ガーシー容疑者の母親宅「ガサ入れ」され困惑…意外に知らない「家宅捜索」の基礎知識

暴力行為法違反などの疑いで逮捕状が出ている元参議院議員の「ガーシー」こと東谷義和容疑者(51)の身辺が慌ただしい。

旅券返納命令の期限である13日を前に、10日に配信したインスタライブでガーシー氏は、「引っ越ししたばかりのため、パスポートをなくした。一週間探したけど見当たらない。日本領事館には連絡したので、返納する意思はある」などと表明していた。

これに対し、〈往生際が悪すぎる〉〈時間稼ぎ〉〈子供の言い訳か〉とネット上では大ブーイング。あきれ声が大半を占めていたが、12日、ガーシー氏はドバイの日本総領事館に紛失届を提出、旅券法に基づきパスポートは失効した。これを受け、警視庁はICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際指名手配をしたという。

「典型的な詐欺師の論法」

ここ1か月のガーシー氏を巡る動きは目まぐるしいが、ざっと振り返っておこう。

3月15日に参議院本会議でガーシー氏の除名処分が可決されるや、翌16日には、動画投稿サイトを通じて著名人を脅迫したとして、暴力行為等処罰法違反の常習的脅迫などの疑いで警視庁が逮捕状を請求した。

23日には、要請を受けた外務省が、旅券法に基づき、4月13日までにパスポートを返納するよう命令。

続く24日には、警視庁捜査2課が、兵庫県伊丹市内のガーシー氏の親族の家2軒を家宅捜索。1月にガーシー氏の広告収入の管理会社の関係者宅など数カ所を家宅捜索したのに続くガサ入れとなった。

さらに今月、4月5日には動画配信サイト「ツイキャス」と動画投稿アプリ「TikTok」の運営会社に対し、ガーシー氏のアカウントの凍結を要請。夕刊紙事件担当記者はこう話す。

「詐欺罪などを担当する捜査二課が担当していますが、『返納する意思はあるがパスポートが見当たらない』などの言い分が、典型的な詐欺師の論法であることは百も承知でしょう。『日本に帰らないことに決めた』とか、ガーシーも散々挑発して来ましたから、警察も威信をかけて徹底してやるはずです」

「おかんを苦しめたくないんです」

“ガーシー包囲網”はますます狭まっているように見えるが、先月24日、実家に家宅捜索が入ったときは、ガーシー氏は動画配信サイトで涙ながらにこう訴えた。

「77歳のおかん捕まえて勾留して何が出るんですか。うちの母親だけは、ほんま止めてください。おやじも自殺して、俺まで犯罪者みたいになって、これ以上、おかんを苦しめたくないんです。もう俺のことはどうなってもいいので。おかんだけはほんまに勘弁してください」

「だったらすぐに帰宅して事情聴取に応じろ」というネット上の声はさておき、東京地方検察庁などでの勤務経験もある元検事の日笠真木哉弁護士も「自業自得ですよ。任意の事情聴取にも出頭命令にも応じないからです。裁判所の判断は適切。日本国内に居住先がないから、関連事務所や実家など、関係性の濃いところを捜査したまでです」と話す。

“自業自得”との声も多い(本人Instagramより)

強制捜査の可否は中立公正な裁判官が判断している

そもそも「家宅捜索」とは一般に、どのような法的手続きを経て行われるものなのか。日笠真弁護士に解説してもらった。

「正式には『捜索差押許可状』(通称ガサ状)の発布を裁判所に請求するという手続きが必要です(刑事訴訟法218条1項)。これがないと基本的には、たとえ家主や住人の承諾があっても、『家宅捜索』や『ガサ入れ』はすることはできない。

捜査には“任意捜査”と“強制捜査”とがあり、基本的には任意捜査に応じなければ強制捜査を行うという流れがありますが、強制捜査は、罪証隠滅の恐れなどがある場合に必要性が認められます。もちろん大前提として被疑事実の『嫌疑』の相当性があるということが重要です」

つまりガーシー氏は、任意の事情聴取の要請や出頭命令を出されていたにもかかわらず、「オンラインなら応じる準備がある」などと、それに応じなかったため、親族宅の強制捜査が行われたという訳だ。日笠弁護士の解説は続く。

「ガーシーの場合は逮捕状が出ているので犯罪の嫌疑自体はあるということです。①任意の捜査を求めたのでは罪証隠滅の恐れがあり、②その場所に事件に関連するものが存在するという蓋然(がいぜん)性があること。この要件を満たせば裁判官は令状を発布します。また、任意の捜査と大きく異なるのは、中立公正な裁判官が判断しているということです。警察は裁判所に犯罪行為に該当することを説明するために、『疎明資料』を提出しています。

今回のガーシーの件では何を出したのか分かりませんが、恐らく報道を見る限り、YouTube等(犯罪)で得た収益が家族の口座などに入っているかもしれない(蓋然性)、キャッシュカードや支払い明細など、お金の流れに関連するものではないでしょうか」

実家にガサ入れしたのは、「YouTubeで暴露するための元ネタとなった資料があるかもしれない」あるいは「家族に重要なUSBなどを預けている」可能性があるからだと言う。日笠弁護士は「大前提として家族に嫌疑があるというわけではないが、ガーシーを守るため証拠隠滅の可能性があるため、家宅捜索(捜索、差し押さえ)を行ったのだろう」と言う。前出の夕刊紙記者が続ける。

「警察は実家にガサ入れする様子をマスコミに撮影させ報道させていますから、ガーシーへのけん制の意味も大きいでしょうね」

要件を満たせば裁判官は「捜索差押許可状」を発布する(Haru photography / PIXTA)

「ガサ入れ」の“範囲”はどう決められる?

通常、ガサ入れの瞬間が報道されるのは、企業犯罪や汚職事件など、社会的影響の大きいものが大半だという。

「強制捜査のプロセスとしては、事前予告はなく、自宅に行って、そこが持ち家だったら、(管理者に)令状を見せ、拒んでも文字通り強制的に室内に入っていきます。まれに説得しても鍵を開けないケースなどがありますが、業者を呼んでカギを壊すこともありますよ。

犯罪者というのは証拠を隠す可能性が高いわけで、属性や犯罪の種類によりますが、(捜査には)密行性と強制力が必要となりますから。ただし、捜査機関が勝手に強制的に捜査を行うというのは人権侵害となりますから、必ず裁判所からの許可状が必要となる訳です。

一方、薬物などの現行犯逮捕の場合は、令状なしで捜索差し押さえができます。普通は逮捕状とガサ状の両方を持っていきますが、逮捕状で逮捕した現場が自宅だとは限らない、例えばホテルに宿泊していて薬物をやっていたことが疑われ、ホテルの部屋もちょっと見ておきましょうとなった場合などは、捜索差し押さえは令状なしでできます」(日笠弁護士)

ガーシー氏は「オカンだけは勘弁してくれ」と泣きついたが、家宅捜索する範囲については、「そこにモノ(証拠)はありそうか、そして任意で出してくれそうか」によって決定されるという。

「被疑者の認否や態度によってもガサ入れの範囲は変わってきます。一概に何親等までなどとは決まっていません。具体的には、検察庁の場合、通常『主任検事』が、チームの検事の意見を取りまとめ、ガサ入れする場所を決め、検察事務官の班分けをして「ガサキャップ」を決め、捜査場所ごとに班を編制します。前日には『ガサレク(打ち合わせ)』によって詳細を決めていきます」(日笠弁護士)

ちなみに、ダンボール箱を持ち出すスーツ姿の捜査員の姿がニュースなどで映し出されるが、あの押収品の行き先は?

「証拠番号を振って、しかるべき鍵のかかる場所に保管されます。傷んでしまうもの(薬物など)は冷蔵庫などに保管されますね。動物の遺体、血が付いた刀なども冷蔵庫で保管することもあります。現金などはさらに厳重に扱います。現場で家主などがいない場合は、立会人(公務員)をつけることもあります」(日笠弁護士)

「ガサ入れ」に事前予告などはないという(Haru / PIXTA)

「国際手配」自体は珍しくはない

さて、改めて今回のガーシー氏の実家への家宅捜索の件を日笠弁護士はどう見ているのか。

「繰り返しになりますが、裁判所の許可がある時点で正当性は担保されています。捜査に協力しない時点で、自業自得と言わざると得ませんね。ただし家宅捜索を、いっぺんには行わず、実家、そして妹宅、旧NHK党事務所、と順番にやっているのは、追い詰めている意図も少し感じられますが…」

一方、殺人を犯した訳でもないのに国際指名手配までが取り沙汰される件に関しては、やはり強い権力が動いているのか。

「著名人の立場を危うくする行為は、直接、身体を傷つけたわけではないですが、それに匹敵するほど守らなければならないレピュテーション(世間からの評判)を犯しているのですから妥当でしょう。また彼は、暴露をこれからも続けていくと豪語しているので、抑止という観点から見ても同様です。

そうした意味で、これまでしてきたことの重大性は大きく、元国会議員でインフルエンサーとしての影響力の強さも鑑みて、正当な手続きを取ったうえで、捜査を行っていると思います。そもそもマスコミが大きくガーシー事案を取り上げているだけで、報道されてなくても国際手配自体はいくらでもあるもので珍しくはありません」

果たしてガーシー氏がお縄となって、強制送還される日はやって来るのだろうかーー。

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