでしょうか。

Blu-ray 『僕の心のヤバイやつ』第1巻(エイベックス・ピクチャーズ)

市川は山田を通して世界の輝きを知り、山田は市川を通して世界の穏やかさを知る——どこまでも正反対な二人ですが、お互いの存在によって世界がより良く見えるようになる点は同じ。それゆえにお互いを大切にしたい、という根底にある気持ちは同じなのです。

漫画では二人の関係も佳境に入っており、更新の度に読者を尊死させる『僕ヤバ』。

アニメもスタートし大盛り上がりなこのタイミング。『僕の心のヤバいやつ』市川と山田の恋心に触れてみてください。

(執筆:宮本デン)

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