企業の4割が価格転嫁できず 価格転嫁した企業の5割で利益率が低下

 ~ 「コスト上昇・価格転嫁に関するアンケート」調査 ~

  円安やエネルギー価格の上昇などに伴うコスト上昇が、企業業績に影響を広げている。東京商工リサーチが4月初旬に実施したアンケート調査で、調達コストが上昇した企業は87.7%にのぼった。一方、上昇分を販売価格に全く転嫁できていない企業は42.2%を占め、利益率(粗利益率)の低下も深刻さを増している。

 上昇分を一部または全て転嫁できても、粗利率が低下した企業は51.2%と半数を超える。可処分所得が伸びず、消費者は製品・商品やサービスの値上げに苦慮している。その一方で、企業も価格転嫁しても収益悪化が続く構図で、昨今のコスト上昇は消耗戦の様相を呈している。

  • ※本調査は、2023年4月3日~11日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,424社を集計・分析した。
    資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

Q1.原油・原材料価格の高騰によって、調達コスト増加の影響を受けていますか?(択一回答)

すでに「調達コストが増加」は87.7% 

 最多は「影響を受けている」の87.7%(4,424社中、3,884社)だった。「現時点で受けていないが、今後影響が見込まれる」が6.5%(288社)で、合計94.3%の企業が調達コストの増加に言及した。「受けている」、「見込まれている」と回答した企業を業種別(中分類、母数10以上)で分析すると、「金属製品製造業」など28業種で構成比が100%だった。

価格転嫁アンケート

Q2.Q1で「影響を受けている」と回答された方に伺います。原油・原材料の高騰に伴うコスト増のうち、何割を価格転嫁できていますか? 

4割超が「転嫁できていない」

 「転嫁できていない」は42.2%(3,198社中、1,352社)と4割超に達した。一方で、「10割」(全額転嫁)は5.4%(174社)にとどまった。
 規模別では、「転嫁できていない」は大企業が42.7%(337社中、144社)、中小企業は42.2%(2,861社中、1,208社)で大差なかった。
 「転嫁できていない」と回答した企業を業種別(中分類、母数10以上)で分析すると、「医療業」の94.7%(19社中、18社)が最も高い。また、「社会保険・社会福祉・介護事業」は91.6%(12社中、11社)で3番目に構成比が高かった。

価格転嫁アンケート

Q3.Q2で「転嫁できていない」以外の回答をされた方に伺います。転嫁したことによる業績への影響は次のどれですか?(択一回答)

「粗利率低下」が 51.2%

 最も多かったのは、「受注量は変化なく粗利率は低下」の25.6%(1,789社中、458社)だった。粗利率の「低下」を挙げたのは51.2%(917社)にのぼり、「変化なし」は27.8%(498社)だった。「上昇」は20.9%(374社)。
 受注量でみると、「低下」は33.3%(596社)、「変化なし」は53.8%(964社)、「上昇」は12.8%(229社)だった。
 「受注量・粗利率ともに上昇」は2.9%(52社)と少数にとどまった。

価格転嫁アンケート

 原油・原材料価格の高騰で、調達コストが上昇した企業は87.7%にのぼった。見込みも加味すると94.3%に達し、激変する外部環境は経営を大きく揺さぶっている。
 こうした状況下で、コスト上昇分を全く転嫁できていないと回答した企業は42.2%にのぼる。3月の企業物価指数は前年同月比7.2%上昇し、25カ月連続でプラスとなった。鈍化傾向にはあるが、依然として上昇率は高く、価格転嫁は経営上の大きな課題になっている。
 「転嫁できていない」と回答した企業の業種別は、「医療業」や「社会保険・社会福祉・介護事業」で9割を超えた。公定価格に左右される傾向が強く、急激な物価変動に対応するのは難しいようだ。
 また、「不動産賃貸業・管理業」や商品検査や建築設計などの「技術サービス業」、「広告業」など、扱い品の原価を可視化しにくい業種でも比率が高かった。
 一方、一部または全て価格転嫁できても、粗利率の低下に直面する企業は51.2%に達する。粗利率が低下した企業の業種別分析(中分類、母数10以上)は、ビルメンテナンスや警備などを含む「その他の事業サービス業」が70.5%、「機械器具小売業」は66.6%、「繊維・衣服等卸売業」は65.2%に達した。利幅が縮小するなか、為替差損や取引先への焦付など、イレギュラーな損失が重なると致命傷になりかねない。賃上げ機運の高まりに対応できず、採用が困難になったり、人材流出の恐れも出てくる。

 「繊維・衣服等卸売業」は、価格転嫁による「受注量低下」を訴える企業の割合が52.1%と半数を超え、全業種中、2番目に高い。また、「印刷・同関連業」も「粗利率低下」と「受注量低下」の双方で上位にランクしている。こうした業種は、現在のコスト上昇による経営への影響が他業種より大きく、支援策や金融機関、取引先の動向次第では破たんに至る恐れがある。
 経営を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、細かい粒度での定期的な状況把握が重要になっている。

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