“キルスイッチ事件”に続き無線が故障。危機乗り越えLMP2優勝の17歳ピアソン「レースは精神的なゲーム」/WEC第2戦

 ユナイテッド・オートスポーツのジョシュ・ピアソンは、WEC世界耐久選手権第2戦ポルティマオ6時間レースでLMP2クラス優勝を果たし、開幕戦で味わった失意のどん底から立ち直ることができたことを喜んだ。

 オリバー・ジャービス、そしてIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権への出場を優先したトム・ブロムクビストの代役であるギド・バン・デル・ガルデと組んで23号車オレカ07・ギブソンをドライブしたピアソンは、ポルトガルのアルガルベ国際サーキットで行われた6時間レースを制覇。ユナイテッドは22号車が2位に入り、ワン・ツー・フィニッシュを達成することとなった。

 この結果は、3月の第1戦セブリング1000マイルで、車載カメラの緩みからキルスイッチが作動し、トップ走行中にリタイアしたピアソンと23号車の運勢を大きく好転させるものとなった。

 フロリダでの不運の後、ポルトガルで得た結果は挫折から立ち直るための最良の方法だったと17歳のピアソンは述べている。

「今年のスタートは荒れ模様だったね。そうとしか言いようがない」とピアソンは語った。

「セブリングでは不運にもリタイアとなってしまったが、本当にどうしようもないことだった。圧倒的にリードしていたし、クルマも調子が良かっただけに、本当につらい出来事だった」

「僕らは素晴らしいクルマを手にしていたし、ユナイテッド・オートスポーツのみんなには感謝している」

「セブリングでは本当に悔しい思いをしたが、そこから立ち直るには表彰台の頂点に立つことが一番だ。だから、とてもとても興奮しているし、関わってくれたみんなにとって幸せなことだった」

「僕個人としてはここまで、最高の年ではなかったが、ついに(今季)初優勝を飾ることができた。次戦に向け、大きな自信になったよ」

 ピアソンは、セブリングでの出来事が精神的に影響を及ぼしたことを認め、とくにWECレースの翌日にはIMSAのセブリング12時間レースもリタイアしたことを念頭に、こう続けた。

「セブリングでは本当にがっかりしたし、あのイベントからはうなだれながら帰ってきたんだ」

「スーパーセブリングのイベント全体は、僕にとって本当に残念なもので、それが僕の精神状態に影響を与えたと思う」

「レースは精神的なゲームであり、いかにして立ち直るかが重要なんだ。僕は自分に言い聞かせたよ。『次のレースに勝って、それを続けるために、できる限りプッシュするつもりだ』とね」

「だから、ユナイテッド・オートスポーツのみんなにとっても、僕らにとっても、本当にうれしく思っている」

「(第3戦)スパではトムにもいい形で復帰してもらわないとね」

フィニッシュ後、ピットロードでジャービスのドライブする23号車を迎えるバン・デル・ガルデとピアソン

■無線が故障し、ピットストップでは混乱も

 ポルティマオのレース後半、バン・デル・ガルデがステアリングを握る23号車の無線が故障し、ユナイテッドの優勝は危うく遠のくところだった。

 当初は3スティントを予定していたが、トラブルが発生したため、短縮されたとバン・デル・ガルデは語っている。

「コミュニケーションができなくなり、チームはその原因が僕のヘルメットにあると考えた。そのため、オリー(ジャービス)に交代することになったんだ」とバン・デル・ガルデ。

 このため、23号車のピットストップは混乱した。

 バン・デル・ガルデはマシンを停止させ、必死にジェスチャーでチームに問題を伝えようとしたが、チームは先のピットストップ違反による5秒加算のペナルティを消化する必要があったため、最初の5秒間、メカニックたちはマシンから距離を置いていた。

 その後、ジャービスがコックピットに駆けつけ、予定外のドライバー交代が行われたのだが、その際、バン・デル・ガルデがチーム関係者に無線機の不具合を訴える声が放送された。

 このドライバー交代の後になって、問題はバン・デル・ガルデのヘルメットにあるのではなく、車両側にあることが判明する。

「ギドがピットに入ってくる30秒前に、準備せよとの連絡があったんだ」とジャービス。

「僕はマシンに飛び乗ったけど、残念ながら、マシン側の無線に問題があった。だから、チームと僕はサインボードを通じてコミュニケーションを取ることに全力を尽くした」

「いろいろと自分で考えるしかなかったけど、なんとかうまくいったよ」

 すでに自身のスティントを終えていたピアソンは、ガレージからその一部始終を眺めていた。

「確かに、ちょっと緊張したね」とピアソン。

「特に、ギドが車に乗っていて、突然(チームが)『ボックス(ピットイン)』と言ったとき、『よし、ここが(カギになるピット)ストップだ』と思ったんだ」

「ペナルティを受けなければいけないことは分かっていたからね。だからピットインの指示が(無線で)あったのに彼がストレートを通り過ぎてしまったときは、チームの皆が少しナーバスになった」

「間に合うのか? 燃料は足りているのか? でも、彼は正しいことをしてくれた」

「彼はダッシュボードで充分な燃料があることを確認し、マシンを無事にピットへ戻してくれた。そして、最終的には、それを活かして勝利を手にすることができたんだ」

2023年WEC第2戦のLMP2クラスでワン・ツー・フィニッシュを飾ったユナイテッド・オートスポーツ

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