備前焼竹宝堂 ~ 日本特有の美が宿る備前焼の道具

倉敷美観地区の本通りにある「竹宝堂」は、備前焼の道具を扱うお店です。

岡山の伝統工芸品である備前焼は、赤茶色の落ち着いた色合いと、素朴でシンプルな美しさが特徴的。

岡山県外の人にとっては、もしかしたらあまり馴染みがないものかもしれません。

「陶器」や「器」ではなく「道具」。こう呼ぶのには理由があります。

  • 備前焼の魅力とは?
  • 生活の中に備前焼を取り入れる意義とは?

竹宝堂の店主さんから興味深いお話が伺えましたよ。備前焼をお土産や贈り物にしてみてはいかがでしょうか?

自然が作り出す備前焼の模様

まずは備前焼について簡単に知っておくと、このあとのインタビューの内容がより深く理解できると思います。

備前焼は日本六古窯(ろっこよう)の一つ

六古窯:中世から続く代表的な窯業地のこと。備前の他、瀬戸、常滑、越前、信楽、丹波が該当。

釉薬(ゆうやく)を使わない

釉薬:うわぐすりとも呼ばれ、光沢を出したり色を付けるために使われる。

釉薬を使わない備前焼は、焼き加減や土に含まれる金属成分等によって、土そのものの色合いが変化します。

炎の強さや当たり方という自然の力を生かして、模様を作り出しているのです。

作品を藁(わら)で巻いたり、緩衝材を置くことで意図的に模様を付けることもありますよ。

備前焼竹宝堂の店主にインタビュー

店主の宇野孝重さんにお話を伺いました。

インタビューは2019年1月の初回取材時に行った内容を掲載しています。

倉敷の特産である竹は重要なアイテム

──いつからお店をされているのでしょうか。

宇野────

昭和62年(1987年)、瀬戸大橋開通直前ぐらいからです。

──お店の名前の由来を教えてください。

宇野────

竹宝堂とは、竹の宝のお堂のことです。

私たちにとって竹は大事なアイテムです。倉敷の特産であり、道具の見立てにもなっています。

──見立てというのは?

宇野────

例えば、そこに竹がある、ということです。

──うーん、難しいですね……!竹に見立てるということでしょうか?道具とおっしゃっているのは、華道や茶道で使うもののことですね。

宇野──

そうです。そこにある花入れ(花器)を見てください。底の形が竹になっているんですよ。

水瓶や袋、大根株を見立てたもの、さらには人間のかたちをしたものもあります。

宇野──

(華道や茶道では)これらがアイテム、要素になります。

ここに竹林がある、富士山がある、自然があるということを表しています。

──なるほど。

宇野──

見立てとは現象以上の広がりを持つことです。京都のお寺なんかにある方丈がそうですね。

小さな空間の中に秋や春の景色を作る。そして(実際にはそこになくても)見る人に想起させるのです。

人によって見え方が違うのが備前焼の魅力

──備前焼のよさは何でしょうか。

宇野────

いろんな模様があって遊びがありますね。朝日や夕日の見立てにもなります。

ヒマワリの絵を思い浮かべてみてください。絵の中でヒマワリはヒマワリでしかない。それ以外の何物にもなり得ない。

──備前焼の模様は、人によってさまざまなものに見えるわけですね。

宇野────

いい悪いではないんです。何を思うのも自由。思い巡らすことに価値があるんですよ。

備前焼を贈り物にするなら?店主が教える背伸びの仕方

──備前焼を贈り物にするのであれば、どんなものがいいでしょうか。

宇野────

親戚だったり友人だったり、相手との関係性によりますね。

広く無難にということであれば、花入れでしょう。

──花瓶などの花器、ということでしょうか。ちょっと選びにくいようにも感じますが。

宇野────

花入れを贈ることで、相手も自分も持ち上げることができるんですよ。

相手が花をされる(飾ったり生けたりする)だろうと思って贈る。

──確かにそう思われて悪い気はしませんね。

宇野────

相手は花入れを選んだあなたのことを、きっと花をする人だろうと思うわけです。だから、自分自身を持ち上げることにもなるんです。

一つの背伸びの仕方ですね。

──花をたしなむ余裕や品があるのだとお互いに思わせるわけですね。大人の駆け引きのような。考えてみたこともなかったです。

備前焼を初めて買う、初心者に向けたアドバイスはありますか?

宇野────

そうですね。やはり花入れ、壺や置物を生活の中に取り入れてみてはどうでしょうか。

ぜひ道具に触れる時間を作ってほしいですね。男女かかわりなく。

宇野──
床の間やお座敷に季節ごとの花や置物を飾っていれば、その姿を身近で見ている家族にも、この人はそういう生活を大事にする人なんだなと伝わります

──口に出さずとも、周りの人が自然に美意識を学ぶことができるんですね。

民藝運動と大原家のかかわり。美観地区で伝えていきたいこと

──焼き物というと、お皿や湯飲みのように日常の食卓で使うイメージが大きかったのですが、もともとは道具として作られていたわけですね。

宇野────

戦前は備前焼のカップなんてなかったですからね。

宇野────

(観賞の対象だった)工芸品が大衆化し始めたのは民藝運動の頃から。「用の美」とも言われますね。

民藝運動:柳宗悦(やなぎ むねよし)らが提唱。民藝を守り、広めていくこと。「民藝(民芸)」は柳による造語で、職人の手仕事で作られた民衆的工芸を指す。

用の美:民衆が使う日常品に美が宿るということ。

民藝の歴史や魅力を倉敷民藝館の記事で解説しています。

当時の民藝運動に倉敷の大原家もかかわっているんですよ。伝統工芸を守るために金銭的支援をしたのが大原さんです。

美観地区で商売を続けることは、大原家への敬意を持ち、功績を発信したいという思いがあります。

おわりに

店主の宇野さんのお話は、便利な現代生活にどっぷりとはまってしまっている私にとって、非常に新鮮なものでした。

「だからといって今の若い人は知らないよね」と、否定するようなことは言われなかったです。

何かを押し付けるわけではなく、こうしてみては?というあくまで提案を話してくださったのが印象的でした。

伝統を大事にするということは、守るためにしがみつくのではなく、忘れないでいること。心に留めておいて、いいと思ったものをふと思い出したときに取り入れてみる。

そのぐらいの軽さと柔軟さを持って残していけばいいのではないでしょうか。

道具の知識や作法など、難しいことは必要ありません。ぜひ一度店頭に並べられた備前焼を見てみてください。

その体験が備前焼を知るきっかけの一つになればうれしいです。

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